3-31. 日乃本の海賊王②
対して、瀬戸内海。
そこでは鬼神と武神の争いが繰り広げられていた。
「この人、とってもとっても強いです!」
「負けないぞー!」
「チビちゃんたちの強さは立花殿直伝かっ! こりゃ私も油断できんな」
陽光を反射する海。
キラキラと目に眩しい。
波も高くなく、風も穏やか。
焙烙も飛んでいない平穏な世界。
しかし、あくまで海は、の話である。
「高橋紹運に立花誾千代! 大友家の将は化け物揃いだなあ、おい!」
「私はまだまだ認めてもらえていないのです!」
「あたいもー」
「それはそれで恐ろしいわっ!」
激しく打ち合う。
激しく突きあう。
唸る木刀が軋みを上げる。
紹運は小柄ながら自身よりも数十センチ高い巨躯の上半身を攻め立てる。
木刀の長さは紹運の体長に合わせてそこまで長くない。
けれども、その刀の伸びは異常の一言。
まるで眼前で巨大化するような烈昴の一振りが『村上武吉』を襲う!
そして、誾千代は紹運よりも更に小さい体。
けれども、その分小回りが利き、そして何より槍というリーチの長さを持っていた。
武吉の眼前に迫る凶刃とは別に、下半身を流星が如き一撃で穿つ。
普段からド突きあっている二人。
その姿は母親たちと瓜二つ。
鑑理と道雪ほどではないにしろ、それでもお互いの癖ぐらい、とうの昔に把握している!
個人の武。
それは技量と精神力に左右されるだろう。
では、二人の武は?
お互いへの信頼によって裏打ちされている!
その姿は正しく、大友家のゴールデンコンビの再来。
鑑理と道雪の背を負う娘たちだからこそのコンビネーション!
「ほんとに厄介なチビちゃんだっ!」
「そんなにそんなに小さくないと思うんですがっ」
「あたいは小さくても良いかなあ」
「え、どうしてどうして?」
「だっておにぃに抱いてもらえるし!」
「それはそれはズルいと思うの!?」
「……私相手に余裕かましすぎじゃね?」
じゃれ合うように舞う女児二人。
その剣の冴えもさることながら、精神力の幼さが戦場において無類の強さを発揮する。
将として戦場に立つならば、兵を鼓舞し己を律し。
加えて展開を見抜く洞察力なども必要だろう。
だが、こと武芸にのみ関して言えば。
彼女たちは正しく武神であった。
その二人を相手にする村上武吉。
彼女の実力は如何ほどか。
語る必要もないだろう。
武神二人を同時に相手し、かつ会話を繰り広げているのだ。
武吉の武器は『拳』。
木刀と槍相手に、手甲で包まれた己が拳を打ち付ける。
弾く、流す、突き崩す。
スタイルは拳闘士。
中々にお目にかかる事のない、珍しい戦闘方法。
女児二人が攻め切れていないのも、間合いの取り方が全く未知の領域だからだ。
「私は”業持ち”じゃないからな」
「私も”業”は、何にも何にもないのです」
「母だけズルいよね。あたいもないんだー」
「なら」
一拍の間をおいて。
武吉は木刀と槍を左右の拳でそれぞれ弾く。
「”力”が全てって事だよなあっ!」
武吉が踏み込む。
縮地!
瞬きすら許さない。
その足は船を砕き、両の拳は弾丸と化す。
まだ体が出来上がっていない紹運と誾千代。
二人に対して山と言える大きさの体躯を、武吉は”力”で押し進めた。
「罷り通る!」
「絶対絶対!」
「させないっての!」
無理矢理に得物を薙ぎ払われた二人。
ここで体勢を崩されていても、次の攻撃へと繋げる動きになる。
型?
違う。
才能?
違う。
すなわち、不測の事態に対する積み上げてきた経験!
「これしきの事、私は私はへこたれませんとも!」
「大友家の御師匠様は、これくらい普通にやるんだーっ!」
すなわち、道雪!
彼女の扱きが普通ではなかった事が薄っすらと垣間見えた。
爆発!
いや、衝突だ。
しかし、その勢いは砲弾の如く。
武吉の拳を迎え撃った二条の光線。
渾身の一撃を交差させ。
――武吉の拳には紹運の鉢巻きが。
「あぅう、どうしてどうして私だけ……」
紹運がガックリと項垂れる。
「ま、これが実力だよねー!」
反して得意気なのは誾千代だ。
「全く、とんでもないチビちゃんたちだな」
構えを解いた武吉は振り返り苦笑い。
「あんた達の勝ちだよ。ったく、悔しいなあ、おい」
「へっへーーーん!!」
ドヤ顔で槍をフリフリ。
誾千代の持つ槍の穂先では、武吉の鉄の家紋がクルクルと回っていた。
「……これで勝負あり、とね」
スッと前に出たのは義長。
緊張を顔に滲ませながらも、毅然とした態度で臨む。
晴賢と元春が未だにダウンしている現状。
武吉が討ち取られたのならば勝負は決まった。
「残る大将は吉川殿一人たい」
「そうだね、あーしだけだ」
元春は笑う。
その顔はどこかスッキリとしたものだった。
「あー、負けた負けた!」
今にも沈みそうな船の上。
ゴロンと寝転がり、元春は蒼天を見上げる。
「空が綺麗だねえ」
「そうだな、お嬢」
「お嬢言うなし」
フフッと二人は笑い合う。
「じゃ、あーしの役目はあと一つだ」
「あと、一つと?」
怪訝な声で問ひ返す義長に元春はニヤリ。
「決まってるっしょ。このまま船でーー多々良浜だし!」




