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刺客とアダンス王国

あれからさらに時間が経過した。リルちゃんとエル君のマスターへの質問攻めはまだ続いている。まだこのやり取りを続けてもいい気がしますが、私がやっていたこの後の計画が出来たので、そろそろマスターに助け船を出すとしましょうか。


「リルちゃん、エル君。二人ともそろそ・・・」


ガキィン!!!


私が二人に声をかけていると、それを遮るように何かが弾かれる音がした。


「「「「ガキィン?」」」」


私達四人は、その音がした方に視線を向けた。するとそこには、一本のナイフが落ちていた。状況から判断するなら、このナイフが飛んで来て、マスターの防御結界に弾かれたということでしょうか?


「てっ、ナイフ!ひょっとして、暗殺か襲撃ですか!?」


ガキィン!ガキィン!


私がその可能性に気がついて叫ぶと、新たに複数ナイフが飛んで来た。しかし、マスターの防御結界に全て弾かれ、ナイフは全て地面に落ちていった。


私達は、そのナイフを投げている者の姿を捜した。すると、木の上からちょうどこちらにナイフを投げようとしている人影をみつけた。


ここからでは、人影の姿は朧げにしか見えないが、黒い外套を纏い全身を覆い隠していることはわかった。


人影は、私達に見つかったことにも動じずに新たなナイフを投擲してきた。


ガキィン!


が、やはりマスターの防御結界に弾かれ、私達のもとには届かなかった。それでも人影は機械的に投擲を続けてきた。


ガキィン!ガキィン!


が、やはり無駄に終わった。それでも人影は、諦めることなくナイフを投擲し続ける。


私は、その人影の様子から有効な情報が得られる可能性は無いと判断し、視線をその人影以外の場所に向けた。


とりあえずは、ナイフの軌道からナイフが本来あたるはずだった人物が誰かを確認することにした。


今も飛んで来ているナイフの射線と合わせると、どうやらターゲットはリルちゃんとエル君のようですね。


「二人とも、どうやらターゲットはあなた達二人のようなんですが、心当たりはありますか?」


「えっ?えっ?」


「えっ?え、ええ。たぶんですがあります」

私があのナイフを投げてきている相手の心当たりを二人に聞くと、リルちゃんは絶賛混乱中。エル君の方からは、心当たりがあるという返答がきました。


「差し支えなければ、その心当たりを聞かせてもらえませんか?」


「ええっと・・・。わかりました、現在進行系で襲われていますから、お話いたします。この都市に来る前に父上から聞いていた話から推察すると、ヒューマンの国アダンス王国からの刺客だと思います」


「アダンス王国。この都市に来る前に話を聞いていたということですが、この国はその国と対立しているのですか?それと、その国以外の可能性はないのですか?」

対立関係や相手の想定はきちんとしておかなければいけませんからね。


「まず一つ目の質問の答えですが、相手側が一方的にこの国をめの敵にしています。そして二つ目の答えですが、あの刺客の様子を見たかぎりでは、現在対立関係にある国の中ではアダンス王国の刺客しか該当する手口の相手はいません」


エル君は、そうはっきりと言い切った。


「そうですか。ちなみに、アダンス王国の刺客の手口というのはどういったものなんですか?」


「アダンス王国の刺客というか、アダンス王国の手口はですね、奴隷を利用したものです」


エル君は、忌ま忌ましげにそう言った。


「奴隷?・・・なるほど、そういうことですか」


私は、エル君の奴隷という言葉に疑問を抱きかけたが、今だに無駄なことを続ける人影を確認して、エル君が言っていることの意味を理解した。今こちらを攻撃している人影の愚直というか、無意味だとわかっていそうなのに繰り返される機械的な行動からして、自分の意思でこちらに攻撃しているわけではないのでしょう。あの人影が奴隷であり、主人の命令で強制的にこの行動を強いられているのなら、この行動にも納得がいきます。


「たしかにあの様子を見るに、強制されて行動している奴隷に見えます。しかし、他の勢力がアダンス王国の手口を真似している可能性はないのですか?」


いくら王族とはいえ、小さなエル君が知っているような情報なら、他の勢力があれば普通に知っているでしょう。


「その可能性は僅かにはあります。しかし逆に言うと、その可能性は僅かしかありません」


エル君は断言した。


「その根拠はなんですか?」


何故そんなに断言出来るのでしょう?それとも私の知らないだけで、この国の子供なら小さな子供でもみんな知っているような周知の事実などがあるのでしょうか?


