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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その11

 吹雪によって新雪が降り積り、全く違う風景になった森の中で一行は絶望した。


 木や足跡を目標にして進んできたはずが、雪で消えてしまったようだ。


「……帰れないの?」


 寝起きのアルトリアは目を擦りながらそう言った。


 その声にリーダーのフランシスカは顔を青ざめさせた。


「だ、大丈夫だよ。何とかなる……」


 極寒の地で迷子になった子供達は、運悪くとある生物と接触してしまう。


『ぐわおーーーん!!』


 その遠吠えを聞いたパトリシアは、全身の毛がピリつくのを感じた。


「この鳴き声、一回だけ聞いたことがある。これは……アイツの声だ」


 子供達の住む村には、とある噂があった。


 暴君の狼ですら逃げ帰るほど、恐しく大きな狼の王がいると。


「逃げろみんな!!」


 その狼の名は「貪り喰らう主狼」。先程の遠吠えはソイツのものだと確信したパトリシアは、急いで彼が背負っていたアルトリアを放り投げた。


 代わりに彼は。


「「「───────ッ!!??」」」


 肉が噛みちぎられる音と、骨が砕けるような音。それと雪原に撒き散らされる真っ赤な血が少女達の目に映る。


 ソイツがこちらに振り向いた時、パトリシアは。


「やばいやばいやばいやばいッ!」


 もう、原型を留めておらず。


「フランシスカッ! 逃げるよ!!」


「あ─────」


 ぐしゃん。



 パトリシアは、ただの。


「いやァァァッ!!!」


 肉片で。


 パトリシアを殺した狼は、間髪入れずにフランシスカに飛びかかる。


「フランシスカに……手ェ出すなァ!!」


 大剣を力の限り振り回し、ソイツをフランシスカから追い払う。


『ぐらあああ!!!』


「ぱ、パトリシアが……!」


 嘔吐寸前のフランシスカは、かつてパトリシアだったものを指さすと声を振り絞った。


「今は逃げるよフランシスカ! アルトリア、ちょっと揺れるけど我慢してね」


 フレデリカはボロボロの布でアルトリアを背負って固定すると、大剣を握り直した。


 今の彼女達にとっての最善は、三人で逃げることだ。


 フレデリカはパニック状態になりながらも、本能的に狼から逃げることを選んだ。


「早くしないとアイツが……!!」


 パトリシアを失って絶望するフランシスカの手を握りしめて、フレデリカは走り出すが。


「……。分かった、行ってフレデリカ!」


 フランシスカは彼女の手を振り払って、杖を握った。


「な、何を言って────」


「隊長の命令! 絶対アルトリアを連れて逃げてッ!!」


 それが彼女の、フランシスカの最後の指示だった。


 そのコンマ一秒後、飛びかかってくるソイツは大口を開け始める。


「せめて足止めくらいは──────ッッ!!」


 フランシスカは自分の全ての魔力を胸に集中させて自爆魔法を発動させた。



 彼女との思い出が一挙に思い出される。楽しかったこと、悲しかったこと。全て。


 それを振り払ってフレデリカは最後の力を振り絞って駆け出した!


 アルトリアはまだ眠っている。


 彼女にこんな光景、見せられるわけが無い。


 パトリシアだった肉片、顔のないフランシスカ。


 フレデリカも精神的に成長している訳では無い。


 泣きたい、叫びたい。


 それでも。



────隊長の命令! 絶対アルトリアを連れて逃げてッ!!



 彼女の指示は最後まで完遂してみせる。


 フレデリカは遠くに見える林目指して一目散に駆け出した。


 「視界の遮られる林の中に逃げれば────ッ!」


 フレデリカは二つの命を犠牲に、ひとつの命を最後まで救う義務を背負うのであった。



・・・・・



「ハァ、ハァ……」


 林の中の洞窟に逃げ込んだフレデリカは、息を切らしながら嗚咽していた。


 子供には衝撃が強すぎる光景を見たのもそうだが、やはり大切な二人を失ってしまったことが悲しかった。


「少し休んだらまた出発するね、アルトリア」


『ぐおおおおん!!!』


「!? もうすぐそこまで……!」


 フレデリカは慌てて洞窟から出て、川沿いに走った。


 逃げないと、逃げないと殺される。


 焦ったフレデリカは川辺の石に足を滑らせて、冷たい水の中に転落する。


「ああっ! アルト……ぶはあっ!」


 ボロボロの布で繋がれた二人は、川の荒波に揉まれて離れ離れになってしまう。


 必死に手を伸ばすフレデリカだったが、川の岩に頭をぶつけて気を失うのであった。



・・・・・



「本当は綺麗なお花が良いけど、そんなことしたら殴られちゃうから。だからこれで許して」


 川で溺れたフレデリカは森の猟師に助けられて、何とか命に別状は無かった。


 帰った彼女を待っていたのは、孤独になった生活だった。


 心の拠り所になっていた友人たちが死に、フレデリカはたった一人で魔物と戦うことになった。


 彼女は小石を三つ並べて、その上に雑草を捧げて両手を合わせた。


 彼女の瞳には涙すら浮かんでいなかった。


「私も一緒に死ねば良かった」


 フレデリカはそう吐き捨てると、また怒号の飛び交う家の中に入って行った。


 耳を塞ぎ、瞳を閉じる。


 何も無かったように。


 何も思わなかったように。


 ただ、静かに。冷たく。 


 その一週間後、彼女は国王の紗友里に保護されて人生の転機を迎えることになるのだが、当時の彼女がその事を知る由もなかった。



・・・・・



 フレデリカの故郷へ向かう荷車の中、彼女の本当の過去を知った一行は思わず彼女に抱きついた。


 静紅は一度彼女の過去について教えてもらったことがあるのだが、その詳細を知ったことで更に胸が締め付けられた。


 軽々しく「里帰りをしよう」と提案したルリも、落ち込んで謝った。


「いいんですよ、過去は過去、今は今です!」


 フレデリカは自分のせいで皆が落ち込む顔を見たくなかったようで、誰よりも明るい笑顔で皆を励ました。


「さあ、そろそろ到着ですよ。久しぶりの……里帰りです」


 荷車が止まり、一行は雪に足を下ろす。


 廃れた貧しい村が、彼女たちを出迎えた。


連続投稿422日目です!

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