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7-2 狩人と道化

「逃げられるとでも思ったのかよ?」

ラウィンの姿をしたものを見下ろしながらグレコは言う。

それは完全に体の自由が奪われていることを知った。

これもグレコの特技の一つらしい。

「いくら元の肉体が強かろうが、慣れねえうちは力が出せねえんだろ」

「何を言っている。グレコ」

背中に冷や汗を垂らしながらそのものはグレコに問う。

どうやら今いるのは森の中らしい。

不運なことに近くに人のいる気配は全くしない。

乗り移ろうにもその媒介となる人間がいないことに彼女たちは動揺していた。

「宿場町だと逃げられたとき魂を、どっかの知らねえ奴に入れられる場合があるからな」

グレコはその声には耳を貸さずに続ける。

気付かれていたという事実が彼女たちに衝撃を与える。

「それだと複数に乗り移られた場合面倒だしネ。

潜伏されてしまったら君らを捕まえるのは街を封鎖でもしない限り不可能ダ。

君らにはその男に入ったまま宿場町から遠ざかってもらう必要があったのサ」

背後からひょっこり聞こえてきたのはドーラという男の声。

そのものは背後を振り向くととんがり帽子を着けた男が立っていた。

「躰を入れ替えたのは魔獣が死ぬタイミングだな。

死ぬタイミングで、あの場にいた魔法抵抗力のないラウィンに乗り移ったってことだよな。

幸いお前らはラウィンの肉体に執着した。当然といえば当然だろう。その男の躰を手に入れれば

『狩人』の機密情報を引き出せるだけじゃなく、

『狩人』の中枢すらコントロールすることができるもんな」

完全にこちらの手の内は見抜かれているらしい。

ラウィンの姿をしたものは嘆息する。

「…どうして気づいた?」

悔しげにそれはグレコを見上げる。

「そりゃ、あれだけその男を睨んでいたのが、いきなりなくなるってのは違和感しかねえよ。

まあそれだけじゃねえけどな」

グレコは目の前にいるドーラを指さす。

「…」

「いいことを教えといてあげるヨ。躰を奪えばその者の持っていた記憶は辿れるけれど、

言語化していない感情までは知ることはできないんダ」

その男、ドーラはその事実を語る。

「…問答は終わりだ。五人その躰の中にいるってことはもう逃げ場所はどこにもねえってことだよな」

グレコは無慈悲にそのものに告げた。

「どうするつもりだ」

「正直物足りねえが、俺にはてめえらを拘束する手段がねえ。

ここで終わりにさせてもらうぜ、なあ…ケシオス?」

グレコの最後の一言に男の表情が凍りつく。

「なぜお前が…その名を…」

「カッカッカ、人間をなめんな。

てめーら追い込むのにどれだけ時間をかけてきたと思ってんだ?」

「やっぱり人間はすごいヤ」

ドーラはグレコの言葉に笑って、そう漏らした。

「…それにしても厄介だな…黒幕はやはり奴か」

グレコの一言にそれはみたこともないような絶望的な表情を見せた。

彼女たちにとってそれを知られることは捕まったことよりもショックだったらしい。

「じゃ、もういいカナ?」

「ああ、よろしく頼む」

ドーラの一言にグレコは示し合わせたように頷いた。

「待て、何をするつもりだ?私たちを殺せば媒介であるこの男も死ぬことになるんだぞ」

「なら一度殺せばイイ」

ドーラは当然のごとく言い放つ。

その言葉にラウィンの躰を乗っ取った何かは青ざめる。

「君らの憑依は標的が死ぬまでダ。特に憑依したばかりは魂の定着が不安定なんだよネ。

その手の術を僕は知ってるし、既に一度実験済みサ」

そうドーラはそれの背後から、心臓のある部分に手を当てた。

「お前一体何者だ?何でここまで知っている?まさかお前、肉体を交換したことがあるのか?」

「まあネ」

グレコが目を光らせる。

「おまえひょっとして…上位魔族…」

「今はただの一介の商人サ」

ドーラは静かにそう告げる。

「…やめろ、やめてくれ」

「そう言った連中をお前らはどうしてきたんだろうな」

グレコは無慈悲に囁く。

「いやだあ」

叫んだのは五人の中の誰の叫びだったのものだったのか。

「バイバイ」

ドーラが言うとラウィンの体から力が抜ける。

次に青い靄のようなものが体から抜けていく。

青い靄はそのまま空に向けて四散し、消え去った。

「…カタキは取ったぜ、クワン」

グレコは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「心配性だネェ」

