3-14. 毛利隆元P
「良い話だなあ~~~!」
隆元は溢れ出る涙を止められない。
宗麟が繫いだ絆に感無量である。
「隆元ちゃん、どっか痛いの?」
「ううん、輝元。大丈夫だよ。お姉ちゃん感動しちゃったんだ」
「ふーん?」
そして、この場には輝弘が連れてきた信頼できる人『毛利輝元』もいた。
義隆に対して、当初は男子二人という驚異の環境である。
まさかの人選に義隆も仰天。
しかし、輝弘がそれ良いと判断したのなら、彼女から否やと言うつもりもなかった。
(私は宗麟様一筋、私は生まれ変わったのよ、宗麟様が待っているぅ!!)
と念仏のように心中で宗麟宗麟叫んでいた。
義隆と輝弘が話せる事柄で、お互いに熱く語れる人など大友宗麟ただ一人。
むしろ、話題は一択!
激しくヒートアップする内容は廊下にまで響いていた。
そこへ通りがかったのが毛利隆元である。
「でも、私がお邪魔しても大丈夫だったの? 一応、私は毛利の人間だし……」
「別に良いわよ。貴女からは、何ていうか、人畜無害な空気が漏れてるわ」
「人畜無害……」
「隆元殿は、その、草食系? のような気がします」
「草食系……」
「隆元ちゃんは、他の人よりも変な目でテル君を見ないの。あと、ナヨナヨしてて面白い!」
「ナヨナヨ……」
評価が微妙過ぎた。
「ところで、貴方はどうしてこちらに?」
隆元の乾いた笑いを無視して義隆は話を続ける。
「そうだった! 私、宗麟様と会ってきたの!」
「”様”……? ほう、詳しく聞かせてもらいましょうか」
「ええ、ええ! 二人には是非!」
そこからが長かった。
やれ、どこが素晴らしい。
やれ、どこが綺麗。
やれ、どこが格好いい。
やれ、どこが優しい。
……etc。
一人の人物でここまで話題が尽きないのも凄い。
宗麟がこの場にいたら、きっと頭を抱えていただろう。
そして、
「そう! 私も思っていたのよ! 宗麟様を讃える『組織』が必要なのではないかと!!」
「義隆さん! 貴女なら分かってくれると思ってた!」
「そうでしょう、そうでしょう! でも、私の野望はそれで終わらないわ!」
「なんと!? で、では、その先の、その先の楽園は何?!」
「ふふ……。宗麟様は遍く人々へ愛を説くわ」
「うん、既に南蛮の宣教師すら虜にしておられたし」
「けれども、宗麟様一人ではその手の届く範囲にも限界があるわ。何より、世の男性に対して希望を持たせるのが急務!!」
「……貴女、本当に義隆様ですか? 随分と様変わりされたのですね」
「そうよ、輝弘! 私は変わったわ! そして、これから貴方も変わるのよ!」
「え!? 私ですか!?」
「そう、私は考えた! 考えて、考えて、そして閃いた!」
緊張の輝弘。
興奮の隆元。
欠伸の輝元。
義隆は一同をグルリと見渡すと、
「男性のみで構成された『芸者集団』を作るのよ! そして、全国各地で女性に『愛』を伝える!!」
力強い宣言。
周囲はポカーンだ。
「つまり……?」
代表して、隆元が問いかける。
「ふう、まだ分からないの? いいわ、詳しく教えてあげる」
義隆はやれやれと首を竦めた。
少しイラっとする。
そんなところは相変わらずの義隆だ。
「男性はずっと御家の奥で隠されてきた。これを敢えて外で活動させるの」
「そ、そんな事したら大変だよ!?」
「最後まで聞きなさいな! いい? 女性は男性に対して過度な欲望を持っているわ。それは男性と隔離されている環境があるからこそよ」
「まあ、確かにそうですね。大友家の方々は宗麟殿と頻繁にお会いするからこその結束がありました」
「そうよ、輝弘! 良い着眼点ね!」
「きょ、恐縮です……?」
「では、御触り厳禁、一定の距離を保ち、私たちが警備にあたる『男性の芸者』がいたら……どうなると思う?」
「絶対に会いに行く! ……でもお高いんでしょう?」
「ところがどっこい! これを安く、もしくは無料にするわ!!」
「えええぇぇぇ!?」
この時代、芸者は一部裕福な御家にしか呼ばれない。
また、その芸者も女だ。
そのため、この「男が芸者をする」という義隆の発想は革新的であった。
さらに、これが無料!
大量の女性たちが押し寄せるに決まっている。
「始めは一定数の観客に操作するために、有料にするわ! でも、最終的な目的は、宗麟様の『愛』を伝える事よ!」
「そうか!」
輝弘が手を打つ。
顔はだんだんと輝いてきた。
「男性が表に立てる世界!」
「なるほど! 男が政治道具ではなく、女性よりも活躍できる舞台があると世に知らしめる!」
「輝弘、隆元。よくやく分かってきたじゃない!」
「義隆さん、本当に天才かも!?」
「もっと褒めても良くってよぉー!!」
今にも高笑いしそうな義隆だ。
彼女史上、最高に輝いているかもしれない。
「そして、その第一弾としてぇ!!」
ズビシ!
「輝弘と輝元に舞台へ立ってもらうわ!!」
「私ぃ!?」
「ほぇ……?」
「広告も毛利家にバレないよう、秘密裏に打たなくてはね! 名前もあった方が良いかしら? そうねえ……」
「輝弘君と輝元だから、”輝輝”とか?」
「その案もらったわ、隆元!」
「あ、そうだ!」
突如大声を上げたのは隆元。
「宗麟様から書状を預かってたんだった。輝弘君に渡してって」
「私、ですか?」
「貴女、どうしてそんな大事な事を忘れているのよ!?」
「だって宗麟様のお話するの楽しかったんだもん……」
「くっ、それは確かに分かるわ……!」
輝弘は急速に仲良くなっていく二人を眺めて苦笑。
手元の書状を広げると、早速内容を確かめる。
「……義隆様、隆元殿」
「何よ?」
「何かな?」
「早速、最初の舞台の場所が決まったようです」
「「えっ!?」」
「場所は……周防! 出雲の尼子家に呼応して、毛利軍の後方攪乱を狙います!!」
こうして。
日乃本における初のアイドルユニット『輝輝坊主』が誕生する。
初回講演は、そのあまりの熱狂ぶりから『大内輝弘の乱』として伝説で語られるほど。
宗麟における『天下布愛』事業を十年早めたと言われるこのアイドル活動は、後の情勢に大きな影響を与える事となるのだった。
そして、西欧諸国から多くの物と情報が入ってくるこの時代。
義隆と隆元はこう呼ばれるのだ。
――『P』、と。




