ちょっとした怒り
いつも読んでくださってありがとうございます。
こう少しで二人目が出てくるのでよろしくお願いします。休みの日は張り切ろうと思います
今俺は狼に追いかけられている。自慢ではないが、前世の俺はなかなか運動神経はいい方だった。すなわち体力は自信があった。
だが今はどうだ。かよわい女の姿になってしまって体力も落ちている。
いや、落ちているどころではない。この体力からすると、女子の平均体力の半分にも満たないだろう。
走っている間ずっと助かる方法を考えていた。このままだと、完璧にオオカミの餌食になってしまう。前と同じように自分に体力の減らない魔法をかけたいところだが、この魔法には少々時間がかかる。この距離からして、魔法をかけ終わったころには、もう俺は狼のおなかの中にいるだろう。
この状況を見てなすすべがないと思うだろう。でもそんなことはない、方法はあるにはある。短時間でうまくいけば絶対に生き残ることができる。
それは、瞬間移動の魔法だ。まえアルファスにつかまっていたとき、部屋から出るために必死で書物を読み漁り、練習をしていた。
しかしこれには、少しばかりリスクがある。あまり距離が移動できないのと、どこに移動するのかわからない。もし狼の目の前にワープしてしまったら、そこで俺の人生は終了となる。また、物理的なものを通り抜けることができないのだ。だから、あの時部屋に閉じ込められた時も、外に出ることはできず、扉を蹴り飛ばして出てきた。
でも今はそんなことを言っている暇はなく少しでも可能性がいるなら試してみるしかない。成功率は、今の俺の集中力から考えて四割といったところだろう。
次の瞬間俺は瞬間移動の魔法を使った。
周りの景色は先の景色とは全然違った。というよりなぜか浮いているような気がした。そう、俺は木にひかかってしまったのだ。しかも移動した距離と言えばただ上に浮いただけであった。
「俺に才能があるのは回復魔法だけなのか。」
一人で自分のふがいなさを呟いていると、何やら下が騒がしいことに気がついた。まさかと思いながら下を見てみると、そのまさか下では狼たちが引っかかっている俺を見上げていた。
今思うと逆にこっちの方が良かったのかもしれない、移動距離からしてもそう言えるに違いない。それよりこれからどうする。
ひとまず俺は、引っかかっている枝を自分から引きはがし、近くの太めの枝に飛び移った。
「よし、狼たちがあきらめるまでここで待っていよう。」
俺の最終的に考え付いた答えはとても安易なものだった。
そう決めてから、どれだけ時間がたったのかわからない。なぜなら寝ていたから。木に登ったまま眠れるとは何というバランス感覚だ。さすが俺、そんなことはどうでもいい。下を見ると、狼たちの姿はなく、もう夜明けが近づいていた。
俺は周りの安全を確認してから、ゆっくりと木から降りた。
降りた後、あの老人の元に戻るべく、来た道を引き返していた。絶対に礼をさせてやる。
それから歩くとこ数十分、やっと元の場所にたどり着いた。そしてそこには、気持ちよさそうに寝ている、老人の姿があった。
その姿を見た瞬間俺の中で怒りがふつふつとわいてきた。
「おい、じじぃさっさと起きろ。」
俺の声の大きさにびっくりしたのかその老人は、飛び起きた。
「なんじゃなんじゃ、朝っぱらから大きな声を出しおって、年寄りはいたわるものじゃぞ。それよりお前さん生きとったんか、おいていかれたわしはもうだめかと思っていたが、狼たちはわしを無視してお前さんを追いかけていきよった。」
「あなたが助かったのは私のおかげですよ。あなたにはお礼をしてもらおうと思っていたのですが、その気が失せました。それでは失礼します。」
「おいおい待たんか若いもん。お前さんはとても親切じゃな。」
「そうですが何か?」
「それじゃあ親切ついでにもう一つだけわしのお願いを聞いてもらえんか?
もちろんダダでとは言わん、しっかり褒美ははずむつもりじゃ。な?」
「仕方がないですね。内容によりますけどいいですよ。」
俺はそのあと学習した、頼みごとを聞くときはまず内容を聞いてからなのだと。