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8/15

デートと似てない姉弟


帰りのホームルームが終わった教室は、一気ににぎやかになる。


部活に行ったり、寄り道の話をしたり、皆が思い思いの放課後を過ごすなか、俺もりょうちんとかっちゃんに声をかける。


「帰ろーやー」

「俺、今日委員会」

「俺はそろそろテストあるし本屋寄ってく」


筆箱を抱えて教室を出ていくりょうちんを見送り、俺とかっちゃんは顔を見合わせため息をつく。


「テストなあ……」

「俺今回はマジでヤバそう。湊は?」

「わからんとこ多くて逆にわからん」


だよなあ、と二人で嘆いていると、後ろから足音が聞こえてくる。周りの女子達が俺の後ろを見るから、俺は誰が近づいてきたかすぐに分かる。


「黒川くん」


後ろを振り返れば予想通り、涼しい顔した黒川くんが立っていた。かばんを肩にかけており、周りの女子達が声をかけたそうに彼を見ている。


「どないしたん?」

「ちょっと水野に話が……」


と、黒川くんがちらりとかっちゃんを見る。黒川くんの視線に、かっちゃんがびっくりして俺を見る。


「俺だけ?」

「そう、水野に」

「場所変えたほうがええ?」

「そこまで大層なもんでもなくて……」


その割に黒川くんの表情が硬くなる。周囲の人達が声を潜め俺たちを見守る。

よくわからないが急に緊張感ただよう空気に、俺も必然的に背筋を伸ばす。


「……水野」

「っはい!」

「その……よかったら……」



「……俺と、付き合ってほしいんだ」


このあと教室内が阿鼻叫喚になったのは言うまでもない。




「……………………っ!!」

「水野笑いすぎ」

「だって、……っ、黒川くん誘うのあれって…………っ!!」


笑いの収まらない俺に、隣にいる黒川くんがむっとした顔になる。黒川くんがUFOキャッチャーのボタンを押し、ケースの向こうではアームがゆっくり動く。

学校の最寄り駅から何駅か行った、カラオケやらボーリングが併設されたゲームセンターに俺は黒川くんと一緒に来ていた。


あの黒川くんの爆弾発言のあと、よくよく話を聞けば黒川くんは俺をゲーセンに誘いたかっただけらしく、そこを説明した瞬間の教室内の白け具合はひどかった。


「普通にゲーセン行こ、でええやん」

「そう言ったつもりだったんだよ」

「全然違うこと言ってたで」

「しかたないだろ、誘うの慣れてないんだから」

「えっ?」


黒川くんの言葉に、俺は本気でびっくりする。だって黒川くんは放課後誰かしらによく誘われている。今日だって黒川くんが俺に声をかけなければ、たぶん近くにいた女子達が誘っていただろう。


