第3-3頁 キノコタンの歴史
川で能力を試した静紅は、次々目覚めてくる友人に朝食を渡す。
・・・・・
「ふわぁ…あ、おはようございます」
「おはよーやでー」
「あれ? 静紅が一番か」
六花、結芽子、蜜柑の順に起きて来たことを確認し、私は木の棒に刺した食料を皆に渡した。
「おはようみんな、調子はどう?」
「……なんかキモいぞお前、爽やかすぎる」
「き、キモいって言うな!」
朝から仕事もなく、この美しい景色の草原を眺めていたからだろうか。
なんだか心が洗われた気分だ。
むしゃむしゃとご飯を食べる皆の顔を見ていると、皆もまたいつもより顔色が良くなっている気がした。
・・・・・
それから私たちは、準備をして森の中へ入っていった。
準備と言っても、護身用に木の棒をそれぞれ持っているだけだが、それでも安心感は上がる。
昨晩よりかは、明るくなっていたが、やっぱり森の中は薄暗い。
人の出入りが無いのか、ほぼ獣道のような通路を進んでいくと、急に視界が明るくなった。
木々は切り倒されていて、草も生えずに、薄黄色の地面がむき出しのスペースがあった。そこには数軒家が建ち並んでおり、優しい方のキノコタンが集まって何か忙しそうに作業をしていた。
「ここがキノコタンの集落だ! 昨日森の中を歩いてると、キノコタンにここまで案内されたんだぜ!」
「そこで女王のルイスと出会ったんだね」
どこでルイスと出会ったのか不思議だったが、そういうことだったのか。
蜜柑と結芽子が走って集落へ近づいていく。
集落の中心には小さな畑があり、多少の文明はあるように思える。
『ぽぽー』
「相変わらずかわいいねえ、一匹くらい誘拐してもバレないんじゃない?」
「やめてください、異世界に来て早々犯罪者とかボク嫌ですよ」
一匹のキノコタンを持ち上げて抱いていると、一人の少女が集落の奥から歩いてきた。
「おはようございます皆さん! 朝からご足労いただきありがとうございます!」
キノコ型のベレー帽を被った少女ルイスは、こちらの姿を見るけると笑顔で高く手を振った。
「おはようルイス、朝から忙しそうだねー」
見てみると、忙しなく歩き回るキノコタンたちの姿がある。
持っているものが木で作った剣だったり、投げるのにちょうどいいくらいの大きさの石だったりするのが気になるところだが。
「はい、戦争の準備です。戦争と言ってもかなり小規模のものですけれどね」
「せ、戦争!? だめだよ戦争は、危ないよ!」
「落ち着いてください静紅さん! ルイスさんは小規模って言ってましたよ!」
慌てる私の首根っこを掴んで、六花はルイスに詳しく説明するようお願いした。
「はい、私たち善キノコタンと敵方、悪キノコタンは昔から幾度も戦いを繰り広げてきました……」
ルイスの話をまとめると、こうだ。
私たちが優しいキノコタンと呼んでいる、目が赤くないキノコタンを善キノコタンといい、その逆が悪キノコタンと言うらしい。
数年前までキノコタンたちは共に生活していたが、とあることがきっかけで二手に分断してしまったらしい。
その後、領地の取り合いや資源の取り合いなどがきっかけで今まで五回も戦争をしてきたようだ。
今回で六度目になる戦争で、お互い決着をつけるべく全力で敵を滅ぼそうと入念に準備をしているらしい。
敵を滅ぼせば、この広い森の資源は全て自分たちのものになる。
ルイスはそこまでして戦いたくはないそうだが、ここまで来てしまった以上引き返すことも出来ない。
「悪キノコタンはこちら側と違って鉱山資源を多く持つ山の近くに領地を置いています。そのため、鉄の武器や装備を持って攻めてくるはずです……そうなればこちらは打つ術がありません……!」
見ても分かるように、ルイスの善キノコタン側の文明はせいぜい弥生時代のレベルだ。
しかし敵の悪キノコタンは鉄の剣や盾を使い、中世の騎士のような格好をして攻めてくるらしい。
力の差は歴然だ、善キノコタンが敵うはずもない。
「無理も承知で言っています!あなた達に被害が及ばない確証はありません。ですが……あなた達がいなければ私達は……善キノコタン達は悪キノコタン達に殲滅されてしまいます。お願いします!!」
心配そうに、ルイスを見ていたキノコタン達も地面に座り込み、お願いしてきた。
ここまでされると断るにも断れないし、ルイスのような少女が頭を下げているんだ、助けない理由もない。
「分かった。私達も力を貸すよ! 異論はないよね?」
私が他の3人と目を合したが、全員が首を縦に振った。
「ありがとうございます! ありがとうございます! これで百人力……いえ、四百人力です!」
ルイスが泣きながら大喜びした。本当に善キノコタン達の事を考えているんだな。
凄くいい女王様だと思うよ。
『『ぽぽーー!』』
キノコタン達もルイスを囲むように、円になって喜んだ。
何事も無く終わったらいいんだけどなぁ……。
その夜、私たちはルイスの家にお邪魔することになった。
キャンプは片付けてきたし、ルイスに協力する以上近くにいた方がいいからだ。
・・・・・
ルイスは普段、エネルギーを出来るだけ消費しないためにキノコタンの姿として生活しているようだが、今晩は私たちと会話をするために人の姿で居てくれているようだ。
「ルイスちゃんまだ若いのに女王とか凄いなあ」
ルイスは身長的に中学生くらいの体格の少女だ。
もちろん魔物だから見た目と反して年齢をとっているかもしれないが。
「特異体質で、生まれた時からこの身体なんです。この姿から成長することはありませんので、少し寂しい気もします」
「寂しい?」
「人間さんは赤ちゃんから大きくなって、大人になって、老人になります。それが生命としての自然系であり、私は人間の姿でありながらその性質を持っていません。それがなんだか寂しいんです」
「歳を取らないって実は凄いことなんだよ? 人間の夢というか、不老の力を手に入れるために人生をかける話も聞いたことあるなあ」
もちろんおとぎ話の中の話だけど。
「それに寂しいって感情は誰かと一緒にいることで紛らわせることもできるんだよ!」
「誰かと……一緒に?」
私は立ち上がって、ルイスの隣に座る。
家の窓から星を眺めながら、私は彼女に言った。
「私や私たちがいれば、寂しいって気持ちはちょっとは軽くなるんじゃない?」
「……そうかも……しれませんね。ありがとうございます、シズクさん」
「一緒に戦う以上、私たちはもう友達だし仲間なんだから遠慮なく何でも言ってね!」
星が降りそうなほど実る夜。
私は家の外に出て、戦いに使いそうなものを集めることにした。
能力で石を飛ばしたら攻撃できるかな。
手頃な小石を数個拾ってポーチに詰めると、私は浅くため息をつくのであった。




