“彩花衆(ラフレシア)”、アオルタより去る
長い事情聴取も終了し、シーリングはアオルタ警察署の取調室から出ようとすると、鷲鼻をした刑事がわざわざ駈けてきて扉を開けた。取り調べにあたった刑事なのだが、初めはひどく尊大な態度ではあった。しかし、シーリングが“黒の国”のクロノス銀行の銀行員だと判明すると、途端に腰が低くなり、ご苦労様でしたなあというねぎらいの言葉も気味が悪いくらいに愛想がよくなった。
「こちらで車を手配しますから、ロビーで少々待っていてください。ホテルまで送りますよ」
「ホテルではなくて、アオルタ港までお願いしたいな。昨晩帰る予定だったから、秘書を通じて荷物はすでに船に届けてもらっているんだ」
シーリングはあくびを噛み殺しながら刑事に言った。
秘書とは船で待機しているリーマ・クリックのことで、事件直後に警察を通じて荷物を他の船に移してもらっているはずだった。
時計を見ると時計の針は朝4時を指している。ベリアルが倒されてからずっと警察の見分や事情聴取に付き合わされていたから、一睡もしていない。戦闘での疲れもあるし、体がどことなくふらつき、瞼が重くなるのも当然なはずだった。だが、シーリングは弱さや醜態を他人に見せることを嫌うので、見た目は紳士然とした態度を崩さない。
「わかりました。ほらほらアフロ君、起きなさい。港までの車ね、さっそく用意しなさいよ」
鷲鼻の刑事は、取り調べ中、ずっと居眠りしていた口ひげにアフロヘアの刑事を起こすと、部屋から追い払うように車の用意をさせに向かわせた。シーリングはその刑事の背中を見送っていたので、それに気づいた鷲鼻の刑事が、誤魔化すように「まだ若いもんで。ワハハ」と意味不明な笑い声をあげてロビーへと向かわせたのだった。
ロビーまでは一本道なので案内など必要とせず、シーリングは陰気な廊下を黙々と歩いていた。早朝というにはまだ早すぎる署内は人が少ないせいか、不気味に静まり返っている。考えることは山積していたが、取り調べから解放されて気が緩んだのだろう。強い眠気が急に襲ってきて何もかもが億劫で、あまり考えがまとまらない。疲れているなとシーリングは目を揉んだ。
「おや、銀行員さん」
途中の扉が開き、中から出てきたのはアルという探偵だった。扉の表札には「会計課」と記載されていたが、場所がなかったのかそこを取調室代わりにしたようだった。
「そちらもようやく終わりですか。大変でしたなあ」
「いや、君たちのおかげで助かったよ。まさか、あんなことになるとはね」
「館長さんと召喚士さん、気の毒でしたね」
「本当に残念だよ」
シーリングは口をつぐむと、アルは神妙な面持ちのまま脱いだ帽子を使って先をうながした。アルという探偵には、自分が自責の念に駆られた男として映っているはずだった。二人はそのまま、無言でロビーに向かった。
警察署のロビーもやはり人が少なく、数名の警察官が何事か机に向かって書類を書いている姿が見えたが、どの顔も暗く、夜勤明けで疲れ切っているようだった。受付カウンターの正面に、来客用のベンチが並んでいて、その一角で男女が寄り添って寝息を立てている。
アルやシーリングとともに、警察署に呼ばれたトウマとアリサで、先に取り調べを終えていたらしい。二人の寝姿にアルは起こすの悪いかなと呟くとポケットから煙草を取り出した。
シーリングは穏やかに眠っているトウマをじっと見下ろしていた。
元抜刀隊三番隊隊長。
絶妙なる剣技。
“彩花衆”に二度も苦渋をなめさせた男。
――この男が、あのトウマ・ライナスか。
ベリアルとの戦闘中は思い出す余裕もなかったが、警察署に向かう最中に、職業が“配達士”と耳にしてシーリングはようやく思い出していた。見た目はどこにでもいる若者と変わらないが、実際に目の当たりにすると、想像以上の使い手だと感じていた。
“特殊能力”と呼べるような特殊魔法が使えるわけではなさそうだが、動きを格段に速くさせる自動魔法はシーリングでもトウマの動きを捉えきれなかった。
