3-30. 同じ戦でもこんなに違う
「決め顔で名乗りを上げてるところ悪いけれど、忘れていないでしょうね、義久!」
ようやっと動き始めた月山富田の方の『戦』。
けれども、一人の女性によって再びその歯車は狂い始めていた。
「てめえに呼び捨てにされる謂れはねえぞ、義隆」
「私を呼び捨てにするならば、呼び捨てにされる覚悟を持ちなさい」
「格好良い事言ってるつもりだろうが、何も上手い事言えてねえからな?」
「黙らっしゃい!」
「義隆さん、本題がズレてるよ、本題」
「いけない、あやうく流されるところだったわ。ありがとう、隆元」
「俺のせいじゃねえだろ、おい」
「今回の『団体戦:長蛇』で得た兵力を輝弘に譲るのよ! よろしくて!?」
「分かってるって言ってんだろ」
義久はどこか諦めた顔だった。
どのタイミングで約束したのか定かではない。
また、義隆は何も兵力を集め再起を図ろうとしてる訳でもなかった。
『大内輝弘』と『毛利輝元』。
二人の男子を守る私設兵団を構えたいと考えていたのだ。
そして、その軍団を率いるのは、看板アイドルである大内輝弘こそが相応しいとも。
宗麟はスペシャルゲストであって所属アイドルとは違うようだ。
そもそも、宗麟には勝手にSPが着くだろう。
義隆のその考え自体は間違っていない。
世の中の女性を誰よりも警戒しているのは、絢爛なる宴で遊び回っていた過去を持つ大内義隆だからこそだ。
その熱意溢れる弁論が面倒――納得した義久が権利を一部譲渡する約束を交わしたのである。
「えー」
「何で私たちが」
「義久様の手駒なら喜んでなるのに」
「命賭けられるのに」
「豚呼ばわりでも良いのに」
「むしろご褒美なのに」
「変態は黙るがよろしくてよ!」
義隆一喝。
学もなければ調協性もない。
あるのは男子に対する異様な熱意、ただ一つ。
そんな烏合の衆を与えられたとしても、普通ならば混沌しか訪れないだろう。
だがしかし!
弁舌を振るうは欲望の権化『大内義隆』。
湯水のように大金を使い、世の贅沢と狂瀾を知る痴将。
彼女が陣頭に立つとあら不思議。
「輝弘の指揮の下で戦い功一等を上げた者には――これを与えるわ!」
「「「そ、それはっ!?」」」
「汗だくの義久が額を拭った手拭いよ!!」
「「「何成りとご命令を、将軍閣下!!」」」
「くっそぉぉぉぉおおおお! ここには変態しかいないのかっ!?」
「わあ、義隆さんすごーい!」
「この統率力、侮れませんね」
「隆元殿も鹿介も感心してるんじゃねえ!?」
「あらあら。お母さんも頑張らなきゃね」
「義母様は何を言っているんだ……?」
混迷の大地が顕現する。
入り乱れるは二勢力、のはず。
「ボ、ボクは……」
「隆景ちゃん、頭がこんがらがっているだろうけど、とりあえずお姉ちゃんがいるからね」
「これほど頼りにならない援軍もあるんだね」
「こういう時くらい素直になっても良いと思うの!?」
「あらあら。お母さんは義久の味方よ?」
「認めねえ! 俺の持ち物を売る母なんぞ、俺は認めねえぞ!?」
「これが反抗期かしら……」
「晴久様。恐らく違います」
「そうなの、鹿介?」
「私は尼子の味方よ!」
「義隆は敵だっ!」
「何よ、素直じゃないわね。可愛くないわよ?」
「俺は別に可愛くなりたくなんてねえ!」
「大丈夫よ。義久は可愛いわ」
「晴久様、ややこしくなるので……」
「あらあら?」
「もう、いい加減にしてくれぇぇぇええええ!?」
隆景の悲鳴が虚空に響いた。
こちらの戦はグダグダっぷりが加速する。
「それでは輝弘たち、やーっておしまいなさい! 突、撃!!」
「へ?」
呆けた声は今まで空気だった輝弘と、
「は?」
振り回されている隆景。
そして、
「「「私が功一等じゃぁぁぁぁああああ!!」」」
暴徒のような大津波が隆景に押し寄せる!
指揮をとるのが輝弘という話はどこへ行ったのか。
「ぎゃぁぁぁああああ!?」
隆景は戦場から逃げ出した。
戦を見守る巫部たちも、これには口をあんぐり。
勝敗は、
「敵前逃亡で尼子の勝利。よろしいかしら?」
「あ、はい」
「どうしてボクがこんな目にぃぃぃいいい!?」
逃げ込む先は――多々良浜!




