総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その2
第9章[ドラゴン娘(♂)は静かに暮らしたい]
第138頁〜第152頁
海の村ウォーター・シェルから帰ってきた静紅は、知り合いたちにお土産と帰った報告をして回った。
王邸、魔道具専門店と二軒回り、帰宅するため家の玄関ドアを引いた時とある違和感を感じた。
見知らぬ靴がひとつある。ようやく休めると思っていたが、また何か騒がしくなるような気がしてため息を着く静紅。
「我の名は[ルリ]! 遥か遠くから貴様を探してやってきたのだ、シズよ!」
白のもこもこ服に緑髪の美少女が家のリビングで、厨二病のポーズをして立っているでは無いか。
静紅自体、アニメ好きでこういった厨二病少女には憧れていたわけである。
「性別は────────オス!!」
だが、男である。
彼女もとい[彼]の能力・未来予知によって、どうやら静紅と出逢えば危機を回避出来るという結果になり、遠くからやってきたらしい。
と言っても漠然としたことしか分からず、危機とはなにかも分からないし、どれだけ会っていればいいのかも分からない。
「とりあえず夜も遅いからまた明日来────」
「何言ってるのだ、今日からここが我の住処だぞ?」
騒然とする一同。反対するものもいれば快く受け入れるものもいた。
「我は帰る所がないのだ……。欲を言えば、居候させて欲しいのだ。いやほんと、お願いします」
突然土下座をする彼に、さすがの一同も帰れと言うことは出来なかった。
渋々承諾し、寝室を分けることと夜はトイレ以外ベッドから出ないことを約束して今日は泊めてやることを約束した。
ただ一人、ド変態エルフのフレデリカは狂喜乱舞していたが。
草木も眠る丑三つ時、静紅は真剣な表情のルリに起こされた。ベッドから出ないという約束を破ったことはさておき、静紅とルリは二人きりで屋根に登った。
星の降る王都の夜空の下で、ルリはこの家に来た理由やそれまでの過程を語った。
そして──────。
「言っていなかった気がするので今言うのだ。我は龍の血を引く[半人半龍]の半龍族なのだ!」
「んなあほな……」
目の前で龍の姿に変化したルリを前に、静紅は呆れてため息を漏らした。
「はあ!? こいつが龍だって!? ……龍って言えば人間の天敵だろ? んなもん家に置いておけねえよ……」
「お師匠様、彼から離れてください。彼を[討伐]します」
「何言ってるねんみんな! ルリ君が龍やからってなんやねん!」
龍は人間の唯一天敵だった。羽ばたくだけで災害とされるそんな龍に、フレデリカは強い憎悪を抱いていたのである。
フレデリカの尊敬していた[先輩]を龍は無惨にも殺したからだ。
殺意に満ちたフレデリカは剣を引き抜くと、本気でルリを殺そうとする。
その光景を見たルリはここへ来たのは間違っていた、半分人間とはいえ龍は龍。人間と龍は共存することが出来ないんだ、と出ていってしまう。
ルリが出ていったあと、フレデリカは自分の過去について語り出した。
フレデリカは王都近衛騎士団として、とある調査に来ていた。そこにはルカとルリ、そして凪咲もいた。
平原を進んでいた時、悲劇は突然やってくる。龍が空から飛んできて、あっという間に周囲を凍てつかせてしまったのだ。
龍は神にも等しい絶対的な存在。龍からしたら羽ばたいただけだろうが、騎士団はほぼ全滅してしまう。
この窮地から脱するため、凪咲は単身で龍へ飛びかかって行った。
「その後の記憶はありませんが、王都に帰還した時……先輩の姿はありませんでした」
これが凪咲の死因だった。
「龍は先輩の命を奪いました! 龍は悪い生き物なんです!」
取り乱すフレデリカに、静紅は優しくハグをして言った。
「確かに龍は悪い存在かもしれない。けど、種族だけで判断するのはいい事じゃないと思うな。それは[エルフ]のあなたが一番分かってるんじゃない?」
フレデリカは過去に[エルフだからダメ]といった差別を嫌という程受けてきた。自分がエルフに生まれたことをどれだけ恨んだか分からないほどだ。
自分が苦しめられてきた種族差別を、知らず知らずのうちに自分もしてしまっていたことに気がついたフレデリカは、いても立っても居られなくなり家を飛び出して行った。
「放っておいていいのか?」
「大丈夫だよ、なんたって私の[弟子]だもん。さて夕飯の支度でもしよっか、いつもより[一人分多く]ね」
家から飛び出して行ったルリは、路地裏でチンピラに絡まれていた。無理もない、[付いていて]も見た目は美少女なのだから。
そこへ助けに入ったのはフレデリカだった。
「私の友人なんです、傷つけるようなことがあれば許しませんよ」
─────あんなに酷い言い方をしたのに友人と呼ぶなんて、ずるいだろうか。身勝手だろうか。
─────こんな私を、彼は許してくれるだろうか。
フレデリカの威圧に、チンピラ達は逃げ帰るように去っていく。
先程言ってしまった酷いことを謝罪するフレデリカに対し、ルリは目を合わせようとはしなかった。が、しばらくして口を開く。
「我とお前は近しいものを感じるのだ。これからも沢山話をしてみたい」
「じゃあ……!」
「だがしかし! 我を傷つけた責任は重いぞリカ! そうだなぁ、この商店街で一番美味しいものをご馳走してくれるなら許してやるのだ」
そう言って笑うルリに、フレデリカはこれまでにないほど安堵した。
「……っ! もちろんです、ルリさん!」
フレデリカは財布の中身を思い出しながら、2人で大通りの商店街を練り歩くのであった。
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