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不可避なLIMIT  作者:
第一章 「UNKNOWN」
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第7話

「協力者の皆さんが揃ったようなので、生徒さんは前の方に集まって下さい」


 グレーのパンツスーツを着た美人が招集をかける。それに合わせて、マスコミのフラッシュが嵐のようにたかれた。


 気付くと、さっきまで来ていなかった二人もこの場に到着していた。男女一名ずつ。男は少年っぽいあどけなさを兼ね備えた奴、女の子は大人しそうな見た目の子だった。どちらも一見普通に見えることに、ほっと胸を撫で下ろす。


 言われた通り、文科省の人間と思われるスーツ美人の前に渋々集合した。近くで見ると判るが、肌は白く綺麗で、すっきりとした目鼻立ち。片耳にかけられた髪は艶があって滑らか。スタイルも抜群で、頭も良さそう。彼氏いるのかな、と彼女を凝視しながら考えていると、僕の視界に軽蔑の色を含んだ涼葉の表情が入ってきた。


「うわっ、何だよ!?」


 涼葉はじぃーっと僕の顔を見つめてから、口を開いた。


「別にぃ?」


 別にぃ、って何だ。全然そんな顔してないじゃないか!


 明らかに不機嫌な涼葉を尻目に前を向く。ちょうどよく話が始まりそうだったから。


「えー、皆さん。おはようございます。私は文部科学省の都築(つづき)冬子(とうこ)と申します。これから皆さんには日本をより良くするために我々が用意した国家プロジェクトに参加してもらいます。約半年という期間、是非協力願いたいと思っているので、どうぞ宜しく」


 都築さんが頭を下げる。耳にかけていた髪がさらさらと零れ落ちた。随分と男らしいサバサバとした物言いだ。


「次に、本日お集まりいただいた保護者の皆様。ご子息、ご息女にご協力いただくこと、感謝しております。この場を借りて、御礼申し上げます」


 再び頭を下げる都築さん。


「それでは時間になりましたので、皆さんはこちらが用意したバスに乗り込んで下さい」


 言われて生徒たちは、それぞれ挨拶しに一度保護者の元へ戻る。それは、僕も同じ。


「ばあちゃん、行ってくるね」


 僕がそう言うと、ばあちゃんは皺くちゃな笑顔で僕の手を握った。


「行っておいで。体には気をつけるんだよ」


 僕もばあちゃんの手を握りしめ、それから離れた。手を振って、都築さんに続く。


 これから、半年間の国家プロジェクトが始まるんだ。



 バスは自由席だった。大抵の人が一人で一列使用だったが、僕の隣には涼葉がいた。彼女が当然のように座って来たのだ。しかも、先に窓側に座っていた僕を強制退去させ、自分がそこに座る。仕方なく僕は通路側の席になった。


 沢山の人に見送られながらバスが発車する。ばあちゃんも涼葉の両親も、マスコミの人も、偶々この時間東京駅にいた人も。みんな僕たちに向かって手を振っている。


「さて諸君、改めておはよう」


 車が走り始めて数分後、都築さんがマイクを持って前に立つ。


「これから半年間、君たちのクラスの担任を務める都築だ。宜しく」


 十人しかいないのに、クラスなんて設けるのか。


「早速だが、これから長い道のりになる。長い間バスに乗っていると疲れるから、今から疲労を軽減させる飲み物を配る。まだ発売してないが、認可が下りてそろそろ販売される予定のものだ。それを君たちのために特別に用意した。だから心して飲めよ。それじゃあ今から配る」


 都築さんの説明が終わると、一番後ろの席に座っていた体の大きな男性がその飲み物を配り始めた。小さな紙コップに入っていて、色は蛍光っぽいオレンジ色をしていた。


「何か色が毒々しいね」


 眉根を寄せて、紙コップの中身をじっと見つめる涼葉。彼女は着色料を嫌う傾向にある。別に色なんて関係ないじゃん! どうしてわざわざ色付けるの!? 気持ち悪い!! などと文句を言うクチだ。


 こんなんで本当に効くのかね? と疑問を抱きながら僕も飲み物を見つめる。だけど、折角先行試飲できるんだから、と僕はそれを一気に飲み干した。


「意外と美味しい……」


 少し薬っぽい味はするが、それを凌駕するほどの果汁の酸味があって味はそれほど悪くない。


 僕の素直な感想を聞き、涼葉は恐る恐るコップを傾け、口を着けた。


「だけど、あれ……?」


 暫くすると頭がボーっとしてきて、急激に眠くなってきた。落ちてくる瞼に必死に逆らったが、徒労。僕は知らず知らずの内に、深い眠りへと誘われてしまった――。

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