閑話 みんなでスポーツ大会
この話は没にする予定でしたが、
勿体無いので公開します。よろしくお願いします。
エーデル村の夏は、ただ暑いだけではない。
魔族の開拓地から放たれる熱気と、王都から来た王子の無駄な情熱が混ざり合い、今や村全体が妙な高揚感に包まれていた。
「……というわけで、ガイウス。人間と魔族、お互いの手の内(筋力と魔力)を知るために、親睦スポーツ大会を開催することにしたぞ!」
村長のゴードンが、カインと肩を並べて宣言した。
隣に立つ魔族の皇太子は、不敵な笑みを浮かべて腕を組んでいる。
村の広場には、色とりどりの旗が掲げられ、グラントの酒場からは景気づけのエールが次々と運び出されていました。
「ガイウスさん、これ盛り上がりすぎじゃない? 私、実況頑張っちゃうよ!」
リナが拡声魔法の魔道具を手に、やる気満々で飛び跳ねています。
一方、俺はというと、競技中に村が半壊しないよう、広場周辺に三重の多重防壁を張る作業に追われていました。
「リナさん、実況はいいですが、もしカイン殿が本気で地脈を叩き始めたら、すぐに避難誘導をお願いしますね」
「分かってるって! ほら、エリック王子も準備万端みたいだよ?」
視線の先には、気合の入りすぎたエリックがいました。
彼は今回、エルにいいところを見せるべく、特注の「動きやすさと王族の気品を両立させたジャージ(自称)」に身を包んでいます。
「エル殿! 見ていてくれ、私のこの躍動する筋肉(開拓地仕込み)を!」
「ええ、楽しみにしておりますわ、エリック様。お怪我をなさらないように……あ、もし飛んできた石があれば、私が打ち返しますからご安心を」
エルの優しすぎる(物理的な)フォローに、エリックは複雑な顔をしながらも拳を握り締めました。
最初の種目は、農家の基本である「重量物の運搬」です。ただし、ここはエーデル村。ただの袋ではない。
中身は魔力を帯びた超高密度の土で、一袋で百キロ近くある。
「位置について……よーい、スタート!」
リナの合図と共に、人間チーム(エリック、アルト他)と魔族チーム(カイン、ベルグ他)が一斉に飛び出した。
「ぬおおおおおっ! 重い、だが……愛の重さに比べればッ!」 エリックが顔を真っ赤にして袋を担ぎ、猛追する。
しかし、隣を走るベルグは、一袋どころか三袋を片手でジャグリングしながら、鼻歌混じりに追い抜いていく。
「王子殿下、腰が引けておりますぞ! 大地の力を足の裏から吸い上げるのです!」
「理屈は分かっているが、物理的に足が地面に埋まるんだよぉぉ!」
さらに障害物として、エリアが(悪気なく)配置した「幻惑の霧」がコースを覆います。
「あら、少し霧が濃すぎたかな? 皆さん、地図は持っていますかー?」
「エリアさん! 競技中に迷子を量産しないでください!」
霧の中で右往左往する参加者たち。
エリックは方向を見失いかけましたが、ゴール地点で手を振るエルの姿を「魔力感知(愛の力)」で捉え、泥まみれになりながらも二位でゴールに飛び込みました。
二種目目は、俺がこの日のために品種改良した「超根性薬草」の引き抜きです。この薬草は地脈から魔力を吸ってガッチリ固定されており、単なる力自慢では抜けません。
「これは力だけじゃダメだ。魔力を流し込み、薬草の抵抗を無力化しつつ引き上げる。……つまり、繊細な農作業の極致だ」
カインがニヤリと笑い、巨大な薬草の葉を掴みました。
「見てろ、ガイウス。俺の『支配の魔力』で、この根っこを根こそぎ屈服させてやる!」
カインが魔力を込めた瞬間、地面がボコボコと波打ち、薬草が悲鳴を上げるように(?)揺れ動きました。
しかし、薬草も負けていません。
俺が施した「頑固一徹」の術式が発動し、カインの魔力を弾き返します。
「……ほう、面白い。ベルグ、ドリス! 手を貸せ! 『魔族流・三位一体抜根』だ!」
魔族三人がかりで真っ黒な魔力の奔流が渦巻きます。
一方、人間チームはエリックを中心に、エリアの魔力支援とアルトの精密計算を組み合わせて対抗しました。
「引けぇぇぇ! 王国の未来を、この一株に懸けてぇぇぇ!」 エリックの叫びと共に、巨大な薬草が「ポンッ!」という爆音と共に地上へ。
その反動で、エリックとカインの両チームは後方の泥沼へダイブしました。
「……引き分け、だな。カイン殿」
「ふん、悪くねえ。……だが、次は負けんぞ」
最後は、この大会のメインイベント。
魔導強化された「重さ五十キロの鉄球」を蹴り合う、命がけのサッカーです。
もちろん、防護壁の展開は俺が全力でサポートする。
「ルールは簡単! 相手のゴールに鉄球を叩き込むだけ! 魔法使用、なんでもアリ!以上!」 リナの過激なルール説明と共に、キックオフ。
試合はカオスを極めた。
カインが炎を纏ったシュートを放てば、エリアが重力魔法で弾丸の軌道を捻じ曲げ、エリックが捨て身のスライディングで鉄球を止めに入ります。
「ぐふっ……! あ、肋骨が……いや、まだだ! エル殿が見ている前で、無様な姿は見せられん!」 エリックはもはやボロボロでしたが、その根性は本物でした。
試合終了間際、鉄球がエリックの前に転がってきました。
「いけぇぇ、エリック様!」 エルの声援が広場に響きます。
「おおおおお! これが……これが私の、エーデル村での修行の成果だぁぁ!!」
エリックは、ガイウスに教わった「重心の移動」と、カインから学んだ「爆発的な魔力放出」を同時に行いました。
放たれたシュートは、防護壁を激しく揺らし、魔族チームのゴールを(物理的に)破壊しながら突き刺さった。
「ゴール!!ゴール!!優勝は人間チーム……いや、もうどっちでもいいや! 最高の試合だったよ!」
夕暮れ時、広場には泥だらけで笑い合う人間と魔族の姿があった。
カインはエリックの肩を叩き、「あのシュート、少しはマシだったぜ」とぶっきらぼうに認め、エリックは誇らしげに鼻を高くしていた。
「ガイウスさん、大成功だね!」 リナが嬉しそうに駆け寄ってきます。俺も防壁を解除し、ようやく一息つく。
「ええ。おかげで村の防壁強度のデータも取れましたし、何よりみんな楽しそうです」
そして、表彰式の代わりに行われたのは、俺がリナから特訓を受けて完成させた「マドレーヌ(食べられる版)」と「滑らかプリン」の振る舞いでした。
「……美味い。ガイウス、お前、ついに『遊び』を覚えたな」 ヴェルダが幸せそうにプリンを頬張ります。
「エリック様、本当にかっこよかったですわ」
エルの言葉に、エリックは今日一番の笑顔を見せ、そのまま幸せそうに気絶しました。
王都の策略や野望すらも、今はスポーツの後に流す汗と、甘いお菓子の香りに溶けていく。
スローライフは、今日も――泥まみれの絆を深めながら――順調だった。