想像だけで対峙していたら、“星羅連環”でも深手を負っていたかもしれない。目にしておけて良かったと、シーリングは思わずにはいられない。
「……え、なにか言ったかい。ぼんやりしていたよ」
トウマに気をとられている間に、アルが何か話しかけてきたようである。我に返ると、アルが煙草一本つきだした箱を向けていた。
「いや、煙草一本どうです?」
「ああ、私は煙草を吸わないんだ」
「でも、変だなあ。たしかライターを持っていて煙草を吸っていましたよね」
訝しむアルに、それはねとシーリングは苦笑いした。
「恥ずかしながら、私は金魚というやつでね。特別な時にゲン担ぎとして煙草を吸うだけなんだ。真似だから、吸うと言ってはおかしいかな」
「なるほど。ま、形だけでもどうです。手持ち無沙汰もなんでしょう」
「……そうだな。せっかくだから貰おうか」
シーリングはアルが差し出した煙草を一本貰い、互いに火をつけると、アルは深々と吸い込むと宙に濃い煙を吐いた。アルはしばらく煙の行方を追うように宙を眺めていたが、何かを思い出したように口を開いた。
「しかし、おたくさんも物好きですねえ。闘神ラムザの遺跡単掘への多額融資に、ゼルテラウスの書の研究と検証。銀行員さんてのは、数字ばかり見ていて、冒険や古い書物の研究と金になりそうにないものには関心が低いと思っていたんですがねえ」
「銀行員もそれぞれだ。子供の頃に冒険に憧れていて、古代魔法に心をはせた。立場は子供のころに抱いていたものと違うが、夢を実現できるようになったんだ。やってみたいと思うさ。……まあ、今回はそれが仇となってしまった感があるが」
「仇は言い過ぎですよ」
「しかし、ひとりは死に、ディラント館長は恐怖のあまりに精神錯乱で、病院送りとなった。仇と言ってもいいだろう」
「まあ、自分をあまり責めすぎないようにした方がいいですよ。警察も事故扱いにしたんでしょ」
「それはそうなんだが……」
沈痛な面持ちをするシーリングに、アルは返答する言葉が見つからず、煙草を吸って誤魔化した。
――信じたようだな。
シーリングは神妙な面持ちをするアルを盗み見て、内心、安堵していた。
ベリアルを倒した後、トウマたちはディラント館長を病院に搬送するため、図書館を警備する警備員を通じて救急隊や警察を要請したのだが、閉館したはずの図書館への不法侵入の疑いと、ディラントが恐怖のあまりに精神錯乱した状態となっていたこともあって、一行はアオルタ警察署で事情聴取のために取り調べを受けなければならなくなった。
シーリングはトウマや警察には、以前から親交のあるディラントから古代書の解読できるルノーマという人間と知り合い、試したいから一緒にどうかと連絡があったと説明してある。
ルノーマの召喚魔法が失敗し、体を乗っ取られてあわやのところで、落としたライターを渡すため、シーリングを探していたトウマ達が偶然助けてくれた――。
普段から古代書の研究に熱心で、当日も調べものをするから残るという警備員の証言や、シーリングが銀行員という堅い仕事に加え、先に探検家たちに多額の融資した話もあったので、冒険や伝承に憧れを持つロマンチストな銀行員だと、刑事たちもシーリングの虚実を交えた話を信じたようだった。
ディラントが起こした事故として処理されることとなり、シーリングは巻き込まれた被害者という恰好となって、無事解放されたのだった。
ディラントに責任を押し付ける形となってしまったが、それで心を痛めたり後ろめたく思うほど、シーリングはやわな男ではなかった。
精神錯乱の状態なので話を合わせる必要もない。家族もいないと聞いている。もはや正気に戻ることもないだろう。万が一戻ったとしても、その頃には既にアオルタから離れている。沈痛な面持ちさえしておけば、後悔しているのだと周りが勝手に同情してくれるので、あとは神妙な態度をつづけていればいい。
自分や自分の組織を守るためなら、使い物にならなくなったディラントを最大限に利用すべきだと考えている。
「……それにしても、不思議だね」
