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総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その4

第10章[アングリフ・ボレロ]


中央図書館占拠作戦編・前編


第161頁〜第168頁


 ジャンヌがリーダーを務める反乱軍の一員となった静紅たちは、国に残っている騎士団に救援要請を出した。


 徐々に緊張感が増してくる一行は、今後の具体的な方針について会議を行っていた。


「二日後、この教会の反乱軍メンバーで中央図書館を占拠する」


 反乱軍の行動範囲を広げるためには、まず王にバレずに移動できるルートの確保が必要だ。


 中央図書館の地下には街中へ続く地下水路が存在する。


 図書館の隣には宿泊施設のようなものもあるので、食糧と物資の補給も兼ねて中央図書館の占拠が最優先だ。


「ジャンヌが恐れているそのクリュエルって王様はどんな人なの?」


「歯向かう者は全て処刑し、恐怖によってこの国を支配する悪の王だ」


 何らかの材料で彼女は『無意識な人形』を創り出す。ソレは、王である彼女に絶対服従を誓い、その身が朽ち果てるまで敵を襲う。


「人造人間ホムンクルス。その人形の名前だ」


「ホムンクルス……まーた物騒な名前だねえ」


 作戦会議は進みそろそろ飽きてきた頃、静紅の右肩から一人の少女が顔を覗かせた。


「わたしが居るんだから絶対大丈夫よ! あんな奴ら蹴散らしてあげるわ!」


 綺麗なココア色の髪に155cmほどの身長、そして右腕には赤いボロ布を巻いた少女[スズメ]だった。


 彼女の能力は静紅と同じ[物体操作術]だ。


「作戦の確認をしよう」


 作戦の内容としてはとてもシンプルでありきたりな内容だ。


 まず静紅とスズメ、そしてジャンヌが中央図書館へ向かい監視役を排除する。


 安全確認をした後、教会にいるメンバーも中央図書館へ移動して占拠。


「決行は王が中央都を空ける二日後。それまでに各自準備をするように、以上解散!」


 

 その夜、静紅は夜空を見上げるため教会の屋根に登った。


 幼い頃、花火の夜空を見上げていたときに六花と出会った静紅は、それ以降夜空を見上げるのが好きになった。


「この国は街灯が無いから空が綺─────え!?」


「すぅ……すぅ……」


 そこには静かに寝息を立てる……ルリの姿があった。


 ルリは数週間前に出会ったばかりの静紅の家の居候だ。異世界の男の娘で、厨二病キャラが特徴的。


「家に居てって言ったでしょ? なんでついてきたの」


 半龍人のルリは戦力としては頼もしすぎるのだが、言いつけを守らなかったことに静紅は怒る。


「シズについてきたかったからついてきたのだ」


「自由気ままかよ!!」


「はっはっは、そう怒りっぽいと胸が縮むと聞いたぞ。あ、縮むほどの胸も無─────」


「よし最後に言いたいことはそれだけか」


 静紅は大きくため息を吐く。ついてきてしまったものは仕方ない、ルリも戦力として使わせてもらおう。


 中に入ろうと静紅は彼を誘ってみるが、まだ星空を見たいと言って聞かなかった。


 身体も冷えたので静紅は教会の中に入り、風呂に入ることにした。


 2日ぶりで気持ちの良い温度の風呂に浸かりながら、静紅はうたた寝してしまう。


 夢か現か、全裸で風呂に浸かる静紅の背後から。


 ぺた……ぺた……と風呂の床を静かに歩いてくる足音が聞こえてきた。


 怯える静紅は恐怖でその場で固まってしまうが、足音の主に声をかけられた途端大きな悲鳴をあげた。


「ぴぎゃあああああああああ!!!!」


「う、るっさいわね。実際に死んだ人の声を聞いたことのあるあなたに、今更ぴぎゃあって哀れに泣かれる筋合いはない……って、そもそも私は霊じゃないわ!」


 振り返ると、そこには腰あたりまで伸ばした桃髪の女性が立っていた。


「ごきげんよう、私の名は[ペルソナリテ]。あなたの監視役、傲慢の[成れの果て]。神……って名乗った方が伝わりそうね」


 彼女は死んだ静紅をこの異世界へ送った張本人だった。


「で……なんで裸なの」


「[日本]でいう裸の付き合いってやつよ。伝えたいことがあったから、わざわざ顔を見せてあげたのよ」


 ペルソナリテは静紅と並んで裸のまま風呂に浸かると、この国についてのことを話し出した。


 クリュエルが率いる[王政]は歯向かう者は全て処刑する残酷な集団であること。


 ジャンヌが率いる[反乱軍]はそんな王政を潰すために行動する集団であること。


 そして今、ふたつの集団が衝突をして戦争状態だという。


「棒と棒を打ち合うと、いつかは片方が折れるけど必ず片方も消耗する。それが棒か、生命かの違いよ。相討ちにならないようにあなたが上手くやりなさい」


 この国の命運は静紅にかかっている、という超絶プレッシャーになることを伝えると、ペルソナリテは湯けむりに紛れてどこかへ消えてしまった。



・・・・・


 

