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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その14


「はあ、コイツらも無駄に暴れなかったら傷つく事もなかったのによ」


「傷つけたらダメってあれだけ言ったでしょ! はあもう、半龍族は高額で売れるんだから。私たちの貴重な活動資金の収入源なんだよ?」


 薄暗い地下の施設にて、青年と少女が向かい合って喧嘩をする。


「コイツらなら多少の傷なら自己回復するだろ、龍の血が流れてるんだぞ」


「はあ……なんで君はそんなに馬鹿なの」


 片腕を失っている青年は腕の代わりに鉄の銃を装備している。


 少女は額にサーマルゴーグルを付けていたり、白衣を着ていたり研究者らしい格好をしている。


「追手の可能性は?」


「ゼロじゃあないだろうが、低いかもな。それこそ追跡系の能力持ちが相手にいなければ大丈夫だ」


「それフラグになってない? まあいいや、とりあえず購入されるまでこの水槽に入れてて」


 少女が示したのは、円柱形のガラス張りの水槽だ。


 気を失った半龍族の服を全て脱がし、酸素マスクだけを装着して水槽の中に浮かせた。


 十数人の半龍族が全裸のまま水槽に浮かぶ様子は、どこか見たものを恐怖させる。


 マッドサイエンティスト顔負けの悍ましい研究室が、ロキレシアンの地下に眠るのであった。



・・・・・



 悪の蕾は数珠繋ぎとなって静紅達の前に現れる。


 王邸の庭で出発準備を進める一行の前に、一人の少女が現れた。


 女子中学生程度の身長で、手には血痕のようなものがある。


「え、誰この子。紗友里、騎士団の新入り?」


 少女は僅かに口元を歪ませると、静紅達を取り囲むように『渦』を生み出した。


『う、があああああ』


 渦の中から姿を現したのは、体が杭で打たれた複数の異形の人間。


 その体は一般男性よりも遥かに大柄で、静紅程度の身長なら包み込めるほど大きい。


「ホムン……クルスッ!?!?」


 静紅、紗友理、ルナ、ルリはその異形の生物に見覚えがあった。


 かつてアーベント・デンメルングにて彼女達はホムンクルスたちと戦うことを余儀なくされた。


 その巨体から繰り出される怪力は、石レンガの建物なら簡単に壊せるほどだ。


「コンニチハ! さあほら、みんなも笑顔でコンニチハして! 私の名前はフォルエメ、[狂愛心の成れの果て]だよ!」


「成れの果て……!!」


 ホムンクルスの大群に囲まれた一行は、それぞれ眼下の対応に追われる。


 特に力の強いルリとティアのコンビは一番早く群れを突破して、庭の様子を見て戦慄した。


 この国最高峰の騎士団の団員が、いとも簡単にホムンクルスによって蹂躙されていたのだ。


「ホムンクルスは禁忌術によって生成される化け物……この大群を生み出すために一体どれだけの生贄を必要にしたのか、考えたくないのだ」


 視点は黒髪の謎の少女に移り変わり、少女は静紅の姿を認めるとキャッキャと飛び跳ねて喜んだ。


「きゃあステキステキ! カワイイ子見つけちゃったもんね! お名前なんて言うの? ねえねえ」


「静紅さんから離れてください!」


 六花の指から電磁砲が放たれるが、少女は簡単に避けてしまう。


「シズクちゃんって言うんだ!! いいねえ、カワイイねえ! 私ね、カワイイ子の血を飲むと幸せになれるんだあ! だからさ、殺してもいい!? 血ィ見せて!」


 猟奇的、狂気的な表情で少女はナイフを握ると、暗殺者の如き速度で静紅の方に駆けていく。


「誰が殺されるか!」


 向かってくる少女の頬に、静紅は魔法人形で一発殴りつける。


「痛……この人形、キライ!!」


「あの巨大ムカデの甲殻だって砕くパンチだよ!? なんであの程度の傷で……」


 静紅はすぐに魔法人形の二人を人間モードに切り替えると、防御態勢をとった。


「アテナ、ヘスティア!」


 フォルエメの武器も能力も未知数な今、迂闊に攻撃するよりも守ったほうがいい。


「きゃあ、またカワイイ子が増えた! 今度はアテナちゃんって言うんだ! いいねえ、私ねカワイイの本当に好きなんだあ」


「……この狂人……!!」


「キャハハ、みんなそう言うよ? でも私が楽しいからそれでいいんだあ」


 貴族が自分がいかに裕福な暮らしを送っているか自慢するかのように、少女は言った。


「自分のためなら他人を傷つけていいなんて、そんなの間違ってる!」


 静紅がキノコタン・ナイフを能力の操作対象にした次の瞬間、フォルエメは腕の時計らしきものを見て目を見開いた。


「嘘、もうこんな時間!? 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 早いよ、だってまだ……誰も殺せてないんだもん!」


