総集編 エーテル・カンタービレその15
煙炉塔内部の螺旋階段を駆け降りていくアリス一行。
「下の方から光が漏れてきてる、出口はすぐそこだね」
六花は走りながら地下の兵士の数を[観察]し、周囲の状況を共有する。
「隊列を組んでいる警備隊がいくつもありますね。警備が厚くなっているということは、それだけエーテルさんに近づいているということ!」
「いいね、このまま順調に行けば──────」
誰も傷つかずに済む、と言おうとしたそのときだった。
アリスの右側の壁が突然崩壊を始め、危険を察知した時にはもう遅い。
「え─────?」
「アリスさんッ!」
2トントラックのような大男が、壁を突きぬけてアリスごと押し倒して行ったのだ。
「この……離せッ!」
「おいおい暴れんなァ、大丈夫殺しはいないぜ。事故で死ぬかもだけどな」
力に自信があるアリスでさえも、山のような筋肉を持った男性の腕はビクともしない。
大男はコンクリートの地面にアリスを叩きつけると、細く息をついた。
「かはっ……!? こいつ、ただ者じゃない……」
鉄の覆い兜で素顔は見えないが、彼の強さを測るには身体の筋肉だけで十分だった。
「どうしてこんなことするの!」
「上からの指示だ。[街の心臓を奪おうとする侵入者を排除]しろってよ、だからお前を排除する……ま、俺は楽しみてェだけだけど」
「街の心臓……エーテルか。あなたたちが私たちを阻むのなら、私だって容赦はしないよ」
塔の足元まで落ちたアリスは、大男に対して戦闘態勢を取る。
そこへ六花の声が飛んできた。
「アリスさん! 大丈夫ですか!!」
「襲撃! 敵は兵士だけじゃない、複数人の集団が私たちを狙ってる! でもとにかく今は進んで! 私のことは気にしなくていいから!」
塔の壁の穴から顔を見せる六花たちを先に行かせ、アリスは能力を解放し、周囲に磁力を展開する。
「エーテルを救うためなら、私は何だって差し出すよ。そんな私に勝てる?」
彼女は赤いバンダナを頭に巻き直すと、決意のこもった瞳で鉄兜の大男トゥリスを睨みつけるのであった。
・・・・・
アリスの能力は磁力操作と磁力付与。
自身を含めた対象に強弱様々な磁力を付与することができる。
アリス本人をN、足元もNにすることで彼女は弾かれるように高速で動くことができる。
「せやぁッ!」
「うぐっ……」
目にも止まらぬ速さでトゥリスの眼前に移動し、鼻先を思い切り殴りつける。
鼻血を吹き出しながらのけぞるトゥリスに追撃を与えていくアリスだが、トゥリスも負けておらず二人は取っ組み合いの接戦となった。
戦闘は長期化し、疲弊してきたアリスに対してトゥリスはようやく本調子を取り戻し、彼女は一気に劣勢に立たされる。
力の差に絶望し、過去の自信をすっかり失ってしまったアリスに、トゥリスがトドメを刺そうとしたその時。
彼の鉄兜を、一発の銃弾が打ち砕いた。
「銃弾……?」
「そこの男、兄妹居ないだろ」
ブーツの裏を鳴らしながら、近づいてくる女性が一人。
「お姉ちゃんお兄ちゃんってのはな、妹の辛い顔は死んでも見たくないんだよ!!」
そこに現れたのは対物ライフルを構えたマル姉だった。
「マル姉! みんなは……?」
「後ろは任せて私だけ前に来た! まさかこんなことになってるなんてな」
「ふんっ、しかし対物ライフルで俺なんかを止められるのか? そもそもこんな近距離で当たる訳がないだろ」
「でも、ライフルで近距離の敵を倒しては行けないって規則はないよね」
それはいつもの明るく元気なマル姉ではなく、最愛の妹を傷つけられ、憎悪に満ちた彼女だった。
・・・・・
マル姉とトゥリスの決闘は意外にも早く決着がついた。
マル姉の能力でトゥリスの足と地面を固定し、動けないところを対物ライフルでズドンだ。
「し、死んだの?」
「殺してない、爆発の衝撃で気絶してるだけ」
「……怖かった……」
アリスはようやく倒れたトゥリスから目を離すと、一目散にマル姉の胸に顔を埋めた。
「よしよし、私もアリスはよく頑張ったと思うぞ。百点じゃなかったとしても、結果良ければ全て良しだ!」
「でもまだ終わってない」
「うん、そうだ。まだエーテルを救い出していない」
姉は妹の頭を撫でながら、高くそびえ立つ煙炉塔を見上げるのであった。
・・・・・
場面は代わり、アリスが抜けた六花一行。
アリスの意思を受け継ぎ、慎重かつ急足でエーテルのいる地下室へ向かう。
アルトリアの能力により、エーテルの位置はわかっている。
先導するアルトリアだったが、突如彼女の視界、そして思考に異変が起こる。
「ね、ねぇ……なんか変じゃない?」
「変、ですか? いいえ特に何もありませんが。強いて言うなら暗いことでしょうか」
「なんか……頭の中に砂嵐が起きてるような感覚……」
アルトリアの脳内と視界に、ノイズが発生したらしい。
「砂嵐? 能力の使いすぎで疲れたの?」
フレデリカはアルトリアの背中を摩るが、彼女の容態は治らない。
「ううん、そういうんじゃなくて……」
──────……を……も、だ……。お……が……した。
「こ、声が……頭の中に……」
何かの文章になっているのだろうが、アルトリアには分からなかった。
そしてまた突然。
「あれ、治った」
「はあ、?」
先程のことが嘘のように、頭の中のノイズが綺麗さっぱり無くなってしまった。
「一体なんだったのでしょう?」
「何か声が聞こえたの、途切れ途切れで分からなかったけど何が伝えようとしてた」
疲労も考えてみたが、疲れるほど能力を使っていないし、睡眠もしっかりとったはずだ。
「─────過去の思い出が何かと共鳴しているんじゃない?」
突然背後から聞こえてきた声に、一行は青ざめた顔で振り返る。
「……ッ! だ、誰!」
「そんな、能力の探知には引っかからなかったはず……」
そこには白衣を着た六花よりも少し年上の女性が立っていた。
「能力探知? あー、だめだめ。円型の[線]じゃなくて、内側まで探知できるように[面]にしないと」
女性は暗がりの向こうからゆっくりと歩いてくる。
アルトリアに視線を向けていたので、フレデリカはすかさず守ろうと遮る。
「面じゃないと、突然内側にワープしてきた時には引っかからないでしょ? 欠陥だよ、デバッグが必要なんじゃない?」
そう言うと女性はアルトリアの頭に触れた。
「アルトリアに触らないでください!」
「いいでしよ別に、減るもんじゃないし」
アルトリアは嫌そうに犬耳を揺らす。
「あ、でもしばらくは[預かる]よ」
それだけ言うと、女性は再び姿を消してどこかへ行ってしまった。
「一体なんだったんでしょう……」
「本当に。時間がかなり取られましたね、アルトリアさん道順は─────」
そう言って六花が振り返ったそのとき、ようやく事の重大さに彼女らは気がつく。
「アルトリア?」
フレデリカがアルトリアの名前を呼んで振り返った時、そこに彼女の姿はなかった。
実はエーテル・カンタービレ編も終盤だったりします!




