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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その10


「いつになったらお前はもっと稼いで来るんだ!?」


 父親から罵声を浴びられながら暴力を受けるフレデリカは、死んだような魚の目をして機械に似た声色で定型文を述べていた。


「ごめんなさいお父様、もっと頑張ります。ごめんなさいお父様」


「ああむしゃくしゃする、おいアレ買ってこい」


 父親は彼女にそう言うと、頭を掻きむしりながらソファに座った。


 フレデリカはいつものように家の貯金箱を覗くが、そこには銅貨の一枚も入っていない。


 昨日死に物狂いでフレデリカが稼いだ金は、昨日の夜のうちに酒や薬に交換されてしまったようだ。


「でもお父様……もう貯金が……」


 出来るだけ父親の機嫌を悪くしないように振る舞っていた、貯金がないという事実は変えられない。


「……ああ? そしたらどうするか前にも教えただろうがッ!」


 父親はソファを蹴り飛ばす勢いで立ち上がると、フレデリカの長い金の髪を掴んで持ち上げた。


 父親は遠回しに「親が働かないから金がない」と言われたような気がして更に機嫌が悪くなる。


「あがっ、ぐああ……」


 痛みに悶えるフレデリカの腹に、数発の拳がぶつけられる。


「この! 体の! 一つや二つ! 売ってこいッ!!」


「痛い、痛い痛い痛い! やめてください、お父様、わかりました、売ってきます……この体、売ってくるので、殴るの……やめてください……」


 泣きながら頭を下げて、フレデリカはすぐに家から飛び出した。


「こんな貧しい村で子供が体を売る……? そんなの馬鹿げてる」


 彼女は庭に立ててあった大剣を持ち出すと、剣先を引きずりながらいつもの狩場へ向かう。


「お腹……空いたな」


 前の食事からどれくらい経っただろうか、確か前回の食事は池に生えた花だった気がする。


「あれ、あそこにいるのは……」


 狩場へ向かうと、そこにはフレデリカの隊でも一番病弱で気弱なアルトリアが必死に剣を振っていた。


「せ、せやあー!」


『ぐるぁ!!』


 アルトリアが全力を出しても、まだ子供の狼には勝てない。


 その様子を見てフレデリカは居ても立っても居られなくなって彼女の元に駆けつけた。


 近くの狼を全て倒すと、疲労で倒れたアルトリアに問うた。


「どうして一人で戦ってたの? 誰かと一緒じゃないと危ないよ」


「……わ、私、体も弱くて力も無くて足手まといでみんなに迷惑かけてるから……特訓して、戦うのが上手になりたいなって」


 心から笑うことを知らないアルトリアは、他の皆の真似をしてぎこちない笑顔を浮かべる。


「フレデリカは?」


「私は……ううん、私もアルトリアと同じ理由」


 正直、本当のことを言ってしまった方が楽だと思った。


 でも、誰かに言えばフレデリカの体は遂に壊れてしまいそうで、怖かった。


 それにアルトリアに自分の傷ついている現状を話すことで、彼女の体調まで悪くなるのも懸念されたからだ。


「一緒だね」


 アルトリアはえへへ、とフレデリカに笑いかけると自分の両手を眺めた。


「私はね、お母さんとお父さんがいないんだ」


「……」


「みんなはね、お父さんとお母さんが大嫌いっていうけどね。私はそう思わないな」


「どうして?」


 二人の足音が重たい雪原に響く。


 ろくな防寒具もつけておらず、いつの間にか指先は寒さで腫れていた。


「家に帰ったら誰かがいてくれるって、いいことじゃないの?」


「私は違うなあ、家にお父さんがいるから帰りたくない」


「どうして、どうしてお父さんがいたら嫌なの?」


 アルトリアは身を乗り出して聞いてくる。


 幼い子供が両親とともに暮らしたいと願うのはごくごく自然なことで、それが異常と言っているわけではない。


 ただ罵声を浴びせられ、殴られ、投げつけられ。


 そんな家に帰りたい子供など、この街には存在しなかった。


 もちろんアルトリアはそんな生活を望んでいるわけじゃない。


 他の街のように、親子で遊んだり、何かを成し遂げたり。


 時には喧嘩をするけど『オヤコアイ』と呼ばれるソレを確かめながら生きる。


 そんな生活を、アルトリアは望んでいるに違いない。


 そんな生活が、この街にはない。


「……。誰かと一緒に住む夢、叶うといいね」


「その時はフレデリカも一緒だよ、もちろん他の二人もね」


 フレデリカはそう静かに告げると、調子が悪くなったと仮病を使って狩りを取りやめ、店の方へ狼の精算に向かった。


 こんな地獄のような日々も、いつかは終わりが来るのだろうか。


 フレデリカはあせあせと銅貨を数えるアルトリアを見ながら、そんなことを考えていた。



・・・・・



「今日はいつもより遠くに行こう。もう少し遠くに行けば買取金額の高い魔物があるはずだ」


 盾の手入れをしながら、パトリシアは他の三人にそう提案した。


 隊長のフランシスカは少し悩んだ後、口を開く。


「街は比較的暖かいけど、街の外に出たら一気に凍えるよ。いつもの時間で凍死ギリギリなのに、長い間いて大丈夫なのかな」


「で、でもフランシスカ。いつもの量じゃ少ししか貰えないよ」


「フレデリカの言う通りだ。生きるためにはもっと金がいるぞ」


「……分かった。みんなが言うなら私も止めないよ。今日は少し遠くに行こう」


 3対1で押し負けたフランシスカは杖を手に握りしめると、四人に寒冷耐性の下級魔法をふりかけた。



 これが大きな過ちだったということに気付かず、フレデリカたちはいつもの狩場よりも少し離れたところに出かけるのであった。



・・・・・



「雪、止まないね」


 狩場へ向かう道中、悪天候に見舞われたフレデリカ達は近くの洞窟で暖を取ることにした。


 洞窟の中心で焚き火をする中、不安そうに外を見るアルトリア。


「大丈夫さ、きっと夜には帰れる。さあほら、歩いて疲れただろ」


 パトリシアは自分の服を、寒さで震えるアルトリアに優しくかけると彼女を寝かしつけた。


 気弱なアルトリアを心配させない為に笑顔を作っていた3人だが、彼女が眠ってしまった今、3人の顔に笑顔はない。


 不安、焦り、恐怖。


 負の感情が入り交じった名も無き感情が彼らを取り込む。


 結局、吹雪が止んだのは次の日の朝だった。

 


・・・・・


連続投稿421日目!


 フレデリカとアルトリアの過去編は個人的に大好きなシーンでもありますが嫌いなシーンでもあります。


 基本的に作中に登場するキャラクターたちって大体暗い過去を持ってると思うのですが、その中でもフレデリカとアルトリアはトップクラスに悲惨な過去を持っているので、読んでいて辛いんですよね……。


 村人と両親は理不尽ですし……。


 



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