 翌朝、教会の住民たちにルリを紹介した。


 紗友里のメイドであるルナは、まさかのルリと知り合いだった。


 幼い頃、学校の先輩後輩だったらしい。


 幼い頃のルリは[身体の性別通り]の服装をしており、現在とのギャップにルナは驚いていた。


「え、ルリ……ど、どうしたの? その服装。それに髪も、化粧もしてる……?」


 そんなルナに、ルリは自分自身で自分のことを話した。


 これが自分だ、自由に生きようとした結果だ、と。


 自由に生きている人にとやかく言うほどルナは悪い子ではない。その幼い顔に僅かな疑問を浮かべながらも、うなづいた。


 静紅はルナの頭を撫でながら、静かに言った。


「心と体の性別が違ったりさ、私みたいに同じ性別の子が好きになったりさ。人って色々あるんだ」


 教会の住民たちもルリを受け入れ、歓迎している。


「私は明るく生きてるけど、本当に悩んでる人もいると思う。そんな人にも優しくできるような[かっこいいメイド]になろうね」


「うん……ルナはどんな人にも優しくできる、かっこいいめいどさんになる。姉さんみたいに」


 鈴の音のようなルナの声が、教会の広場に響き、そして消えていった。



 紹介を終えたルリは、ひとまず部屋が無いので静紅の部屋で休むことにした。


「感謝するぞ……シズ、我は自分を表現するのが少々苦手で……。それ故、周りから浮いてしまうことも少なくない」


「気にしないでいいよ、そのかわり私が困ってたら助けてよねー?」


 こうしてまた、静紅とルリの絆は深まるのであった。



・・・・・



 それから静紅はルリと分かれ、[ある少女]の部屋へ向かった。


 明日の中央図書館占拠作戦で共に行動するので、ある程度は仲を深めておきたい。


「誰……? ああ、シズクさんか。どしたの? トイレなら戻って突き当たり右ね」


「あ、違うの! トイレの案内じゃなくて、明日でしょ? 図書館の作戦。一緒に行くんだし、ちょっと話しとこうかなあって」


「……それもそうね。分かったシズクさんには聞きたこともいくつかあるし、いい機会かも」


 その少女の名はスズメ。明日決行される中央図書館占拠作戦で共に潜入する少女だ。


 スズメの部屋に入れてもらい、静紅は肩を下ろす。


 その時だった。


 ドンッ。


「……は?」


 静紅の視界には、少女の両手が私の肩スレスレで通り抜けているのが写っている。


 正面にはクリーム色の髪、下方にはカーキのハーフパンツ。


「綺麗な顔……それに蒼い瞳。不自然な程に綺麗すぎるわ。まるで──────」


 そのとき、静紅の脳がショートを起こし抵抗することすら出来ずにいた。


 直球にいえば壁ドンされている。


「まるで異世界人みたい」


「……はあ!?!?」


 ルリやルナだって分からない静紅の秘密を、スズメは出会って数日で見破った。


 どうして。という単語が静紅の頭の中に堂々巡りする。


 スズメは口調こそきつく意地っ張りだが、根は優しいこの教会の防人だ。


「知ってるわ、日本人でしょ」


「なんのことか分からないなあ……」


 スズメには悪いが、ここはシラを切っておこう。打ち明けていいことになる気がしない。


「匂うのよ、あなたにあったその瞬間から確信は得ていたの。日本人で間違いないわ、それにあのサユリって人も」


「匂い……? そういえばフレデリカもそんなことを言ってた。そんなに匂う?」


 静紅は自分の鼻に服を押し当ててみるが、特別な匂いは全くしない。


「まあいいわ、別にあなたが日本人だって言いふらそうってわけじゃないし、異世界人は強いって知ってるわ。むしろ異世界人とわかって心強いし」


 転生者、転移者は転移する際に通常よりも強い能力を渡される。


 同じ[火を出す能力]でも転移者の方が火力も温度も段違いに強いのだ。


「ねえ、ひとつだけ聞いていい?」


 ただスズメは顔を下げて、そっと口を開いた。


 静紅の秘密を守ってくれるなら、何でも答えてあげようと思っていた。


 その時だった、彼女のようなまだ子供の少女が問うとは思えない質問が飛んできたのだ。


 その質問は深く、そしてこの世界そのものを皮肉ったような内容だった。


「あなたの住んでいた世界の街は、誰も何かに怯えず平和に暮らせていたの?」


 静紅はスズメの質問に何も答えることが出来なかった。



今回も読んでいただきありがとです!


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