第4-1頁 舞う細剣
異世界転移した私達は、キノコタンの女王…ルイスと出会う。
ルイスからキノコタン同士の戦争について聞かされた私達は、ルイスに手を貸すことを決意する。
戦争前提で話は進んでいるけど、どうにか血を流さずに終戦できないものかな……。
ルイスの家の寝床に寝転がりながら顔を壁に向け、しばらく考え事をしているとようやく少し目が覚めてゆっくりと立ち上がった。
私もポーチの中に攻撃用の石を入れているので何とも言えないが、やっぱり戦争は悲しいものとして子供の頃から教えられてきた以上、あまり乗り気ではない。
それは六花たち他の三人もきっと同じはずだ。
「うわ、まだ暗いじゃん…」
偶然見えた窓の向こうの景色を前にして、思わず口から心の声が漏れてしまった。
この世界に来てから三日目の朝を迎えたが、今朝も周りはまだ暗闇と静寂に包まれており、私の気持ちも自然としんみりする。
社畜時代の癖……いい加減早く抜けてくれないかな。
ため息をついた後、眠気を完全に消すために散歩に出かけることにした。
散歩は健康にいいって聞くし、早起きは三文の徳って言うし。
「てか三文って結局なんだったんだろう……?」
ブツブツ言いながら家を出て、まだ日の出ていない青みがかった集落を歩いていく。
流石に散歩とか景色を見るだけじゃいつか飽きが来る。この世界の暇つぶしを見つけないと。
キノコタンの領地をそっと抜け出し、100メートルほど歩いていくと、この世界に来て2種類目の魔物と遭遇した。
「うわ……あいつゲームとかで見たことあるよ……」
私の前にいるそれは、白銀の毛並みを持つ四足歩行の犬または狼。
犬系特有の飛び出た口、信号機の赤を思わせる灼眼。
『ぐるるる…』といかにもお腹を空かせたような唸りを上げ、見るからに強靭な牙の間から溢れ出すヨダレを垂らす魔物は、1歩また1歩と距離を詰めてくる……。
というか、私の位置バレてるのかよ!
「ッ……!!」
声はおろか、音にもならない悲鳴は喉を通して、空気となって外気へ出ていった。
え、待って! こいついかにも中盤に出てくる弱キャラっぽいんだけど! 私まだ駆け出しなんだけど!?
しかしここで相手に背を向けると、それは死を意味する。
意を決した私は腰に提げた細剣を引き抜き、それを高く放り投げた。
キノコタンの倉庫に眠っていた人間用の細剣だ。
悪キノコタンとの戦いに使う予定だったが、こいつで試し切りも悪くない!
『ぐるぅ?』
今から戦う相手が自ら武器を放り投げるという予想外の展開に、狼型魔物も驚いて後ずさる。
「ふふ、よくこれを見といて。これが今からあなたの身体を斬るんだからね!」
私は胸の高さまで細剣が落ちてきたところで能力を使用し、空中で自由に操作できるようにする。
「動け細剣! ……ふっふっふ、魔物さん、私の能力をとくとご覧あれ!」
やがて細剣は、くるりと横回転し、魔物に剣先を向けた。
揺れる月光と夜雲を細剣の鋼が反射させ、辺りに張り詰めた緊張感が自然と拡がる。
『ぐるらぁー!』
刹那、魔物は私に向かって飛びかかってきた。
鋭利な爪の生えた前足をこちらに向けて、大口を開けながら飛びかかる魔物の姿はまるで…血に飢えた獣のソレだ。
実際魔物だから獣のようなものだけど!
「まずは身を守る!」
私は急な飛びかかりに対応し、細剣を私の前に動かして上手くガード。
ぬかるんだ地面を強く踏みしめて追撃の準備。
「ゲームだったらジャストガード!とかでてもいいんじゃない……かな!!」
細剣に飛びかかり攻撃を防がれて悔しがっている魔物を、今度は力を込めて細剣を前に動かし、振り飛ばす。
もちろんこれで倒れる訳もなく、地面に足が着くや否や、闘牛の如く真っ直ぐに魔物はこちらに向かってくる。
再突進ということで速さもそれなりに増えている。
「え、まだやるの…? 出来れば逃げてくれるのが一番いいんだけど!」
攻撃パターンが一種類しか無いのか、再び飛びかかって来た魔物に、今度はポケットにしまっていた石をぶつける。もちろん能力で。
『ぐらぅ!』
「怯んだ!」
能力を使うことでプロ野球のボールの程のスピードが出た小石に身体を痛めつけられた魔物は、地面に倒れ込み痛がるようにもがく。
それにすかさず細剣を近寄らせて、少しでも動いたらすぐに殺せる位置で固定させる。
「ほらほら、もっと来なよ。少しずつ痛めつけて、ゆっくり殺してあげるよ」
『ぐ、うう……』
あ、やっべ素が出ちまった。
『うるらぁ!』
しかし、人間の言葉が通じないのか、魔物は3度目の飛びかかりをしてきた。
確実に私を仕留めるつもりで実行した飛びかかりは空中で取り消すことは出来ずに。
「……チェックメイト」
魔物は動かされた細剣に腹を貫かれ、即死した。
グサッ……と言う少々グロテスクな雑音が、暗闇の森に響き渡る。
「ひいいい、怖かった……。やっぱりゲームとは違って命の危険があると緊張するなあ」
私はその場に脱力したように座ると、血の滴るレイピアを振って息を吐いた。
・・・・・
「あーあ、どうしようこれ。結芽子に頼んで片付けてもらおうかな……」
魔物との戦闘からわずか数秒後の事だ。
私の目の前に広がる騒然とした景色に、私は思わず息を漏らした。
結芽子の能力なら魔物の死体も無腐敗で片付けることが出来るはずだ。
そこへ、私を追ってきたのか1人の少女が現れた。
「ん? 人間じゃないか。こんな時間に何してるんだ?」
声はルイスにそっくりだが、どこかが違う。
森が暗くてあまり顔がよく見えない。
身長的にもルイスに似ている。
「あ、いや……違うの! こ、ここ、これは私がやったんじゃなくて! いやまあ私がやったんだけどでもでもでも!」
細剣に刺されて横たわる魔物を隠すように私は少女の前に立つ。
「え? すんすん……血の匂いがするな」
「えぇ!? そ、そそそそうかな? と、とりあえず夜の森は危険だから移動しない?」
「確かに夜の森は悪い魔物が出没するからな。立ち話もなんだし、私の家に来い」
「あ、あははは……うんうん、お邪魔するよ!」
その言葉を聞き流すように、私は能力の遠隔操作でこそこそと現場の後片付けをした。
あーぁ、血はどうにもならないや…。




