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第百章 西垣教授、左遷される

教授会の結論が出る頃に、修と佳子が心配して病院に来て、内科の西垣教授も外科病棟に現れて、「いよいよ東城先生も終わりですね。」と笑っていた。

その頃、患者の父親が出張から帰って来て、事情を聞き外科病棟に来て、「東城というスケベ爺の変態外科医はどこだ!娘を裸にして、あげくの果てに緊急手術と称して娘の体を切り刻みやがって!」と怒鳴り込んで来て騒ぎになった。

近くにいた病院長が騒ぎに気付いて、「落ち着いて下さい。東城先生は女医です。スケベ爺でも変態でもありませんよ。」と患者の父親を説得していると、西垣教授も近くにいる事に気付いた。

「西垣君、君もいたのかね。西垣君、東城君、私の部屋まで来て下さい。今回の緊急手術について話があります。」と教授会の決定事項を、二人に伝えようとしていた。

西垣教授は、「教授会の結論が出たのですね。丁度患者の父親も居られます。その結論を知りたいと思いますので、ここで発表して下さい。」と陽子に恥を掻かせようとしていた。

病院長は、“西垣君の問題行動が皆に気付かれないように、西垣君だけではなく関係者の東城君も一緒に呼んだのに、ここで発表しても良いのかな?”と心配して、「西垣君、本当に良いのかね?」と念を押した。

西垣教授は、「私は一向にかまいませんよ。早く発表して下さい。」と急かした。

病院長は西垣教授に急かされたので、「結論から言うと、東北にある、うちの大学の系列病院に来週から行って下さい。」と指示した。

西垣教授は笑いながら、「いや~良かったね。解雇にならなくて。東北は良い所ですよ。」と東北に行くのは陽子だとばかり思っていた。

病院長は、「そうか西垣君、君にそう言って頂けると私も嬉しいよ。来週から大好きな東北で頑張ってくれたまえ。」と肩を叩いて励ました。

西垣教授は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、「えっ?行くのは再三ルールを破った東城先生では?」と予想外の発表内容が信じられなくて確認した。

患者の父親も、“何故西垣教授が?”と不思議そうでした。

病院長は、「君は何を言っているのだね。緊急手術は後で問題になる事もある為に、手術中に撮影する事は、内科の君でも知っているだろう。東城君の手術中の映像を見たのかね?東城君が緊急手術しなければ、この患者は今頃棺桶の中にいましたよ。それに西垣君、君は以前にも同じような事あったが、今回は助手の内科医から、“患者が苦しんでいる!”と聞いた時には、出張から帰っていたのにも関わらず、何故病院に来なかったのだね!東城君が緊急手術すると聞いて、慌てて病院に来るとは、何を考えているのだね君は。看護師達の話によると、その時、君はアルコールの臭いがしたそうだし、自宅から病院に来たにしては早かったので調べると、病院の近くの飲み屋で若い女性と会っていたそうだな。温厚な東城君も、それで怒り君と口論になったのではないのかね?偶々東城君が病院にいたのでこの患者は助かりましたが、そうでなかったら誤診で患者を死なせ大変な事になっていました。もうこれ以上、君に第一内科を任せられないというのが、教授会の決定です。それに東城君は君と違って、この病院に必要な外科医です。」と説明した。

西垣教授は病院長から渡された陽子が手術中の写真を見ながら、「そんな馬鹿な!」と頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

その後病院長は陽子に辞表を返して、「東城君、患者がこんな状態になっている事をよく見抜いたね。これは経験豊富な内科医でも、見抜くのは困難な症例です。さすが東城君だ。オペ中の映像を見ながら他の教授も、“この状態では手術不可能だ。この娘が助かったのは本当なのか!とても信じられない。まるで神業だ。”と絶賛していました。相変わらず鮮やかなメスさばきですね。しかし内科の教授が反対している中、よくオペ室ナースも動いたな。解雇される可能性があるのに。」と陽子の人望の厚さに驚いていた。

看護師長が、「東城先生は、看護師の仕事を理解して大事にしてくれますので、ナースは全員東城先生の味方ですよ。それは外科のナースだけではなく、オペ室ナースも、それ以外の科のナースも。」とその理由を説明した。

病院長は、「そういえば、先日内科のナースが東城君から食事に誘われたと言っていましたが、そういう事ですか。それで看護師達は外科に移りたがっているのですか。」と陽子の面倒見が良いので感心していた。

看護師長は、「それだけではありませんよ。救命救急師等の資格をとり、ステップアップしようとしている看護師がいる事はご存知だと思いますが、解らない所などを質問しても、先生方は多忙でなかなか教えて頂けませんが、東城先生は勤務時間外に、手取り足取り詳しく、優しく丁寧に教えて頂けます。やる気のあるスタッフには、どこまでも付き合って頂けますので、それも要因の一つです。」と説明した。

病院長は、「救命救急師等の試験に合格する看護師が外科の看護師に多いのはそういう事ですか。」とそこまで陽子が看護師達の面倒を見ているとは思っていませんでした。

陽子は透視力で患者の診断をしている為に正確で、医学部在学中の試験も母と同じように透視力でカンニングしていた為に、さほど知識がある訳ではないので、自分の勉強も兼ねて詳しく丁寧に指導しているとは誰も気付いていませんでした。

