総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その13
龍でも通れるような大きな門を潜り、少し進んでいくとそこには絶景が広がっていた。
川が流れ、木々は揺れ、小鳥は歌う。
吹き抜ける風に運ばれて雲は動き、太陽が暖かく照り付けるその場所はまさに。
「着いたのだー! ようこそみんな、ここが我の故郷─────」
ルリは両手を突き上げて喜ぶと、その土地の名を言った。
「フローダムなのだー!」
そこは半龍族が暮らす里。
土地の異名は[死しても恋する桃源郷]。
「龍が死ぬと魔分子が発生する。また、半龍族は生活しているだけで魔分子を放出してるのだ」
この里に龍がやってきてから約百年、代を重ねつつ放出した魔分子が、この土地に充満していた。
「だからこの里に生えてる植物は大きくて、元気いっぱいなんだね」
「ここが我の実家だ、ティアが掃除してるから綺麗だぞ! さあ入って入って」
あえて謙虚に「汚い家ですが」と言わないことで、彼の番いであるティアを信頼していることが分かる。
「たっだいまーなのだー!」
ルリは勢いよく扉を開けて、玄関先でそう言った。
その次の瞬間、わずか一秒足らずの間隔も開けずにリビングから女の子が飛び出してきた。
「ルリいいいいいい! おかえりー!」
女の子は彼に抱きつくと、頬を擦り付けた。
「あれ、この人たちは?」
「紹介しよう! 我の弟子、シズと愉快な仲間たちなのだ!」
「誰が!」「あなたの!」「弟子ですか!!」「ま、まあまあみんな、落ち着こうよ……」
三人から頭上にチョップを入れられ、アルトリアはそれを見て動揺する。
ルリは「あいたたた……」と頭を押さえているが、女の子は鋭い視線でルリに言った。
「また人様に迷惑かけてるのね! 全く、ダメな人!」
「う、うう……ごめんなのだ……」
女の子は静紅たちの方を見ると、胸に手を当てて続けた。
「私の名前はティア! ルリがいつもお世話になってます、よろしくね!」
「いやいや! 逆なのだ、我がいつも弟子たちをお世話しブハァッ!?」
ティアは笑顔のままルリの背中にパンチを入れる。
「失礼なこと言わないの! ほんと、いつもこんなのでごめんね……」
「あ、あはは……いや、別に……」
まさかルリのお嫁さんがこんな活発な人だとは思わなかった。
いやまあ、自由奔放なルリをセーブするのはティアくらい元気な人じゃないと難しいのかもしれないが。
・・・・・
「……というわけで、我は今王都の家で居候させて貰ってるのだ!」
「い、居候!? お、お金、お金払わなきゃ……」
「要らない要らない! それにしても本当に仲がいいんだね、二人はさ」
ルリとティアは里の中でも一番仲良しの番いだと聞く。
それもそのはず二人は幼なじみで、ルリがこの里に引っ越してきてからはずっと一緒なのだから。
「里一番のおしどり夫婦だからね!」
胸を張るティアに、六花はふと気になったことを問うた。
「この家に辿り着くまで里の様子を観察していましたが、ルリさんやティアさんのような若い半龍族は居ませんでした。他の方はどこか狩りにでも出ているのですか?」
「……」
「……ティア? ど、どうしたのだそんな暗い顔をして」
ティアは膝の上で拳を握ると、俯いてしまった。
「みんなが来る数日前、フローダムに数人の悪党がやってきたの」
その悪党たちは「半龍族は高く売れる」と言って若い────特に高額で売れるメスの半龍族たちを拉致した。
もちろんティアも抵抗したが、悪党は見たことも無い武器を使って半龍族を圧倒。
何とかティアは拘束から抜け出せたが、他の半龍族たちは悪党たちに連れて行かれてしまった。
「今は龍の力で傷は回復してるよ、でもみんなが心配だよ。助けに行きたいけど、私だけじゃ敵わない……」
ティアの言葉をルリは黙って聞くだけだった。
そして彼女の言葉が終わり、ルリは立ち上がる。
「ティア一人でダメでも、今度は我達がいる。皆を助けに行こう」
