魔族
フォグリア家。魔術の才能が突出して高い家系である。
そんな家系に産まれた俺は、家族から期待の目を向けられていた。
この家系に産まれたのなら、きっと魔術の才能があるのだと。
現実は時に不条理を押し付けてくる。
そう、俺は才能なんて遺伝せずに産まれてしまったのだ。魔術が使えないどころか、魔力の流れすら認識出来ない。
普通ならあり得ないことも、神の気まぐれによって、起こり得るものとして現実に適用される。
当然そんな俺に価値を付ける訳が無く、16歳になった時に近くの森に捨てられた。
悲しくもあったが、それ以上に悔しかった。
自分がもっと努力していれば魔術の才能が開花したのではないのか?何か出来ることがあったのではないか?
俺は森の中で、そんなことをひたすらに考えていた。
そんな時、茂みの方からガサガサと音を立てて近付いてくるナニカに気付いた。そして、茂みから海の色をした髪に白い角、青く儚さを思わせるドレスのような服を来たナニカが現れた。
「魔族…?」
ナニカは人の形をしていたが、頭にある白い角で魔族だと判別できた。その他に、姿からして女性であることも分かった。
魔族というのは、人間よりも身体能力が優れた生物であり、頭に角が生えているのが特徴である。
その魔族は俺のことを見てから、すぐに背を向けて言った。
「ついてきて。」
ーーーーーーー
5分くらい経った時、魔族は急に振り向き、俺を抱きかかえて言った。
「少し揺れるけど我慢してね。」
俺はその時、初めて魔族の身体能力を目の当たりにした。
身体能力強化の魔術をかけた熟練の魔術師と同等かそれ以上の速さ。恐らく本気で走っている訳ではないのだろうが、それでもこの速さを出せるとは。
多くの人が手も足も出ずに殺される理由が、言うまでもなく実感できた。
「ごめんね、急に走っちゃって。」
2km程進んだところで魔族は俺を地面に置いた。
「何かあったのか?」
俺は当然の疑問を投げかけた。あの場から急に走る必要なんてあまり無いと思ったからだ。
「少し視線を感じたから。もしも人間だったら都合が悪いからね。」
「そうだったのか。俺はそんなの全く感じなかったが…魔族はそういうところも人間より長けているんだな。」
「そうだね…少なくとも魔族は人間より強いから。」
その言葉はどこか自嘲を含んだように思えたが、俺は特に何かを言うことはなかった。
多分俺はこの魔族に生かされてるだけだから。
「少しここで待っててくれる?用事が出来ちゃった。」
「さっきのやつか?」
「そうそう、あれは人間だったみたい。魔術でこっちの居場所を特定したっぽい。魔術って本当に面倒だね。」
こいつはきっとその人間を殺しに行くんだろう。
本当は一緒に行きたいが、あまりこういう事に口を出さない方が良い。ただの直感に過ぎないけどな。
魔族は俺の顔を見た後、少し笑顔を見せてからすぐに姿を消した。
「今のはどういう意味なんだ?」
虚空に溶けるその独り言からしばらく経ったが、魔族は帰って来なかった。
森の中が、どこか冷たく感じられた。




