刺客対亀型
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「さて、どうなるかなあ?」
転移したアスティアは、亜空間の上方に出現し、浜辺を俯瞰視線で見た。
「どうする?」
「どうするって、この空間からの脱出方法もわからないんだ、あいつらの相手をするしかないだろう」
ルベルが他の仲間に問い掛け、アスルがそう返した。
「そうよ。それに、たとえ敵わなくても、あいつらから逃げるわけにはいかないわ!」
「そうだね。僕達は、みんなの敵を討たないといけない」
ウ゛ェールとブラオンも、アスルの意見に賛成した。
「けど、どうやってあいつらを倒すの?」
「・・・(コク)」
アスル達の意見に、ユウとブランが疑問の声を上げた。
「そうだなあ?ユウ達三人の攻撃も効いていなかったしな」
「・・・各個撃破」
アスルは外での出来事を思い返し、それにブランがそう提案した。
「まあ、それしか俺達に勝機はないよな」
「けど、どうやってあいつらを分断するんだ?」
「たしかにそうだよな。ここには、ろくな遮蔽物も無いし」
そう言うとアスルは、周囲の様子を確認した。しかし、周囲には起伏の無い浜辺が広がっているだけだった。そして、浜辺以外にあるのは、影達がいる海だけだった。とても影達を分断出来るような地形ではなかった。
「ふうーん、かれらをぶんだんしたいんだ。・・・じゃあ、ちょっとだけサービスしてあげよっかな?《タイムストップ》」
刺客達の話を聞いていたアスティアは、少し考えてそう言うと、何か魔法を発動させた。
すると、刺客達に向かって行こうとしていた海にいた影達の内、亀型以外の影の動きが停止した。
しかし、亀型の影は他の影達が停止したことに気がついた様子がなかった。
亀型は、そのまま移動を続けた。
「さて、これでどうなるっかな?」
アスティアは、無邪気にそう笑った。
こうして、刺客達が総攻撃を受けて全滅する可能性は無くなった。
「おい、もう敵が来たぞ!しかも、おあつらえむきに一体だけだ!」
ルベルは、自分達の方に向かって来ている亀型を見て、そう叫んだ。
「本当だ!しかし、何故他の影達は向かって来ないんだ?」
アスルは、アスティアが細工していることには気づかず、当然の疑問を口にした。
「そんなことは後回しでいいわ!他の連中が来る前に、あの亀の化け物を倒すのよ!」
ウ゛ェールはそう言うと、弓を構えた。それを見た他の刺客達も、覚悟を決めたようで、それぞれの武器を構えた。
「GURAAAA!」
ヒューン!
しかし、彼らが先制攻撃をする前に、向こうの方が先に動いた。亀型は刺客達に接近すると、雄叫びを上げた。そして、それと同時に亀型の甲羅にあたる部分から、何かが空に向かって発射された。
ヒューン パンッ!
それは、ある程度上昇すると弾けて、何かを周囲に降り注がせた。
「なんだこれ?」
「わからん。だが、きっと何かあるはずだ、注意しろみんな!」
「「「わかってる!」」」
アスルは、みんなに注意を呼びかけた。
彼らが警戒する中、弾けた何かが彼らの身体に降り注いだ。
「これは、水か?」
アスルは、自身に降り注いだものを指で触って確かめた。
「たしかに水っぽいけど、これに何の意味があるんだ?」
「さあ?」
ルベルとユウは首を傾げた。
「けど、これがあいつの特殊能力の可能性はあるわよ」
「その可能性は高いね。けど、効果はいまひとつわからないな?」
ウ゛ェールとブラオンも、これで何がしたいのかを考えはじめた。
「いまのって、なにをしたんだろう?」
先程の亀型の行動には、アスティアも空中で首を傾げていた。
「ちょっとみてみよっかな。《かいせき》」
アスティアは、水のような何かを目の前に持ってきて、《解析》のスキルを発動させた。
潤滑水
■■■の能力によって発生した、よく滑る潤滑剤のような水。この水が付着したものは、ツルツル滑るようになり、他のものにはまともに触れていられなくなる。この水を取り除きたい場合は、高熱で一気に蒸発させること。半端な熱を受けても、すぐに蒸気から水に戻る為。
「へぇー、せっけんすいみないなみずなんだ」
アスティアは、解析結果を見てそう言った。
ツル ザッ ザッ ザッ
アスティアが解析をしていると、下でも動きがあった。
刺客達の全身が潤滑水で濡れた結果、手に持っていた武器を持っていられなくなり、全員が武器を落としたのだ。
「な、なんだこれ?」
「す、滑る」
ツル ツル ズテン!
