4-4 古城へ
異端審問官『狩人』において、魔女狩りというのは魔族狩りと同列に扱われている。
魔女は人の顔を被った獣であり、魔法で人をたぶらかす。
魔獣と決定的に違うところはその知能の高さである。
魔法で人を欺くことはおろか、人を自在に操ることもできるという。
野生の獣は人間を欺き、人間の生活に溶け込むことはしないし、人間の思考をなぞることもしない。
加えてもし初めに仕留め損なうと反撃を食らう可能性が高く、
万が一魔女との交戦になった場合、『狩人』側が命を落とす場合も多い。
「この馬車ですね。轍の跡と合致します」
魔女の襲撃があった場所からしばらく街道を進むと林の奥の脇道に放置された馬車が見えた。
調べてみたが、誰も乗ってはいないし、何も残っていない。
先を行く『真夜中の道化』が不必要と判断し、この場に捨てて行ったものだろう。
ヴァロたちは交戦した際に十数名ほどの操られた人間を倒している。
ご丁寧なことにこの先に轍の跡があった。
「この先にあるのはガロン城だな」
ラウィンが声に出す。
「ガロン城?」
グレコの話によれば、元々はこの地域一帯を治める領主の城だったのだが、
内乱の容疑がかけられ、処刑されたのだという。
その後この城は廃墟になり、放置されることになったということだ。
今では夜な夜なその領主の幽霊がでるとかでだれも近寄ろうとはしない。
「明らかに誘われてんなぁ」
困ったようにグレコはつぶやく。
罠であるのはヴァロの目から見ても明らかだ。
「そのガロン城が魔女の拠点とは考えられませんか?」
「違うな。こういう場所は何度か『狩人』も見に入ってるはずだ。
実際に俺も何度か立ち寄ってる。その際に生活臭は感じられなかった」
屋敷の跡などは魔のモノだけではなく、盗賊たちの温床にもなる可能性が高い。
そのためにそう言う可能性のある場所は大陸中に何か所かあって、『狩人』が定期的に見て回っている。
ヴァロも師ギヴィアと大陸中を回った時に、そういった場所を見て回ったことがある。
「連中がこんな解りやすいところを根城にしてんなら、うちらはもっと仕事に楽ができるだがな」
「…それもそうですよね」
グレコの言い分にヴァロは納得せざる得ない。
「北側に街道につながる裏道があるはずだ。
ここでうちらが躊躇してるうちに北に抜けられると厄介だ」
人数も限られている。とてもではないが人員を二手に分けられない。
実際にすでに『狩人』が二名犠牲になっている。
ここからもう少し北にいけばトラード、ミューリア、サイアノネに向かう分岐した街道がある。
その街道は大きな通りであり、収穫期も重なり人の往来も多い。
もし北に抜けられたのならば、収穫時期で荷馬車が横行する今の時期、見つけ出すのは困難になるだろう。
「応援を呼ぶ事はできないんですか?」
横からフィアが聞いてくる。
「その間に逃げられちまうだろうよ。
それに少し気になることもある。応援はひかえたほうがいい」
「?」
この人はやはり何か重大なことを隠しているような気がした。
「追跡続行ってことでいいんですね」
フィアの言葉に一同は頷く。
古城へと続く道は長い間誰も使っていないらしく、草が生い茂っていた。
『真夜中の道化』が通ったと思われる馬車の後もはっきりと残っている。
この先に連中がいることは明白である。
「フィア、一ついいか?」
「何?」
「追っている魔女ってのはどうしてそんな危険を冒してまで多くの人間を集めるんだ?
自分たちの躰を手に入れるためならそんなに必要ないはずだろう」
ヴァロは気にはなっていたことを口に出した。
はぐれ魔女が人間を殺すのは大概は自分たちの居場所を知られまいとしてのことだ。
どうも『真夜中の道化』のはぐれ魔女は積極的に人間を狩っている気がする。
動機があまりに違い過ぎるのだ。
「…推測はできるわ」
フィアがおもむろに語りだす。
「古い魔導の流派に人間を材料にしているものがあるの。
人間と魔女、魔族の肉体のつくりは酷似してる。
だからこそ自分たちの代わりに普通の人間を実験材料にできないかっていう考え方を持つ流派。
魔王戦争の終結や大憲章の登場により、四百年前ぐらいに廃れてしまったみたいだけれど」
「研究していたのは人間だけじゃなかったってことか」
「ええ…。積極的に研究を行っていたのは魔王戦争を引き起こしたという魔族側って話よ。
第四魔王ドーラルイ、第五魔王ポルファノア、第七魔王ブフーランは
その研究を基にして軍勢を興したと…一説にはある」
フィアは歯切れ悪く、それを口にする。
ヴァロはドーラをちらりと見る。
ドーラは我関せずといった感じで周囲に視線を向けている。
自身の過去に関してドーラは何も語らない。
この男はかつての魔王軍、現異邦においては魔法長という肩書をもち、
一方で教会からは第四魔王と呼ばれ忌み嫌われている。
そろそろドーラと出会って二年になる。
何度か一緒に飲んだりもしているが、その手の話題になるといつもはぐらかされてしまう。
もっともこのヘンテコな男と一緒にいると、教会の語る魔王など悪い冗談にしか聞こえない。
「そろそろ城が見えてくる頃合いだ、ヴァロ」
グレコがヴァロに向けて声を投げかけてきた。声には緊張が含まれている。
ヴァロは無言で頷くと一人仲間たちから離れた。
「ヴァロ気をつけて」
ヴァロは頷くと一人別行動を取った。
そろそろ戦闘。んで、この話も大詰め。
骨格はできてるし、この部終わらせたいなあと思ってみたり。
ただここから二つの章がさらに面倒。
楽しいけどねw