「……時間?」


 怒りの矛先を時計に向けるフォルエメは、持っていたナイフで何度も何度も腕時計を突き刺した。


「あああああああッ!! どうして、どうして思い通りにならないの!? どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!」


 更には腕時計を貫通させて、自分の手首も傷付ける彼女にその場の全員が戦慄する。


 紛うことなき狂人。


 まるで痛みを感じないかのような自傷行為、思い通りにならなかったら発狂するその様は様は、まさに狂人だった。


 手首から大量に血を噴き出したフォルエメは、項垂れたまま突然冷静になる。


「時間、時間……そうだよ……ホムンクルス、一回帰ろう。今日は血ィ見れないと思うから」


 少女は手のひらを広げると一つの大きな渦が生まれた。


 ホムンクルスは街灯に群がる虫のように、渦の中へ戻っていく。


「待てッ!! そうやすやすと帰すわけがないだろう、君は……何者だ」


 紗友理は弓を引き絞って標準を少女に向けた。


「さっきも言ったけど自己紹介はタイセツだからねェ、こほん」


 少女は一つ咳払いをして。


「私は狂愛心の成れの果て・フォルエメだよ!」


 血や死体など残虐的な行為を狂ったように愛し、精神まで犯された成れの果て……といった所か。


「じゃあねえ」


 少女は静紅に投げキッスの仕草をすると、ホムンクルスと同じように中に入って行った。


 しばらくすると渦の痕跡は消え去り、またいつもの庭が戻ってきた。


 砕け散った騎士団の鎧や、庭に投げ捨てられた剣を残して。


「また新しい……成れの果てか……」


 騎士団の団員達の治癒に追われるルカとルナを見ながら、静紅はそっと呟いた。



・・・・・



 謎の少女フォルエメに襲撃されるという事件があったものの、半龍族たちが拉致されている事実は変わらない。


 一行は船に乗って少し離れた異国の地、悪党達がいるというロキレシアンに向かうことになった。


「とりあえず竜で地上からここまで来たけど、船なんてどこにあるの?」


 静紅は紗友理に問うが、彼女は意外な人物に声をかけた。


「結芽子、頼んでいたものは持ってきてくれたかい?」


「めちゃくちゃ容量食うから要らん物全部捨ててきたわー、でも大丈夫! 頼まれたもんは一つ残らず持ってきたからな!」


 結芽子は海の方に手を伸ばすと、能力で収納しておいたものを外に出した。


「騎士団専用大型帆船の到着や!!」


 なんと結芽子はこの場の全員が乗れるほど大きな帆船を、能力の中に収納していたらしい。


「凄い! こんなに大きな物も収納できるようになったんだね!」


 能力には熟練度というものがある。


 能力を使えば使うほど熟練度が上がっていき、結芽子の収納能力なら容量が増えるなど能力が強くなる。


 簡単に言えばゲームのレベルみたいなものだ。


「フレデリカちゃんと能力被ってたからなあ、これでアイデンティティ奪還やで!」


 静紅がアーベント・デンメルングに行ったり、料理大会に行っている間に結芽子は能力の特訓をしていたらしい。


「よーし、今度こそ出航だーー!!」


 ちなみに蜜柑も能力を強化したが、この時はまだ見せてくれなかった。


 今度こそ一行は船に乗り、拉致された半龍族を取り戻すために敵地へ乗り込むのであった。



・・・・・



 アルトリアの能力を駆使して悪党の詳細な位置を手に入れた一行は、とある屋敷を特定した。


 見た目は普通の屋敷だが、周辺に住む人が「怪しい人物が出入りしていた」という情報を提供してくれたのでここで間違いないだろう。


「……みんな怖がってると思う。だから私が助けてあげないと」


「ああ、我らなら大丈夫なのだ! 絶対助けよう!」


 一行の中でティアとルリが一番悔しい思いをしているだろう。


「……よし、行こう」


 静紅は自らの頬をパチンと叩いて気合いを入れる。


「半龍族奪還作戦、開始!!」


 紗友理の号令と同時に、静紅達を含めた大人数が屋敷の扉を蹴り飛ばした。


連続投稿425日目!!


 今回から12章 ティア・カプリチオ編がスタートします!


 その10くらいまでで終わらせようと思っていたのですが、もう14まで来てしまいました……。


 ついでに総集編はその16まで続きます。


 でもそれが終われば遂に第17章が始まります!

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