「よく皆と一緒に出かけとるやん」

「いや、声かけられるけど行かないし。カラオケ誘われても歌う曲ないし、それなら家でゲームしたい」


黒川くんがまたUFOキャッチャーのボタンを押す。ケースのなかでドラゴンのマスコットが揺れる。

黒川くんが挑戦しているのは、今日から設置されたアストラル・ゲート・オンラインのモンスターマスコットのUFOキャッチャーだ。


「土日は?」

「基本ゲームと位置ゲー。水野は」

「俺もゲームやなあ」

「水野も似たようなもんじゃん」


俺には散々なこと言っといて、と黒川くんが俺を睨む。それに俺は苦笑いでごまかす。ケースの中でアームが空を掴む。


「でも意外やったわ。黒川くんが人を誘ったこと少ないって」

「なんで」

「うーん、説明がむずいんやけど……」


俺は黒川くんの横顔を見る。UFOキャッチャーに夢中になっている顔もイケメンだ。

こんな人に誘われて喜ばん人はおらんやろ。脳内に姉ちゃんの横顔が再生される。

姉ちゃんはよく人に誘われるし、姉ちゃんの誘いを断る人もほとんどいない。

休日はよく出かけてるし、その隣にも必ず人がいた。


「なんかキラキラした生活送ってそうやなーって……」


キラキラした人は、キラキラした生活を送っている。

俺の姉ちゃんはその体現者やと思う。キラキラ生活がよく似合うし、周りの人もその生活を期待している。

しかし、俺の感想を聞き黒川くんは訝しげな顔をする。

ついでにまた失敗したらしく、ケース内のアームが空を掴む。


「人を誘うかどうかはまた別の話だろ」


俺の勝手なイメージに、黒川くんが興味なさそうに呟く。

はい交代、と黒川くんがUFOキャッチャーの前からどいて、俺を空いた場所に押しやる。


「俺は水野とこれがやりたかったの」


黒川くんがいつもの顔で言う。ケースの中ではモンスターマスコットが揺れる。つまりはゲーム基準ってわけか。黒川くんの考えは分かりやすい。


「でも黒川くんUFOキャッチャー下手やん」

「…………水野はどうなんだよ」

「俺結構これ得意やでー」


姉ちゃんによくせがまれるし、と俺は機械に小銭を入れる。UFOキャッチャーは機体によってコツがある。お小遣いないでクリアするために動画見てさんざん研究したんや。


「ほらっ!」

「おー!」


三回ほどやって取れたマスコットに、黒川くんから歓声が上がる。手のひらサイズのマスコットは、羽にうろこの模様など思ったよりも精巧だ。


「黒川くんはどれがいい?」

「いいのか?なら、右上の氷龍」

「まかしとき!」


威勢よく返事をして、俺はまたボタンを叩く。こちらも三回ほどで景品口にマスコットが落ちる。


「すげえ」

「俺の数少ない特技の一つやで」

「別にそうは思わないけど、これはすげーな」


黒川くんが景品を取り出し、目の前にかざす。


「細か」

「やんなっ!よくできてる!」

「俺氷龍の武器好きなんだよね。水野は?」

「俺はこれ。水狐のやつ。使わんけどこれの大剣ってかっこええよな」

「わかる」


二人でマスコットを並べ、ここが再現度高い、この角度良い、なんて話す。

同じゲームのモンスターだけど、知らない人から見たらそうだとは気が付かないだろう。

そう思ったら、俺にいたずら心がわく。せっかくのゲーム仲間、二人にだけわかる証ってロマンだ。


「なあ黒川くん、これ、一緒に鞄につけへん?」


俺の誘いに、黒川くんは首をひねる。


「鞄に?」

「そうそう。ゲーム好きの主張」


こんなふうに、と俺は鞄につけてみせる。


「結構ええサイズちゃう?」


俺の提案に、黒川くんはしばし思案する。だけど最終鞄に着いた氷龍に、俺は浮かれて頬が緩みまくる。


「ええ感じやん!姉ちゃんに自慢したろー!」

「姉ちゃん?」

「俺の姉ちゃん!氷龍好きやねん。衣装が可愛いってよく言って……て…………」


そこまで言って、俺はようやく自分の失言に気がつく。黙り込んだ俺に、黒川くんが不思議そうに追い打ちをかける。


「水野姉ちゃんいるんだ。何歳?」

「……大学生。4個上やねん」

「姉ちゃんこのゲームしてるんだ」

「……せやねん。……言うて、バイト忙しいからあんまログインせえへんねんけど…………」


あははー、と誤魔化し笑いを浮かべる俺に、黒川くんが眉間にしわを寄せる。これは早急に話題をそらさんと。