「なにがです」
「君たちが来てくれたおかげで助かったが、よく私の居所がわかったね」
「これでも探偵ですからねえ。人探しの依頼は、私も良く依頼されますんで。特徴的な服装されてますんで、見つけやすかったんですよ」
アルはそう言って煙草を口にした。
しかし、どこか話をそらすようなアルの態度に、シーリングはこの男も“特殊能力”があるなと直感した。
図書館に入館してから事件が終わるまで1時間も経っていない。自身が勤務する銀行でもだらしのない同僚や後輩の居場所がわからずにやきもきした経験がシーリングにもあるが、半日は費やしている。それだけ不確定に動く人を探すには時間が掛かり、たとえ聞き込みで自分の居場所を突き止めたとしても、居場所を突き止めるまで早すぎるような気がした。
だが、“特殊能力”の詮索をするには、こちらもケフルの存在までも明かさないといけなくなる可能性がある。自分の墓穴を掘るように思えたので、シーリングは流石だねとだけ口にして話を打ち切った。警察にはどう説明したのか不明だったが、自分のつくり話を信用して事件が終わっているのに、無用にこじれさせる必要もない。
「ああ、そこにいましたか。シーリングさん」
気味の悪い愛想笑いと大声を響かせながら、廊下の奥から鷲鼻の刑事がアフロヘアの刑事を連れて現れた。
作業していた警察官が手を止め、寝息を立てていたトウマたちが跳ね起きるくらいの大声だった。
「シーリングさん、裏口に車が用意できました。警察車両ではなく、我々刑事が使う車両ですから、一版市民の車と区別がつかないようにしてますから、安心して乗ってください」
「送ってくれるなんて、ありがたいですなあ。やはり警察は市民の味方ですねえ」
「何を言ってるんだい、アルちゃん」
横から口を挟んだアルを、鷲鼻は突き放すように言った。
「君たちを乗せる車なんて、あるわけないだろう」
「え、じゃあ、どうやってここから帰れば良いんですか。中心までけっこうありますよ」
「歩くか、自分でタクシー拾いなさいよ」
「人を助けたのに、その扱いはないだろうよ」
半分寝ぼけていたトウマだったが、鷲鼻の冷たい回答に一気に覚醒したようだった。黙ってられないとばかりに勢いよく割り込んできた。
「うちでルークが寝込んでいるのに、一晩中、付き合わせやがって」
「市民の協力は義務でしょ、義務」
「身分わかってんだから、後で良いだろうよ」
「ガキの腹痛なんて、どうだっていいだろ。それに、看病してる奴いるんだろ」
「うるせえな、黙ってろ。アフロの口ひげ野郎!」
「なんだと、この野郎!」
横から出てきたアフロの刑事とトウマが掴みかかりだしたので、アルや鷲鼻の他、他の警察官たちが慌てて止めに入っている。ロビーは騒然となったが、騒ぎの中でアリサだけはソファーに座ったまま、ぼんやりと争いを眺めていた。アリサの朝はいつも早いのだが、眠れていないだけに頭の中は靄がかかったようである。珍しく機嫌が悪いなあとトウマの横顔を見つめている。トウマはアルの中折れ帽子を奪い、何の効果があるのか、それでアフロ刑事をぺしぺし叩いている。
「では、シーリングさん、こちらに」
「うむ」
他の私服刑事に促され、シーリングは騒ぎを横目にロビーから出ていった。
トウマやアルたちは気がついていないが、シーリングからしてみれば敵に等しい相手である。奇妙な縁で顔見知りとなってしまったが、いつまでも敵の傍にいるわけにはいかない。速やかに離れるべきだった。
――トウマ・ライナス、アルフレッド・フォークナー、アリサ・サーバンス。
しっかりと覚えておこうと心に刻み、再びロビーの騒ぎを一瞥してからシーリングは去っていった。
誰が言い出したのか、何故か掴み合いが手押し相撲に変わっていて、アルが審判役となっている。周りの警察官たちは、対峙するトウマとアフロ刑事に向けて、熱心な声援を送っていた。
※ ※ ※
解放された安心感から疲れが一気に噴出したらしく、アオルタ警察署からアオルタ港までの間、シーリングはすっかり寝入ってしまったようである。
