総集編 エーテル・カンタービレその13
メルロー区域に飛来した巨大な蝶、別名[荒野の帝]。
そんな蝶を討伐するため、ベルアは一人で─────いや、一人と二匹で立ち向かう。
「転生の篝火ッ!!」
唯一の切り札である[不死鳥の羽衣]と[輪廻竜の聖杖]の制限時間が切れ、一時はどうなることかと思われたが、自前の頑固さにより立て直し、不死鳥の大技によって何とか討伐を成功させるのであった。
・・・・・
同じくメルロー区域に現れた巨大な鹿に挑むのは結芽子とマル姉のコンビだった。
近接戦闘は大の不得意のマル姉だが、狙撃の腕はピカイチだ。
彼女が背負う巨大な狙撃銃を最大限活かすため、結芽子は戦場に幾つもの高台を建設。
円形に建設された高台を随時移動しながら狙撃し、着実に鹿の体力を減らしていった。
しかし鹿も負けておらず、角を地面に突き刺し、地中に張り巡らされたパイプからエネルギーを吸い出し始める。
「全くこれだから巨大魔物はッ! マル姉、うちが合図するまで発砲準備しといて!」
結芽子は走って鹿に接近し、そして合図を送る。
「マル姉、今や! うちに向かって銃撃てぇ!」
「くっ……分かった! 死んでもユメコのせいにするからな!」
「生命掛金・二倍昇華……これがうちの戦い方や!」
結芽子の能力は、物質を体内に収納する言わばゲームのインベントリみたいな能力だ。
そして能力の熟練度が上がるにつれて、その機能は大きく強くなる。
最近熟練度が上がったことにより、結芽子はある技を身に付けた。
「自分の中にあるもんを二倍に増やす……うちのとっておきや」
銃弾を一度自分の中に収納し、二倍に。
そしてその威力が二倍になった銃弾を巨大鹿に撃ち込むッ!
「不器用だな」
銃弾に急所を撃ち抜かれ、戦闘不能になった鹿を前にマル姉は声を漏らす。
「でも不器用なりに戦ってて凄くかっこいいって思えた」
「うっさいわ、不器用不器用って……褒め言葉ちゃうで……」
倒れ込む結芽子を、そっと抱き抱えるマル姉は彼女の耳元で静かに言う。
「いいや、褒め言葉さ」
・・・・・
場面は変わり、こちらも同じくメルロー区域。
突如現れた、見上げるほど巨大な狼により街は壊滅。
狼に挑むのは静紅と蜜柑のコンビだ。
最初は善戦していたのだが、順調に行っていたことで気を抜いてしまったのか、静紅は狼の薙ぎ払いによって負傷、意識を失ってしまう。
流血する静紅を寝かせ、蜜柑は激昂の声を上げる。
「おいデカブツ」
『ぐるぅ?』
「俺ァたった今テメェを殺すと決めたッ!!」
眼鏡を外し、ツインテールにしていた髪ゴムも取り外す。
普段見せないストレートヘアに無眼鏡の蜜柑は、見下す狼型魔物に光線銃を向ける。
しかし戦闘能力の低い蜜柑が大型魔物の狼に勝てるはずもなく……。
狼は特殊能力で百匹を超える子供の狼に分裂し、怒涛の勢いで蜜柑を襲う。
全身に噛みつかれ、蜜柑は絶叫しながら意識を手放した───────。
・・・・・
「しょーらいのゆめは、せんたいヒーローのレッドになることだ!」
保育所の誕生日会では、その月の誕生日の幼児に将来の夢を尋ねる。
ピンクのエプロンを着たいかにも優しそうな保育士がマイクを片手に聞いてくるのだ。
「がはははは!」「そんなのむりだよー!」「ヒーローってつくりばなしなんでしょー!」「おまえはおんななんだからせめてピンクだろー!」
善悪の区別が付かない幼児は、哀れな一人の少女の夢を聞くと腹を抱えて嗤った。
たった一人、茶髪の少女を除いて。
「うちはすてきやとおもうなあ」
背が小さく、そのくせ性格は大きく悪目立ちしている彼女だけが少女の味方をしてくれた。
この歳くらいの子供は、テレビのキャラクターやゲームの登場人物になりたいと将来の夢で掲げるものだ。
「おまえはわらわないんだな」
遊戯の時間、少女は茶髪の彼女に話しかけた。
「わらわへんよ、ゆめをもつのはすてきなことやから」
「なまえは?」
「うちは結芽子、西宮 結芽子やで」
これが少女の親友、結芽子との出会いだった。
「おーい結芽子ー!」
時は流れて少女は十歳まで成長していた。
少女は結芽子と遊ぶ約束をしていたので、自転車に乗ったまま家の前で名前を呼んだ。