武器を落とした刺客達が、慌てて武器を拾おうとしたが、足元の潤滑水で足を滑らせて、次々に転倒することになった。
「なによこれ!?」
ツル ズテン!
立ち上がろうとしたウ゛ェールは、また潤滑水で滑るはめになった。
「なるほど、これがこの水の効果というわけか」
アスルは、うんうん頷いた。
「ちょっとアスル、感心している場合!これじゃあ私達、満足に戦うことも出来ないじゃないのよ!」
ウ゛ェールは、感心しているアスルを怒鳴りつけた。
たしかに感心している場合ではないだろう。
彼らがみんな滑っている間に、亀型も海から浜辺に上陸した。
ツルッ! ギュン!
そして、亀型も潤滑水の影響を受け、身体を滑らした。
「ははは。馬鹿でぇ、自分のまいた水で滑ってやがる!」
ルベルは、自分達同様に身体を滑らした亀型を見て、指を指して笑った。
彼はこの時気がついていなかった。自分達と亀型では、決定的に状況が異なっていることに。
「ルベル!笑っている場合じゃないわ、逃げなさい!」
ウ゛ェールが、笑っているルベルに向かって叫んだ。
「あっ?なんで・・・」
ツルツル ギュン! ドカッ!
「うわっ!?」
ルベルは、ウ゛ェールの方を振り向き、どうしたのか聞こうとした。が、それは叶わなかった。なぜなら、ルベルは自分の背後から来るものに気づかなかったからだ。ルベルは、身体を滑らしてこっちに向かって来ていた亀型に激突され、吹き飛ばされていった。
「「「「「ルベル!」」」」」
亀型をちゃんと見ていて、身体を横滑りさせていた他の刺客達から、ルベルを心配する声が上がった。
「だ、大丈夫だ」
ルベルが吹き飛ばされた先から、そんな声が聞こえてきた。
「ルベル、大丈夫なのか!」
「ああ。衝撃はデカかったけど、ダメージはそれほどでもないぜ」
ルベルは、心配する仲間達にそう言った。
「うんな、馬鹿な」
「そうよ、あんたあの亀モドキに吹き飛ばされたのよ、大丈夫なわけが」
「あの亀のサイズなら、トラックにぶつかったようなものだよルベル」
「・・・(コク)」
しかし、他の仲間達はルベルの言うことを信じていなかった。
それも仕方がないだろう。亀型の大きさは、さっきユウが言ったとおりトラック大。それが潤滑水の効果で、それなりのスピードでルベルにぶつかったのだ、これで大丈夫とか言われて信じる人は、そういないだろう。
「いや、本当なんだって」
ルベルは、亀型のように腹を地面につけ、潤滑水で滑りながら仲間達のところまで戻った。
それから彼らは、ルベルのことをぺたぺた触り、それが嘘ではないことを確かめた。
そして、現状の打開策を話し合おうとした。
「GUGYAAAA!!」
が、亀型がそれを待ってくれるわけもなく、戻って来たルベルや他の連中も、まとめて吹き飛ばされていった。
「なんか、ピンポンだまみたい」
アスティアは、その光景を見ながら一人感想を呟いた。