話を聞いていた患者の父親は、「私の娘は、東城先生に助けられた事になるのですか?スケベ爺だとか変態だなんて失礼な事を言って申し訳御座いませんでした。東城先生が女性の外科医だとは知りませんでしたから。何故娘を裸にさせたのですか?」と確認した。

陽子は、「患者の状態からして、至急全身状態を確認する必要がありましたので。しかし、その疑いの目で以前、若い内科医を睨みませんでしたか?それで今回、服を脱がす事を躊躇い、処置が遅れました。医師を信じて下さい。医師が途中で処置を中断する事は、大変危険です。例えば外科医が手術中に処置を中断すればどうなりますか?私達は処置を始めれば、最後まで完了させる義務と責任があります。」と説明して佳子を見ながら、「たとえ銃で撃たれてもね。」と付け加えた。

最後に陽子は若い内科医に、「あなたも医師でしたら、患者を裸にさせる必要があれば、若い女性でも裸にさせなさい。その時、あなたに嫌らしい心があったので、以前父親に睨まれた事があった為に躊躇ったのでしょう?その躊躇いが誤診を招くのよ。今後も嫌らしい目で患者を見るのでしたら、誤診は避けられません。患者の為に、今直ぐに医師を辞めて下さい。」と助言した。

若い内科医は、「確かに東城先生の仰る通りですが、私は逆に、若い女性だからこそ、恥ずかしい思いをさせるのは可哀そうで、患者の事を考慮して、可能であれば、検査データーなどから・・・」と説明していると陽子は、「患者の事を考えるのも必要な事ですが、私達は、患者の心理ケアーをしているのではなく、病気や怪我の治療をしています。あなたは大きな勘違いをしていませんか?確かに検査データーなどは、患者の状態を把握する重要不可欠な資料ですが、それは悪までも、検査した日時のデーターであり、現在の状態ではありません。患者の状態は、検査データーを参考にして、あなたの目と耳で直接確認して下さい。何の為に聴診器持っているの?それが最終判断になります。自信がなければ、いつでも教えてあげますよ。」と説明した。

若い内科医は、「看護師だけではなく、他科の医師も指導して頂けるのですか?今後何かあれば相談します。」と世界一の名医に指導して頂けると喜んでいた。

患者の父親は、陽子の説明を聞いていると、その雰囲気が、ある女性に似ている事に気付いて、「東城先生、間違っていればご勘弁願いたいのですが、東城先生のお母様は、芹沢外科医院の院長先生ではないですか?」と聞いた。

陽子は、「はい、そうですが、それが何か?」と母の知り合いなのかな?と思った。

患者の父親は、「東城先生の母親だという事は、苗字は東城ですよね?芹沢外科医院になっていたので、今迄気付きませんでした。私は子供の頃に大病を患い、色んな病院で診察を受けましたが、どの病院でも、もう助からないと診断されました。しかし、芹沢外科医院の院長先生に手術して頂き、この通り元気になりました。聞く所によると、神の手を持つと噂されている名医らしいですね。今の話では、東城先生も芹沢外科医院の院長先生と同じように、他の外科医が手術不可能だと診断された患者の手術を成功されておられるようですね。血は争えないですね。」と感心していた。

陽子は、「それって、もしかすれば、手術設備を寄付して頂いた患者さんですか?芹沢は、母の旧姓です。」と患者と母の関係が理解できた。

患者の父親は、「そうなのですか。それで納得しました。芹沢外科医院の院長先生のご子息が、この病院の医師をしておられると聞きましたので、恩返しのつもりで、毎年寄付させて頂いていましたが、どうしても芹沢外科医院の院長先生と比較してしまい、苦情が多くなりました。芹沢外科医院にも寄付しようとしましたが、断わられました。外科で緊急手術されたという事は、娘は外科に移るのですよね?主治医は是非、東城先生にお願いします。」と依頼した。

陽子は、「主治医の件は解りました。それと母が寄付を断ったのは、お金よりも人命を大切にしているからです。何でもお金で解決する事を嫌いますので、私も無給ボランティアの医師として、手術の手伝いをする事もあります。もし母に恩返しがしたいのであれば、無給ボランティアの医師、看護師、事務員のほうが、お金より喜ぶと思います。母は貧乏人には治療費の請求をしませんので、結局母が支払っています。そのような患者は健康保険料も払えずに加入していない事が多いので、スタッフの給与を支払えば、本当に何も残りません。台所は火の車です。今までに廃院の危機が何度もあり、今後もあると思います。」と助言した。

患者の父親は、「私の理想の医師ですね。神の手を持つと噂されていましたが、手だけではなく、心も神様ですね。廃院にならない事を祈っています。東城先生以外に、無給ボランティアの医師や看護師はいるのですか?」と本当にそんな人がいるのか疑問でした。

陽子は、「無給ボランティアの看護師はいます。そのような母の方針に感動して、交通費も食費も出ない為に赤字ですが、それでも手の空いている時は、医院を手伝って頂けます。」と寺前さんの事を説明した。

看護師長は、“寺前さんは、別に感動した訳ではなく、ただ、東城先生の同僚として仕事ができると大喜びでボランティアの看護師をしているけれども、ものは言いようね。”と笑いを堪えていた。

患者の父親は、「そうですか。私もそのような人を捜して、芹沢外科医院を紹介します。今後とも娘の事を宜しくお願いします。」と娘の事を陽子に依頼して、娘の病室へ向かった。


次回投稿予定日は、5月11日です。

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