カモメの鳴き声に誘われて目を開けると、すでに車はアオルタ港に入ったところだった。署内での騒ぎが嘘のように、人のざわめきや船の汽笛が心地よくシーリングの鼓膜を刺激してくる。
「止めてくれ。あの船だ」
“黒の国”へと帰る定期船を見つけて、シーリングは運転手の刑事に声を掛けた。船には“黒の国”であることを示す、黒地に星と月を記した“黒の国”の国旗が掲げられている。協定で外国船や列車や車等には国旗と特定の装飾や番号が義務付けられていて、一目で分かるようになっている。
車が定期船の前に到着して降り立つと、シーリングは心地よい太陽の光を浴びた解放感もあって、うんと思い切り背伸びをした。
だが、暗く重い気分がシーリングの心に圧し掛かっている。
ルノーマという能力ある仲間を失い、その書を読みこなせる者を失ったことで、ゼルテラウスの書も価値を失った。計画ともいえない計画だったにも関わらず、今回の計画は失敗だと言えた。彩花衆の人員補充に、トウマ・ライナスという厄介な存在、これからの行動方針等々……。
考えることが多すぎると、シーリングは嘆息しながら船に向かって歩き出した。
「……おい、シーリング」
不意に声を掛けられ、声の在処を探すと港の隅に積み上げられたコンテナの陰から、ひとりの男が姿を現した。派手なシャツを着た坊主頭の男。見慣れた姿だったが、今のシーリングには捨てられた雑巾のような不快そのものでしかない。だが、その感情は表に出さず、わずかに目を細めただけだった。
「ケフル・タッカーか」
「へへ、心配したぜ。あんな化物相手だからよ」
「お前も、よく逃げられたな」
「そこが俺の“転界空舞”だからよ。あんな結界、逃げるにはわけねえや」
皮肉には気がつかず、へへっと笑いながらケフルがシーリングに近づいてきた。シーリングも何気なしにケフルへと歩み寄り、コンテナの裏側へと自然と誘導していった。当初は動き出した船の上でと考えていたが、コンテナの近くに無人の小型船が何隻は停泊しており、その中の一隻が中に錨が置かれた状態で停泊しているのが目について考え変えた。遠くに作業や旅行やの姿は見えるが、ここまでは目が続かない。船からも覗く者はおらず、周囲からは死角となっているのも都合が良い。
「リーマとはもう会ったのか。船で待っているはずだが」
「会うわけねえだろ。事情なんて恥ずかしくて説明できねえや」
「……そうか」
あくまでも自分本位なケフルに、シーリングは苦笑いせずにはいられなかったが、ケフルは気づかずにシーリングの笑みに追従するようにして、へへと笑い声をあげた。
「しかし、よく助かったな。“星羅連環”使ったのか?」
「使いはしたが、まあ色々あった。今は言える気分ではない」
「ところで、ルノーマはどうなったんだよ」
「完全に乗っ取られた状態では助からんだろう。死んだよ」
「そうか」
一瞬、うつむきはしたものの、普段から折り合いの悪いケフルである。さほど感傷に浸る様子もなく、なら新しい奴を探さないとなと言った。
「俺にもいくつか心当たりがいるからよ。そいつら、新しくメンバーに加えたらどうだ。彩王朝の末裔だ。俺みたく、這い上がりたくてムズムズしているだろうからよ」
「なるほど、良い案だな」
シーリングは顔をさすった。
やはり疲れている。
加えて、ケフルの捲し立てる声が頭痛のように響いてくる。
「ケフル。ちゃんとパスポートは持っているか。お前はよく失くすからな。」
「急に何を言ってんだぜ。ちゃんと持っているに決まってんだろ、ほら」
「なるほど」
ケフルは尻のポケットからパスポートを取り出して示すと、シーリングはなるほどとうなずいた。
「煙草を持っているか。あの争いでライターと煙草を無くしたらしい」
「あ、ああ……」
ケフルはシーリングがゲン担ぎ以外に、煙草を吸わないことを知っている。
