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不可避なLIMIT  作者:
第一章 「UNKNOWN」
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第5話

 五十分の授業は、涼葉を回復させるには十分の時間だったらしい。授業終了後、彼女は嬉々として、椅子に座っている僕の横にしゃがみ込んだ。


「ゆーすけもあのプロジェクトの協力者に選ばれたってホントなの!?」


 僕は首肯する。


「……それはかなり驚きだね。十人しか選ばれないって言ってたのに、こんなに近くに当選者がいるなんて、ホントは十人じゃないのかもしれないよね」


 それは一理ある。だけど、わざわざ偽の情報を報道するのって何かメリットあるの?


「でも、ゆーすけも一緒で良かった! わたし一人じゃ不安だったし。知ってる人がいると安心だよね!!」


 どの言葉に〝でも〟が付くのか判らなかったけど、涼葉が言っていることは確かにそうだ。僕も一人は少し不安だった。人生のストーカーかも、とか考えておいて調子のいい話だけど、やっぱり知り合いが一緒なのは心強い。


「プロジェクト開始って六月一日だったよね? 先生にもその間休むってこと伝えておかないとね!」


 六月一日、国家プロジェクトは始動する。開始まで二ヶ月もないなんて急じゃないか? 普通なのかな?


「じゃあ、今日言いに行こうよ! 思い立ったが吉日って言うし」


 涼葉はにっこりと微笑むと、次の授業の教科書を取りにロッカーへ走っていった。


 僕は次の時間は空きなので、教室移動をしなくてはならない。筆箱、ノート、適当な教科書、それと書店のブックカバーがされたラノベを手に廊下に出た。


 僕は数字がからっきしダメな文系男子。片や涼葉は数式どんとこいの理系女子。将来はお父さんに倣って医者でも目指すのか、生物を一生懸命勉強中。因みに僕は、生物で人体の授業を受けた後の昼は食欲が起きません。


 放課後、早速涼葉と職員室にやって来た僕。

「先生、透谷くんとわたし、例の国家プロジェクトの協力者に選ばれたので、六月一日からお休みいただきます」

 若い男性の担任教師を前に、涼葉がにっこりと微笑む。僕はというと、その後ろでただ黙って立っているだけだった。そして辺りを見回す。

 職員室から音が消えた。全員の視線が僕たちに集まっている。これで先生方はみんな地獄耳だということが判明した。陰口叩いている生徒は裏で目を付けられていて、成績下げられているんじゃないか?

「片瀬……、今なんて?」

 先生は自席に座りながら、自分の耳を疑ってリピートを求める。

「だから、透谷くんとわたしが国家プロジェクトの協力者に選ばれたんです。なので六月一日から約半年間、休学します」

 戸惑う先生。

「……二人共選ばれたのか?」

「はい」

「そ、そうか……」

 先生は面食らい、次に何をすればいいのか脳が追いついていないようだった。

「念のため、文科省から送られてきた手紙を明日見せてくれ。手続きとか事前に必要なことは確認しておく」

「はい、ありがとうございます。それでは失礼します」

 涼葉は会釈程度に一礼すると、終始職員室内の全ての視線を独占して廊下に出て行った。僕は結局一言も喋ることなく一礼だけして、彼女の後に続く。


 笑顔で言っているはずなのに、どこか冷たく聞こえる言葉。無駄なく事実だけを伝える、まるで欧米人のような物言い。こういうところで彼女は勘違いされやすい。ああいう対応が先生たちにクールな印象を与えるんだろうな、と僕は涼葉の背中を見て思う。


 大人びて見える子供。

 僕の涼葉に対する印象は、ここ数年変わっていない。


 学校に休学の申請をしてからは大変だった。どこからか僕たちが国家プロジェクトの協力者に選ばれたことを聞きつけたクラスメイトがいたようで、校内中の噂となってしまい、全く知らない奴らまで話に聞きに来る始末。まるで学校のアイドルにでもなった気分だ。お陰で僕の顔はゾンビのようにやつれていった……。

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