第6話
六月一日、東京駅。
どうしてこんなところを集合場所に選択したのか全く理解できない。周りにはどこかの旅行会社のツアーに参加するご年配の方々が多数。情報を聞きつけたマスコミの人たちがもりもり。
五月最後の土日は何をするでもなく、この合宿の準備をしていた。両親は半年も離ればなれになる息子を家に残し、休日出勤。大人は色々忙しいんだって。そのため、僕はばあちゃんと一緒にテレビを見たり、煎餅を食べたり、独りでゲームしたり……、と勿体ない時間の使い方をしていたわけだ。
今日も協力者の親御さんが会社を休んでお見送りに来ている中、僕の両親は不在。いるのはばあちゃんだけ。僕もうばあちゃんいないと生きていけないよ。
辺りを見回すと、協力者と思われる高校生は僕を含め八人その場にいた。この様子だと人数は十人で間違いないだろう。今のところ、男女四人ずつ。バランスがいい。
しかし、問題はそこじゃない。これから約半年一緒に生活するメンバー個人がどんな奴か、ということが焦点である。そこで僕はまじまじと人間観察を始める。そして、すぐに挫折した。理由は至極簡単。仲良くなれそうな人がいなかったからだ。
一人はもうホント、オタクっぽく見えるガリ勉。黒縁の四角メガネをかけて、何かの参考書を一心不乱に読む男。両親も近くにいるが、二人ともメガネだ。お母さんの方は三角メガネ、お父さんの方は丸メガネ。この親にしてこの子あり、といった感じだ。全国放送されるのに、あんなんでいいのかね。
その男と対照的なのは、サッカーボールを自在に操る爽やか少年。スポーツ万能の匂いがプンプンする。そしてあのルックス。きっとバレンタインは学校の女子全てのチョコを掻っ攫っていくんだろうな。というか、なぜにここでサッカー上手いですアピールをする!?
次はメイクをバッチリした女の子。アイドル志望なのか、テレビに向かって様々なポーズを決めている。かなりキャピキャピしている。あのノリに付いて行ける自信は僕にはない。
その子の隣にいるのは、唯一学校の制服を着ていない女の子。ピンクのフリフリのワンピースを着て、それに似合う栗色の長い髪をふわふわと靡かせている。そして、なぜか腕には熊のぬいぐるみが……。と書くと、折角のメルヘンなイメージが恐怖の色に染まってしまうな。〝熊〟じゃなくて、〝くま〟です。金に近いベージュ色のくまさんのぬいぐるみです。彼女を一言で形容すると、フランス人形みたい。本物見たことないけど。
更にその子の隣で、堂々としゃがんでメンチ切ってる女の子が一人。髪の毛は漆黒ロングストレートで、穿いているスカートもかなり長い。不良さんだと思われます。
その不良さんと対面で立っているのは、黒魔術とかやっていそうな根暗男。独り言をぶつぶつと呟いている。無造作に伸びた前髪は目を覆い、彼の正確な顔が把握できない。だけど、目が合ったら呪い殺されそうなので、ちょうどいいか。
ざっと見てこんな感じ。そこで僕は大きく溜息をついて肩を落とす。
つーか、まともな奴いないのかよ!? 文科省どんだけ当たりくじ引きまくってんだよ!?
「あっ、ゆーすけ!」
声が聞こえた方に振り向くと、嬉しそうに駆けって来る涼葉が目に入った。彼女から少し遅れて、後ろから両親が付いて来ている。お父さんの方は、一ヶ月の海外旅行にでも出かけるんじゃないかってくらい大きなスーツケースを娘の代わりに押して来ている。
お二方が僕たちのところまで辿り着くと、涼葉父が柔和な笑みを向けた。
「おはよう、悠介くん」
知的な銀のメガネをかけた穏やかな人だ。何度か見たことあるけど、ちゃんと話すのは初めてかもしれない。
「おはようございます」
取り敢えず、僕も挨拶を返す。
「悠介くんも一緒で良かったよ。涼葉一人じゃ少し心配だったし。向こうでは涼葉のこと宜しく頼むね」
「あ、はい!」
慌てて返事をして、なぜか背筋を正す僕。涼葉父は満足げに微笑むと、近くにいたばあちゃんのところへ挨拶しに行ってしまった。ほっと息をつくのも束の間、まだ僕の目の前にいた涼葉母が口元に手を当ててクスッと上品に笑っていた。僕はそれに気付き、赤面しながらもキッと表情を引き締める。
「ごめんなさいね、突然。あの人、目の届かないところに涼葉が行ってしまうのが不安なのよ。だから悠介くんも一緒で嬉しかったんだと思うの。涼葉を宜しくなんて言っていたけど、あまりあの人の台詞、重く受け止めないで大丈夫よ」
僕が涼葉父の言葉に緊張しているように見えたのだろう。まあ、実際緊張していたのかもしれないけど。だから涼葉母の方が僕を気遣って声をかけてくれたのだ。優しい人だ。




