3-13. 大内義隆Pと
――宗麟を篭絡せよ。
母・毛利元就からそう命を受けて豊後まで行っていた隆元。
会いに行ってみるまでは不安で一杯の彼女だった。
この時代、男性に対してガツガツしていないのも珍しく、義弟の『毛利輝元』ともそれなりに仲が良い。
そんな彼女が毛利家の中で最も適任者だというのは、あながち間違いでもなかった。
ただ、
「はあ、宗麟様、ふつくしい……」
隆元の男性耐性があまりなかっただけだ。
割と凡ミスである。
豊後で宗麟と面会を果たし、そのまま会談。
丸め込むどころか丸め込まれて帰ってきた彼女である。
これまでは母や妹たちの顔色を窺ってばかりだったが、今や完璧に宗麟へお熱。
ホストに入れ込んだ女性のようだ。
そこまで外れていない例えであるところが恐ろしい。
タイミングは重なるもの。
彼女が赴いた時に、『フランシスコ・ザビエル』がいた事も事態に拍車を掛けた。
「南蛮には『聖歌隊』という主を讃える部隊があるって聞いたし、何か宗麟様を讃える部隊が欲しいなあ……」
今まで御家の中で鬱屈していた隆元。
宗麟という新たな星に欲望が弾けた。
完全に推しに対するファンのそれである。
全く外れていない例えであるところが恐ろしい。
「はあ、なんで毛利家ってこんな殺伐としてるんだろう」
隆元の性格としては、大友家や尼子家の感性が近い。
上昇志向と他者を蹴落とす事に全精力を賭けている毛利家は、彼女にとって中々に居心地の悪い場所だった。
実家とは言え、家族とそこまで仲が良くなかったのだ。
宗麟が聞いたら悲しそうな顔をしそうである。
「はあ、また皆のご機嫌を伺う日々かあ……ん?」
宗麟の母・大友義鑑に負けず劣らず普通の女性、毛利隆元。
いや、ツッコミもボケもできない点では、ある意味で平凡オブ平凡。
キングオブ平凡だ。
キングボンヘーだ。
なお、鑑速は影が薄いだけで能力は優秀なため、この場では除く。
そんな彼女だが、昨今は宗麟によって新たな運命(?)に目覚めようとしていた。
そして、本日。
彼女は、遂に天命と出会う!
「輝弘! 違うわ! 宗麟様は、例えるなら”海”よ!」
「義隆様! 違います! 宗麟殿は、例えるなら”山”です!」
△▼△
『大内義隆』は暇を持て余していた。
晴賢たちから逃げてきたはいいものの、毛利家は義隆をまるで相手にしなかったのだ。
当然である。
毛利家にとっては、ただ大義名分が欲しかっただけ。
一度大内家と戦端を開いた後の義隆など、ただの邪魔者に過ぎない。
そんな彼女は、家中でも空気のように扱われていた。
今までは贅沢三昧の日々を送っていた義隆。
宗麟の言葉で目が覚めたは良い。
そこまでは良い。
しかし、そこから具体的にどうすれば良いか。
毛利家に居候している身で何ができるか。
彼女にはさっぱり分からなかった。
そんな時である。
彼女は『大内輝弘』と再会した。
「輝弘……。その、久しぶり、ね?」
「……」
ぎこちない笑顔を浮かべる義隆。
輝弘は顔を強張らせるも、逃げはしなかった。
宗麟の影響だろう。
今までは義隆に逆らう事なく、全てを受け入れて心を殺していた。
けれども、それだけでは駄目だと。
それだけでは、何も変わらないと。
男でも、自ら動く事で世界は変えられるのだと。
そう示してくれたのは、紛れもなく宗麟だった。
輝弘にとって、宗麟はヒーローだ。
光の当たる事のなかった闇から掬い上げてくれた仏だ。
地獄に垂れてきた蜘蛛の糸だ。
さながら気分はカンダタ。
別に輝弘は罪人ではないのだが。
気分的にはそんな感じ。
ならば、
「私は貴女を許す事など出来ません」
「うっ!」
義隆は顔を引きつらせ半歩後ずさる。
「ただし、これからの貴女なら許せます」
「え?」
「宗麟殿は仰いました。待っている、と。私も待ちます。貴女が変わるのを」
足が震える。
拳を握る。
顔は強張る。
輝弘は、人生一で緊張していた。
心持ちとしては「言ってやったぜ!」だろうか。
「輝弘……」
義隆は目を潤ませる。
何か道が示された気がした。
どうすれば良いか分からなかった彼女にとって、宗麟の言葉は導だ。
さらに今、輝弘の言葉で道ができた。
輝弘の中に、宗麟が見えた気がした。
「であれば、私はまず、貴方との関係を修復するところから始めるべきね」
「え?」
次に驚いたのは輝弘だ。
「私と二人っきりなど無理でしょうから、どなたか信頼できる方を連れてらっしゃいな。まずはお話でもしてみましょう」
自信過剰なところは相変わらず。
それでも、義隆としては精一杯の誠意を見せたつもりだった。
他者から見ればどう映るか。
そこではない。
輝弘にとってどう映るか。
今、この場で、重要なのはその一点。
「……分かりました」
輝弘はぎこちない笑みを浮かべた。