ドーラがラウィンの心臓に手をかざすと全身がびくんと痙攣する。

ほどなくラウィンの頬に赤らみが戻ってきた。

「それじゃ、一件落着ってことデ」

ドーラは立ち上がり、その場を去ろうとする。

「おや、僕に牙を向けるのカイ?」

グレコはドーラの首下に暗器を突きつけていた。

「なぜここまで俺たちにする?」

「何でだろうネ」

ドーラは驚いた表情を見せた。

「おめえは施しが過ぎんだよ」

「…君も結構気に入ってるってのは理由にならナイ?」

ドーラは振り返ることなくそう告げる。

「カッカッ、なんだその気の抜ける理由はよ。

…なあ、もう一度お前を殺せばウルヒの馬鹿は返ってくるのか?」

「戻りはしないヨ。…彼とは彼の意志で肉体を交換したんだ。そういう契約だったからネ」

「…ったく、やりづれえったらありゃしねえな」

グレコはドーラに向けていた暗器を懐にしまった。

短い付き合いだが、少なくとも目の前の男は嘘は言わない。

加えて、奪ったのではなく交換したというのならば話は違ってくる。

少なくともウルヒは自身の意思で肉体を交換したことになるからだ。

「言っておくけど、僕の件に関しては、君らが手を下すまでもないヨ。

安心していいヨ。もう少ししたら僕は極北の地に行かなくちゃならナイ。

…そしたら君らの前には二度と現れることはないサ」

「フィリンギの地か」

極北の地、そこは幻獣王フィリンギが管轄している土地である。

年中氷に閉ざされ、その寒さゆえに人を寄せ付けない。

唯一人が住めるのは魔術王直轄地ぐらいだろう。

「…そこで友人が待ってるのサ。それに先約があるんでネ。君には殺されてあげられないヨ」

「カッカッカ、殺しにきたもなにも、そもそもてめえを殺しきる自信はねえよ。

あんたは魂連結者ソウルリンカーよりも性質が悪いと思ってる」

「ひどい言われようだナ。

ドーラは顔に苦笑いを浮かべる。

「事実だろうが」

グレコはそう言うと懐から葉巻を取り出し、火をつけた。

「喫煙するとは聞いてなかったヨ」

「これは今回の一件への俺なりの弔いだ。わりいな」

「いいヤ」

ドーラはそう言うと黙ってグレコの口から出る煙を見つめる。

煙は木々の間から覗く空めがけてゆっくりと昇っていく。

今回の一件では『狩人』、村人に多くの被害が出た。

幾ら悔やんでも、もうその者たちは戻ってはこない。

「ほらよ、報酬だ」

葉巻を吸い終わると、グレコはドーラに報酬を投げつける。

ドーラは片手でそれを受け取る。

ずしりと重く、金のこすれる音が聞こえる。

「おや、意外と気前がいいんだネ」

これはドーラにも予想外だったようだ。

「支払いはけちらねえよ。…ただてめえを見逃すことはできねえけどな」

「僕としてはそっちの方が重要だったんだけれどナ」

やれやれと言った感じでドーラ。

「あの怪獣が止まったのもてめえがやったことだろ?」

「…さーてどうだろうネェ」

ドーラははぐらかした。

「何者かはしらねえが、今回の件、協力感謝する。あんたがいなきゃどうなってたかしれねえ」

グレコはドーラに対し頭を深く下げた。

「それは何よりダ。これからの君の検討を祈らせてもらうヨ」

ドーラはグレコに微笑んだ。

グレコが顔を上げると、ドーラの姿は消えていた。

「ったく、厄介な男だよ」

ため息まじりにグレコはその言葉を漏らす。

「…?ここはどこだ?」

グレコの横でラウィンが目を覚ましたようだ。

「おー、目を覚ましたか」

「ここはどこだ?どうして俺はこんな服を着ている?

…あの化け物を倒したところまではおぼえているんだが」

ラウィンは頭を抱える。

「まーおいおい説明してやるよ」

グレコはラウィンに近寄り肩を叩いた。

「そういえばあの男ドーラはどこ行った?」

あの男とはドーラのことだ。グレコはラウィンの一言に吹き出した。

「カッカッカ、行くぜ、あんな小物はほっときな。どうせ人に害は与えねえだろうし。

捕まえられりゃしねぇ。んなことよりも、報告書おわらせねえとな。

ここまでいろいろやったんだ。報告書の山が俺たちを待ってるぜ」

「…」

あからさまにラウィンは嫌そうな顔を見せた。

これでこの話はほぼ終了でござんす。

あとエピローグが一個残ってるのだけれど。

一カ月で結構書けるもんだ。

さすがに刀語みたいなあれは無理かと思うけど。

ただただ楽しい。次もちょっと残酷なネタが出ます。

よろしければ読んでくれるとうれしいです。

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