ルリも拳を握りしめるが、さすがに今この場にいるメンバーでどうにかなるような相手でも無さそうだ。
人間の姿をしているとはいえ、半龍族は龍後がまじった特別な存在。
一般人とは比べ物にならない怪力を持つ半龍族を、何人も拉致など[普通の盗賊団]で出来るはずが無い。
「でも特攻はダメだよ、今はとりあえず王都に戻ろう。紗友里に相談すれば何か解決策がわかるかも」
一行はティアを連れて、出来るだけ早い竜車に乗って王都へ戻るのであった。
・・・・・
王都に到着し、紗友里に[半龍族が拉致された件]について話すと、紗友里は歯を食いしばって頭を下げた。
「半龍族が拉致されたのは私たちの警備が甘く、悪党に不法入国出来る環境を作ってしまったのが原因だろう。だから……すまない」
「別に謝って欲しくて来たわけじゃ無いよ。私はみんなを助けたくて、あなたに力を貸してほしくて王都まで来たんだから!」
ティアは紗友理に頭を上げるように言うと、腰に手を当てた。
紗友理は表情を緩ませて、ティアの頭に手を置いて言った。
「……ふふ、私もまだまだだね。国民にここまで言わせてしまうとは。分かったよ、もちろん君に協力しよう! ルカ、ルナ、庭に近衛騎士を集合させてくれ!」
王様の紗友理の協力を得た一行は、拉致された半龍族を救うため反撃の狼煙を上げる。
龍は人類の敵であり、紗友理の親友の凪咲を殺した存在だ。
紗友理の中でもかなりの葛藤があっただろう。
それでも彼女は王として、民を救う決断をした。
「龍を助けるなんて非常識だ、と国民に言われてしまうだろう。たとえそうだとしても、苦しんでいる人がいるのなら向かうしかない!」
紗友理自らも剣を取り、その刃を空に掲げた。
一行に、家で留守番していた蜜柑と結芽子も合流して王邸の庭に集合する。
「助けに行きたいのは山々やけどさ、敵の位置とかって分かるん?」
「半龍族を連れていけるほど強力な悪党だ、少なくとも痕跡は残っているだろうが……ううむ」
皆が悩む中、アルトリアが手を上げた。
「わ、私の能力、役に立つかも……しれないです」
「! そういえばアルトリアの能力って……」
二年前、主狼に追われた洞窟でアルトリアは能力を発現させた。
今、彼女の能力を知っているのはフレデリカだけだ。
「ティア、悪党が持っていた物とか触れた物ってある?」
「え? うーん、あっ」
ティアは何かを思い出した様子でポケットからとあるものを取り出した。
「悪党が撃ってきた弾だよ。これすごいんだ、猛スピードでこっちに飛んできて、それに当たったらめちゃくちゃ痛いんだもん!」
「痛いで済む辺りさすが半龍族だね……というより、これって銃弾だよね?」
先端が尖った鉄の銃弾が、ティアの手のひらの上で転がっている。
ティアの言っていた見たことのない武器というのは銃か。
「この国にはまだあまり浸透していない武器だね。大陸のかなり文明が発展した国では県よりも主流の武器になっているんだ」
紗友理はティアの持っていた銃弾を摘むと、目を凝らしてそれを観察する。
「つまり悪党は外国の人ってこと?」
「少なくとも外国産の武器で間違いないだろうね」
「ちょっと借りるね」
アルトリアは手のひらで銃弾を覆うと、そっと瞳を閉じて能力を発動させる。
彼女の能力は探査に非常に長けた情報系の能力だ。
具体的には足跡や血、またはその人が身につけていた道具などに触れると持ち主の位置が分かるという能力だ。
「……男の子だね、場所は……ろきれしあん?」
「ロキレシアン、比較的治安の悪い国だ。位置がわかったなら早速向かおう」
紗友理の表情から笑顔が消えていた。
いつもは王の余裕というか、大人の余裕があるのだが今は拉致されたことに責任を感じているのだろう。
王都近衛騎士団と共に静紅たちは船に乗り、犯人達が居るロキレシアンへ向かうのであった。
連続投稿424日目!
総集編を全て書き終えたので明日から2話投稿します!