そう思うのに、黒川くんは逃がしてくれない。


「写真とかある?水野の姉ちゃん見てみたい」


珍しく好奇心の見える顔に、俺は答えに詰まる。


見せたくない。


瞬間、そう思った。姉ちゃんの友達が俺を見ると、皆決まって同じ事を言う。


「凪の弟?全然似てないじゃん。ちょっとがっかり」


なにががっかりやねん、って何度も心のなかで突っ込んだ。似てない、は俺が物心ついたときから耳にタコになるくらい言われてきた。


俺の友達も、姉ちゃんを見ては「似てない」って言う。


「湊の姉ちゃん美人だよな!」


そう言って姉ちゃんを前に顔を赤くする。

だから、姉ちゃんの写真を見せるのはいややった。黒川くんが姉ちゃんに「かわいい」って言うのを聞きたくない。

もう散々ゲームで聞いてきたし、現実で可愛いなんて言うの聞かんでもええやん。


そう思っても口に出せるはずもなく、俺は諦めてスマホを取り出す。


「……これ、姉ちゃん」


フォルダ内探しても姉ちゃん単体の写真は無かった。だから仕方なく俺とのツーショット写真を見せる。


我ながら似てないな、と俺でも思った。姉弟というより美人と平凡、後から思い出そうとしても姉ちゃんしかのこってないと思う。


「俺の姉ちゃん美人って評判やねん」


じっと写真を見つめる黒川くんに、俺は先に姉ちゃんについて説明をする。美人で、いつも人気があって、俺とはあまり似ていない。俺のことには触れなくて済むように、俺は姉ちゃんのことだけを口にする。


「姉ちゃん結構背も高くて、モデル体型って街でも声かけられてて。特に目がかわいいって評判で」

「うん、それわかる」

「やろ?まつ毛長くてくりっとしてて」

「水野とよく似てるよな」

「…………へ?」


俺から出た変な声も、黒川くんは全く気にならないらしい。隣で呆ける俺を気にせず、黒川くんはうなずきながら写真を見る。


「目が似てるんだな。あと笑った顔も結構似てる。……うん、かわいい」

「へあっ?!」

「………………いや姉ちゃんがな」


わかっとるわっ!!と元気よく返した割に、俺の顔は熱くてたまらなかった。

姉ちゃんが可愛いなんてわかっとる。だけど似てる、なんて言われたこと俺の記憶では数えるほどもない。


「ほんま似てる?」

「え、似てるだろ?特に笑ったときの目の形とか」

「うーん、全然わからへん」


写真をまじまじと見つめる俺に、黒川くんのほうが不思議そうな顔をする。


「別に姉弟なら似ていても普通だろ」

「いやー、姉ちゃんと似てるかぁ…………?」


わからへん、と頭を悩ませる俺の隣で、黒川くんが姉ちゃん見て「かわいい」って再度呟く。


「水野の写真うつりが悪いんじゃね?」

「それはそれで俺のことディスっとらん?」


唇を尖らせる俺を見て、黒川くんが吹き出す。

悪い、と言いながらも笑いの止まらない黒川くんに、俺もつられて笑う。

姉ちゃんと俺って似てるんか。

初めて知った事実に、つい何度も写真を見てしまう。


「って、そろそろ帰らなあかんな」

「えっ?もうそんな時間か」


黒川くんもスマホを確認し、時間を見て眉を寄せる。


「帰ろか」

「だな。明日からテスト期間だし、早めに帰って勉強……って水野?」


黒川くんが不思議そうな顔で、足を止めた俺を振り返る。

俺はそれに応えるどころではなく、思い出した事実に冷や汗が伝う。


「……テスト?」

「テスト」

「明日から?」

「正確には明日がテスト一週間前」

「~~~っ!!」


忘れとった!マスコットがうれしくて忘れていた!

かっちゃんとそんな会話したばっかやのに、と自分の記憶力にうなだれる。別に成績が悪いわけではない。普通よりちょっと上、そこら辺が俺の順位だ。

だがそれは準備あってこそ、一応予習復習やる優等生だ。

むしろそうしなきゃ追いつけないわけで、そして最近はモモのことで頭が一杯で…………。


「なに、水野ってやばい成績だっけ?」

「そこまでやけど、でも今回はあかんねん……」


赤点……ゲーム…………と呟く俺に、黒川くんが何かを察した顔をする。


「ならさ、水野明日から暇?」

「勉強一色や……」


「今日連れ回した詫びも兼ねて、高得点取る秘訣教えてやるよ」



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