「まだ宿題終わってないんや、もうちょい待って!」
「なー宿題なんていいだろ別に、はやく遊ぼうぜ!」
少女は勉強や宿題などを全くせず、いつも遊んでばかりいた。
言わば嫌なことから逃げ続けていたのである。
「蜜柑ちゃん……あんたもそろそろ勉強した方がええよ、中学行ったらもっと難しくなるんやろ?」
「むぅ……そうだけどよー」
少女自身も分かっていた。
このままじゃいけない、逃げ続けていたらダメだと分かっていた。
「めんどくさいじゃん」
それでも彼女は逃げていた。
・・・・・
全てが闇に包まれた心の空間で、蜜柑は一人漂っていた。
─────ああ、死んだのか俺。
気がつけば、結芽子の顔を思い浮かべていた。
─────あいつは……俺が居なくても大丈夫そうだな。むしろ足引っ張ってたし。
自然と涙が溢れてくる。
思い返せば、いつも結芽子と一緒に居た。
保育園児のころ、結芽子が認めてくれたから今の蜜柑がいる。
学生時代、辛いこともあったが結芽子が明るい顔で手を引いてくれた。
そして何よりも。
『俺らって親友だよな……?』
『何言うてんねん』
『え?』
『親友程度じゃないってこと、死ぬまで親友以上や!』
結芽子が居てくれたから、勉強や辛いことに取り組めた。
──────もう諦めろよ、どうせ無駄だ。
蜜柑の中で、もう一人の蜜柑が悪魔の囁きをする。
──────もうこのまま死んじまえ、楽になれよ。
──────嫌だ。
──────は?
──────そうやって俺はいつもいつも逃げてきた。この身体が滅ぼうとも、最期だけは逃げたらダメだ!
その瞬間、闇の空間で漂う蜜柑の前に眩い結晶が姿を現す。
──────お前もさっき分かっただろ、あの狼にはかないっこないんだよ! 負けて惨めに死ぬくらいなら、このまま死んだ方が────。
──────勉強もダメ、友人も少ない、やっと立ち上げた会社も鳴かず飛ばず。異世界に来た時はようやく俺の時代だ! と思ったさ。でも違った。蓋を開けりゃ俺の能力は雑魚能力だ。
透けかけた手のひらを動かし、結晶に手を伸ばす。
──────誰もが脇役で、誰かが主人公なんだ。そして俺は脇役側だ。
眩い結晶を確かに掴み、そのまま砕く。
──────惨めに死ぬだけだァ? 俺は元から惨めだっての! 落ちて落ちて落ち続けた最底辺の落ちこぼれだ。
全身に五感が研ぎ澄まされていく。やがて蜜柑は真っ白な光に包まれて、意識を覚醒させた!
拳を空に突き上げて、蜜柑はただ一言大声で。
「最底辺なら向かう先はただ一つだけだろうが。ただ貪欲に、上を掴むだけだッ!」
彼女のその覇気に、周囲にいた狼は吹き飛ばされる。
眩い結晶と意識の覚醒により、蜜柑は更なるチカラを手に入れる─────。
「[腐食術]」
彼女が短くそう呼ぶと、地面から[腐敗した骸]が這い出てきた。
コロウと呼んだ腐敗した巨大な骸骨は、見るもの全てを恐怖に陥れる。
──────ソレは死神に近しいものだった。
・・・・・
「いくぞ[腐食術]、コイツら[喰らい]尽くせッ!」
突如、蜜柑の背後から地を割って現れたのは腐敗した亡骸。
蜜柑の身長の数倍もある巨大な骸骨は、蜜柑の突き出した拳とリンクしてその力を使った。
腐食の拳で殴られた狼は「くぅん」という短い断末魔を残して、次々に消えていく。
「腐食が……伝播して……!」
今まで腐食の力は一個体、一つの物体に留まっていたのだが、コロウの影響だろうか腐食が伝播していっているのに気がついた。
狼の魔物は蜜柑の新たな力によって圧倒され、瞬く間に消滅してしまった。
「腐食術……くうう、かっこいいなぁ! 魔道具で必死に戦ってた頃が懐かしいぜ、俺もようやく能力で戦えるようになったんだなあ。って、それどころじゃねえ!」
蜜柑は感傷に浸る暇もなく、気絶した静紅に駆け寄ると応急処置を始めるのであった。
・・・・・
その後、静紅たちは結芽子とマル姉、それとベルアと合流し、残りの二匹の魔物を手詰まることなく討伐した。
全員ほぼ満身創痍でボロボロの状態だったが、無事に揃って再会できたことに肩を組んで笑い合うのであった。
過去1どうしようか悩んだ総集編でした




