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第8ー2頁 厳しい草原を越えて

王都へ向かう道中、不幸にも盗賊団に襲われてしまった静紅と六花。


力の差は歴然としており、それは静紅の方に傾いていた。




 これまでの経験で、物体操作について少し分かってきたことがある。


 それは、無差別に周りの物を浮かすor物体操作の対象を決めて、その物体を浮かすと言う二つの浮かし方がある事だ。


 同じ[浮かす]だが、全く効果が違う。


 例えば、室内で前者の浮かし方をすればどうなるだろうか。


 小さな家具たちはもちろん、もしかすると家という建物ごと動いてしまう恐れがあるため、室内での能力使用は、後者を使用する。


 そうして使い分けることで、効果は良く、被害も無く使用することが出来るのだ。


 あと分かっていることと言うと、私の能力は生物には効果が無いということ。


 今の状況では、無差別に浮かすのもいいと思ったが、ひび割れた地面で六花に危険が及ぶ恐れがあるので止めた。


 突如自分の足元が揺れた男達は、相当驚いたのか尻餅をついて腰を抜かした。


「ひ、ひいいいい! どうか命だけは……!」


「いやいや、今更命乞いとかあり得ないから! 私なんて楽勝で倒せるんでしょ?」


 周囲の木や岩などの自然物を浮かせ、盗賊の頭の上で固定する。


 私が気まぐれにも能力を解除すれば、あとは重力に従って盗賊は潰れてしまうだろう。


「そんな……卑怯だ! 俺たちは降参してるのに!」


 先ほどまでこちらを襲おうとしてきた男たちは、涙を流しながら無様に両手を上げる。


「ふふふ、殺し合いに卑怯も何もありませんよ。それに……こーんなか弱い女の子を襲うような最低な盗賊、ここで消しておいた方が良いのです」


 その六花は、顔こそ笑っているが目は光を持っておらず、どこか闇を感じる。


自然と声のトーンもいつもの二倍ほど下だ。


 ああ、怖い……。


「っ……!? な、なんだよこいつら! ただの女じゃねーぞ!」


「アニキ、ここは一度退却しましょう!」


「お、覚えてろよ! このすっとこどっこいー!」


 そう言いながら盗賊の男達は逃げていく。


「すっとこどっこいって……」

 

 逃げ帰る盗賊の背中を襲うほど罰当たりなことをしたくはないので、私は能力を解除して自然物を地面に置いた。


「まああれだけ怯えていれば、今後一般人を襲うことはないでしょう。お手柄ですね」


「助かったけど、なんか怯えられるのは良い気がしないね……」


「ボクは好きですよ、そういうかっこいい静紅さんが」


「はいはい、ありがとね。それじゃあまあ一件落着ってことで進むとしよっか!」


 盗賊の置いていった荷物を漁り、使えそうなものをポーチに入れると私たちは王都へ続く国道を再び歩き出すのであった。



・・・・・


「ぐーーー」


 六花の腹の虫が、静かな草原に響いた。


「あ、あわわわ……ち、違いますからね!」


「どう考えても六花でしょ……まあ私もお腹空いてきたし、そろそろご飯にしよっか!」


 ちょうどすぐそこに休憩用のベンチがあるし、そこに腰をかけて休憩にしよう。


 私は盗賊から奪った……いや、頂いた荷物の中から微かに熱を持った石を取り出すと、それを手に摘んだ。


「それは……ルイスさんが言っていた魔法石ですか?」


「見たいだね、私も見るのは初めてだけど」


 赤く光って微かに熱を持っているため、火属性の魔法石だとわかる。


 魔法石。


 その名前の通り、魔法の力である魔力が長い年月をかけて石に宿った鉱石だ。


 それを叩き割ったり、特別な祭壇に置くことで石に宿った魔力を外に出すことができる。


 この場合、石は火属性の魔法石なので周囲に火を灯す程度の魔力を撒き散らすだろう。


「よいしょっと」


 私は事前に用意しておいた焚き火の中心に魔法石を持っていき、それを叩き割った。


 石といっても非常に軽くて脆く、私の力でも簡単に割ることができた。


「わあ……本当に暖かい火が出てきました……」


 石を割っただけでちゃんとした火が出てくるなど、私たちのいた世界ではあり得なかった。


 火花や火種など、小さな火の元は出てくることがあったが。

 

 初めての光景に私も六花も焚き火に釘付けだ。


「人から奪った盗賊の物を奪うって、実質取り返したことにならないかな?」


「最終的に持ち主のところに戻ってないのでならないのでは……? ほら、焼いていきますよ」


 六花は私の問いを受け流し、蜜の入った甘いリンゴを焚き火のそばに置いた。


 キノコタンの森を散歩していると、ぶどう以外にもリンゴが自生していることが分かった。


 もちろんリンゴジュースも作ったが、リンゴジュースを持ち運びするのは難しい。


 そのため、生でも食べられるようにそのままリンゴを持ってきたのだ。


 火で焼けば濃縮し、溢れんばかりの蜜が垂れてくる。


 それでいてかなりの大粒で、一個だけで弁当には十分な量になるだろう。


「近くの村や町までどれくらいなのかなあ。夕暮れには竜車乗りのあの子が迎えにきてくれるって言ってたけど、まさか野宿になるのかな」


「たまにはそういうのも良いじゃないですか、前世じゃ忙しすぎてそれどころじゃありませんでしたし」


 木の棒でリンゴを突きながら六花はそう言った。


 その言葉に私は「ふふっ」と微笑んで。


「そうだね……」


 快晴の青空を見上げながら、私は彼女の言葉に短く答えるのであった。


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