「根拠はですね、ここに来る前に話した、この国に入って来る侵入者の馬鹿さと間抜けさです」


「馬鹿さと間抜けさ?」


たしかに遊ぶ場所を選ぶ話の中で、エル君がそんなことを言っていましたね。けれど、それが相手の所属を確定させる根拠になるのでしょうか?


「サラさんが何を考えているのかはだいたい想像がつきます。僕が先程馬鹿さと間抜けさが根拠だと言った理由はですね、数百年経っても変わらない彼らの種族的な性質をよく理解しているからですよ」


エル君は、その事実が煩わしいといった顔で言い切った。


「そんなにアレなのですか?」


そんなにひどいのですか?


「ええ、うちの国では周知の事実ですが、あの国の内政その他全て酷いものですよ。アダンス王国の場合ですと、上層部のほぼ全てが腐っています。当然民衆や国の為に活動しようなんて考えないので、アダンス王国の国力は最低辺です。にもかかわらず、自分達で国を豊かに出来ないからと、豊かなこの国に高頻度で戦争を仕掛けてくるんです」


「戦績の方はどんな感じですか?」


まあ、答えは予想がつきますけど、一応確認しておきましょう。


「もちろん、この国の全戦全勝です。というかですね、戦争している気なのは向こうの国だけです」


「と、いいますと?」


「相手がアダンス王国の場合ですと、うちの国はわざわざ軍を動かす必要さえないんです。魔人や幻獣などの高位種族が数人出向いて魔法を二三発敵の目の前に放つだけで相手を退去に追い込めますから」


「ああ、たしかにそれは戦争とは言えませんね」


「そうでしょう。そんな戦争ともいえない活動を、数百年単位で繰り返し続けてくるんですよ、アダンス王国は。馬鹿か単細胞としか言いようがないでしょう?」


「そうですね。エル君が相手を馬鹿と言う理由がよくわかりました。そういえば、間抜けと言う理由の方はなんなんですか?」


「僕が間抜けと言う理由は、アダンス王国の刺客を使った手口にあります」


「どういうことですか?」


「今こちらを攻撃してくるあの刺客を見れば判ると思いますが、アダンス王国の刺客の脅威はそれほどでもないんです。ヒューマンの奴隷は戦闘力が低いですし、その他の種族の奴隷はアダンス王国が戦争で捕まえた人達ですので、人格まで完全に縛らないと反乱をおこされるんです。ですから、この国に送り込まれた他種族の奴隷は、基本的に単純な命令しか聞けないんです。それでは、奴隷の元の戦闘力がいくら高くても、対人戦では不意打ちぐらいにしか使えません」


「そうですね、自己判断で動けないならそうなりますよね」


「ですから、奴隷を捕獲することもさして難しくはないんです。その為、アダンス王国が苦労して捕まえた奴隷は、うちの国で解放されて故郷に送還されるのが一つの流れと言えるレベルにまでなっています」


「それって、苦労して得たた成果を無駄遣いした上、この国にろくなダメージも与えられないまま、間接的に敵国の戦力を回復させているっていうことですか?」


「そのとおりですよ、サラさん」


「それはたしかに間抜けですね。ということは、あの刺客も捕獲した方がいいのですか?」


「できればそうしてもらいたいです。操られている相手が死ぬのは、目覚めが悪いですから」


「わかりました。それでは、アストの対人戦の相手になってもらいましょう」


マスターは、まだ対人戦はしたことがありませんから、ここで手加減とか覚えてくれると嬉しいですね。


私は、そんなことを考えた。

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