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第九話 お似合いな話

第九話 お似合いな話


『ひとまず、今はルリも考える時間が必要だ。しばらくは、非魔法界(あっち)でゆっくり過ごすこと。でも、もし、魔法界(こっち)に居たいと思ったら、遠慮なく父さんたちに言ってくれ。あとは、中学の卒業の時に、改めて、ルリの意思を聞かせて欲しい。』

『……はい。』

『ひとまず、家に帰ろうか。父さんは、こっちで仕事があるから、ルリ一人になるけど、大丈夫か?』

『私を何歳だと思ってるの。それに、こっちから非魔法界(あっち)への移動は好きな場所に戻れるんでしょ。』

『はは、さすが我が娘だな。』


 ……まさか、あんなことがあるなんて。やっぱり私は、アニメや漫画、小説によく出てくる()()()らしい。

 父に魔法で送ってもらい、家へと帰る。

 母さんに連絡はしてあるのだろうか。……もし、してないなら、どう説明すればよいものか。まあ、きっと父さんに丸投げしよう。うん。そうするしかない。

 そもそも、私は魔法界のことについて知らなすぎた。元々、興味があったのは「魔法」という事象で、非魔法界に生まれてきたのだから、そのままこっちで暮らしていくつもりだった。

 そんな私が、数年後、魔法界の魔法学校へと通うかもしれない。才能というものは、思わぬ方向から人を締め付けてくる。突然与えられた選択肢に、答えを出して自分なりの道を創っていた小説の主人公たちの凄さを、身をもって思い知らされる。「転生」という大きなアドバンテージのせいで、将来のことは心配ないかと思っていたが、予測できないのが人生である。第一、()()()()()()()()()()は、私だって初めてなのだ。


 これからのことに想いを馳せながら、家のドアノブを握る。こんなに天気の良い日は、母さんが庭をいじっているか、ベランダでお茶をしていることが多いが、今日は姿が見当たらなかった。

 珍しい、と思いながら扉を開ける。すると、見慣れない靴があった。


「……ただいま。」

「!あら、瑠璃。帰ってきたのね。お父さんはそのまま仕事に行ったのかしら。」

「うん。……この靴、お客さん?」


 足元の見知らぬ靴を指さして言う。父さんのお仕事関係で、何度か来客はあったが、この靴は、どちらかといえば子供用のものだった。……と、なると――


「あっ!るりちゃん、お邪魔してます。」

「なんで紫乃がうちに?」

「大事なプリントを届けてくれたのよ。ほら、お礼を言いなさい。」

「……ありがと。助かった。よく迷わなかったね。」

「ふふ。どういたしまして。こんな森の奥にお家があったんだね。……あ、悪く言おうとしている訳ではなくて!」

「大丈夫よ。この子もそんなこと、わかっているわ。」


 優しい眼差しで母さんに見つめられる。この、なんでも見透かすような瞳に見つめられるのは、あまり得意ではなかった。なんだか気恥ずかしくなって、視線を逸らす。


「今度、わたしの家にもおいでよ!」

「時間があれば。」

「こら、もっと愛想良くしなさい。」

「いいんですよ、お母さん。るりちゃんのこういうクールなとこ、好きなので。……あっ。」


 紫乃が顔を真っ赤に染める。それを「あらあら〜」って感じで見ている母さん。

 多分私に「好き」って言ったことに照れているんだろう。多感なお年頃だ。こういった些細なことでドギマギすることもあるだろう。

 私が澄ました顔でいると、何故か紫乃にジト目で見つめられた。「るりちゃんが全部悪い」って。いや、私のせいではないだろ。


「紫乃、時間は大丈夫なの?」


 もう十分日は傾いて、窓から夕日が差してきている。空はとっくに茜色に染まっていた。


「じゃあ、今日はこれで。……るりちゃん、また来週!」

「ん。また来週。」


 家の外の道まで、紫乃を見送る。小さな背中が、さらに小さくなっていく。


「とっても良いお友達を持ったのね。」

「うん。紫乃は、すっごく良い子。」

「大事にするのよ。」

「……うん。」


 そんな友達とも、ずっと一緒にはいられない。中学までは、同じ校区だから、一緒に通えるだろうけど、高校からは――


 私が、魔法界に行ってしまうかもしれない。


 流石に一般人の紫乃にはついてきてもらうとかもできないし、何より、永遠なんて、どこにもないのだ。

 永遠に思えたあの日々も、終わりが来たのは一瞬で。気がつけば新しい日々が始まっていた。

 いつかは、離れなければならない。前世では、そんなに辛いと思えなかったのに、どうして、今私は踏みとどまろうとしているのだろうか。

 脳裏に、紫乃の無邪気な笑顔がちらつく。


 (あぁ、きっと私は――)


「大丈夫。貴方がどんな選択をしても、私は瑠璃の味方だから。」


 (あの、無垢な人間に憧れていたのかもしれない。)


 

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