しかし、ボスに媚びようとするケフルは、言われるがままに自身のポケットから煙草を取り出そうとした――刹那、後方に人の気配を感じたかと思うと、尋常ではない力でケフルの喉元を締め上げていた。シーリングによる強烈な裸締めがケフルを苦しめ、持っていた煙草とライター、パスポートが地面に落ちた。
――……“星羅連環”。
何故、いきなり“星羅連環”を使用したのか。
シーリングは一体、自分に何をしようとしているのか。
ケフルは驚愕と混乱に満ちた目を見開いて、口を喘がせている。
助けを呼ぼうにも喉がつぶれて声が出せなかった。
「がっ……!」
「お前みたいな人間は、もうこりごりなんだよ」
「……!」
シーリングのその一言ですべてを理解したらしい。
ケフルが抵抗しようと目を見開いた瞬間、鈍い骨の音が小さく響き、ケフルは急速に力を失ってぐったりとなった。
シーリングは周囲を再び確認し、人の姿がないとわかると、無表情のまま手のひらをケフルの顔面にあて、強烈な炎を一瞬生じさせた。小さくではあるもの炎はケフルの顔を焼き切るには十分で、黒焦げとなったケフルの顔はもはや原型をとどめていなかった。その後、シーリングはポケットなどを探り、パスポート以外にケフルの身分を証明するものがないと判明すると、シーリングは小型船の上に置かれていた錨の縄を焼き切ると、それをケフルの死体に巻いて海に棄てた。
小型船はもやいを港の杭に結んで係留している。波も穏やかなので、おそらく船の持ち主が億劫がったのだろうと、シーリングは沈んでいくケフルを眺めながら推測した。
錨がなくなったことで船の持ち主は慌てるだろうが、死体が発見されなければそれほど大騒ぎにはならない。
だが死体が浮かんでくる気配もなく、もう一度周囲を注意深く確認しても、やはり人の姿はない。これで万全なはずだった。
シーリングは踵を返すと、あとは一度も振り返らずに船と港を繋ぐタラップを昇っていった。
入口で警備の人間にパスポート見せて甲板に入ると、船の上は観光客や帰国者の姿が目立ち、それぞれ思い思いの行動をして賑わいを見せている。艦首付近で海や港の景色を眺めている者もいたので、ひょっとしたら自分を見ている者がいたのではないかと少々不安になったが、シーリングに不審の視線を向けている者はいないようだった。それでも注意深く周囲を観察していたが、その中で人ごみに紛れ、客室の前に置かれたベンチで難しい顔をして座っているリーマ・クリックの姿を見つけた。
「待たせたな。リーマ」
シーリングが声を掛けると、驚いた表情をみせたがすぐに暗い顔をしてうつむいた。
「警察に事情を聴かれて色々と手間取った。手間を掛けさせたな」
シーリングが労うと、リーマはいやと首を振った。
「警察からある程度事情は聞いたが、ルノーマが死んだんだってな」
「説明はこの場では難しいが、そうだ。それとケフルもな」
「そうか……」
リーマは沈痛な面持ちを浮かべてうなだれた。
疑う様子は微塵もなく、全面的にシーリングの言葉を信じたらしい。
シーリングは安堵しながら、リーマの隣に腰を落ち着けた。リーマの家もかつては彩王朝に仕えてはいたが、没落して一族は離散している。名家の末裔とは思えない単純さが獣人族であるこの女の好ましさで、言葉遣いは厳しいものの妙な安心感がある。それと同質なクロン・ステイシアと気が合ったのだろうとなんとなくわかった気がした。同時に、わずかな嫉妬や羨望がある。普段、リーマにそんな感情など抱いたはずないのだが、これも疲れているからだろうとシーリングは自分に言い聞かせた。
「……これからどうするつもりだ」
「頼りになる人間を仲間に引き入れないとな。考えることが多すぎる。ルノーマたちを失って、我々の活動も、これから厳しいことになるだろう」
「そうだな」
「だが、なによりも先に、やることがある」
「なんだ」
シーリング・ローゼットは正面を向いたまま、あわあわと大あくびをした。
ひどい目に遭った。
酒場の女が言っていたように、幸運の女神に嫉妬されたのだろうか。
だが、まずはこれが先だ。
「ベッドで眠らせてくれ」
“彩花衆”再び編~終




