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元伝説の聖女のたった1年の学生生活  作者: びわ
1章−静かな学期−
22/24

(21)クリオブその4−社交−

 入った瞬間に、そう言われた。怖い顔つきでケノンの方に歩いてゆく。

「足の引きが甘いわ。」

「背筋ももっと……!」

「ヒャッ!」

 そう言ってケノンの背中をグッと正す。私から見ても綺麗な姿勢だ。少しして、先輩たちが納得して、私たちに話しかけた。

「そちらのお嬢さん、貴方の家は?」

 ただキャロリにだけ聞く。なので私は何も言わない。

「わっ私ですか?私は、ドルネゾです。こっちはミレズムで……」

「そっちの子については聞いていません。」

 そう言って先輩は少し考え込む。考え込むというのは少し違うかもしれないけれど。

「ですが……ミレズム……まあいいわ、ドルネゾ嬢、そのカーテシーは目上の人にするものです。伯爵なのでしたらもっと軽いものがいいのでは?」

「はっはい……」

 そう小言を言われ少しキャロリは顔を歪ませる。先輩は次は私に向き直って、先ほどの厳しい表情は一変、とても優しい顔で言う。

「その点、ミレズム嬢は素晴らしいですね!」

 キラキラとした目で私の周りを一周する。周りながら「ふむ」「素晴らしい」と言う。

「ミレズム子爵は11歳になる孤児を引き取ったと聞いていたので期待していなかったのですが、貴族になってから4年しか経っていないのに、洗練されていて、まるで……王子妃のようです!」

 興奮気味に言われ一瞬ビクッとする。確かに先輩たちから見ると4年間で作法を覚えたという認識になる。でも私の前世は侯爵令嬢。そのうえ第3王子のと婚約していた。だから……彼女らの感覚はあっている。

「……まあ一旦いいです。そこにお座りください。」

 そう言われ、私たちを座らせる。ケノンはさっき言われて少しい萎縮している。

「コホン……今日はお茶会を行います。」

 始まると1人の先輩が後ろまで行って、紅茶を入れた。そして皆の前に並べる。

「どうぞ。」

 飲むと花のような香りが広がった。花畑にいるような、そんな香り。

「これは……」

「とっても美味しいですね!口の中で花が咲くようで美味しい〜。」

 先輩の言葉にかぶせて喋ると、あっ、と口元を押さえた。

 しかし先輩に怒るような様子はない。

「……よく分かりましたね。とある王妃も同じことを言っていたそうです。素敵でしょ?」

「はい!」

 怒られなかったケノンは犬が尻尾を揺らすように笑顔で答えた。

「でも話そうとする人の前で、かぶせるのは良くないですね。以後気をつけなさい。」

 そう頬笑むと紅茶をゆっくり飲んだ。美しい仕草で惚れ惚れする。

「……話は変わりますが、知っていますか?〇〇伯爵の噂。」

 その先輩の言葉に、他の先輩が反応した。

「ええ、新生児を受け入れたそうですね。」

「でも〇〇伯爵は未婚でしょ?お相手は誰でしょうか?」

「噂では……の……だそうですよ。」

 噂話になると急に空気が変わる。とある先輩は心配げに、とある先輩は面白げに、噂を話す。

 これはただお喋りしているだけのようど、ちゃんとした『社交』。

 社交界では噂を知らないことが足をすくわれる事がある。情報こそ命の世界。

 噂も1つや2つではなく、噂の幅も学園の話から政治まで色々あった。

 どこそこと、どこそこが婚約したとか▲▲子爵家が借金があるだとか、最近ロギコス侯爵が孤児を引き入れたとか。

「そういえば、サミット商会が魔道具に力を入れているとか、ミレズム嬢。」

 サミット商会はミレズム子爵夫人の実家の商会であり、今はミレズム家が運営している。

 (こういう話題も出てくるよね。)

「……確かに聞いています。最近は質の良い魔石が多いらしいですよ。」

 そう頬笑むと、「魔石……」と誰かが呟いた。嘘はついていない。情報があればあるほど確かだとわかるだろ。

「魔石と言えば、最近 チャルメイト侯爵家で鉱山が見つかったらしいですよ。魔石が取れるとか。」

 チャルメイト家……私の前世の家。確か()が継いたはずだが、ちゃんと残っていてよかった。

 今ではチャルメイト家の立場は何なのだろう。

「チャルメイト侯爵家といえば、大聖女様の美貌の家ですよね。魔石の鉱山とは凄いわ。」

 先輩の言葉を聞くケノンは興奮するように言う。

「聞いたことあります。大聖女様の家は皆とても美しいと。」

「……」

 (そう言えば言っていたな。そんな事。)

 前世では聖女だったし王子の婚約者だった。お世辞とか色眼鏡の結果だと思っていた。妹に言っている所を見たことがなかったし。

「有名な話ですよね。魅惑の侯爵家。人ならずとも、聖女様の代では女神さえ魅了したといいますし。」

「……」

 (買いかぶられるの……苦手。ほんと、苦手。)

 自分自身を見てくれないように感じて、本当に苦手だ。

「そうですね。そう言えば……」

 噂で人を測られる。社交界とはそういう世界。前世、デビュタントからの約3年間。社交の主と言われても、皆腹の探り間というのは変わらない。だから苦手だった。1つの噂が人を決める。

 例え悪女と言われれば善人も皆の中で悪女になる。例え人を騙そうとも善人と言われれば皆の中でその人は善人だ。

 (……そういうのが社交の華であり、私は苦手。)

「皆さん。これで今回のクリオブ体験は終わりにいたします。」

 前回と違い、最後までいると、夕方になっていた。

「は〜。楽しかった!もう決めた!私、ここに入る!」

「え?ホントに?一番言われていたのに?」

「うん!でも他のも見るだけ見るから!」

 ケノンはそう言って歯を見せて笑う。私はクスリとつられて笑った。

「……歯を見せるのはよくないわよ。」

「そんなこと言わないでよ〜」

 私はこの子はきっと、イジメられることはないだろう。良くも悪くもいい子で素直だ。

「……私には無理だな……」

 腹の探り合いのような社交も、ケノン程の純粋さも。

「え〜?でも一番褒められてたじゃん。」

「何だか合わなかったのよ。」

 明日でクリオブ体験は終わるし、魔道具に行くだろう。あとは……

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