表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

第九十九章 陽子、緊急手術を強行する

数日後、娼婦は意識を取り戻したが、拉致されている間、やくざの話は恐怖から覚えておらず、たまに丸東組や丸西組の単語を覚えている程度で決め手にはなりませんでした。しかし、弾丸の鑑定も終わり、その結果が捜査本部に知らされた。

捜査会議で、「娼婦を狙撃したライフルと、病院で梅沢佳子刑事と東城外科医を狙撃したライフルは、弾丸の鑑定結果、同一のものである事が判明しました。これで、先日の狙撃は娼婦を狙ったものだと思われます。」と報告された。

警察も娼婦を狙撃した弾丸を、陽子がオペ中に摩り替えた事は知らず、その後、病室を狙撃した丸西組の組員も知らず、ただ丸東組は凶悪なやくざだと印象付ける為に、カーテンの閉まっている病室を闇雲に狙撃しただけでした。

病室は、見舞い客を装い病棟を訪れると、警察官が病室の前に立っていた為に直ぐに解ったようでした。

定時後、娼婦の様子確認と狙撃の事を陽子に知らせようと、帰宅途中に梅沢姉弟は病院に寄った。まさか陽子が丸東組の次期組長で先日の狙撃犯を捜しているとも知らずに、修はこのことを陽子に告げて、「狙撃された時に約束したように、必ず犯人は逮捕する。」と陽子に誓った。

陽子は、“こっちが先に拉致してやる!”と思っていた。

陽子は他に手掛かりがないかどうか修と佳子を透視すると、丸西組の組員の名前が手帳に記述されている事に気付いが、その時に佳子の腎臓が弱っている事にも気付いた。

陽子は、「佳子さん、先日に比べて顔色が悪くないですか?体を診せて頂けませんか?」と忠告した。

佳子も大丈夫だと言いながらも、名医に忠告されると心配で、修も折角陽子が忠告しているのだからと診察を勧めた為に、佳子も診察を承諾した。

陽子はカーテンで仕切り佳子を横にさせて診察した。

診察終了後陽子はカーテンを開けて、「最近、尿の量が多くなっていませんか?そして、疲れやすくないですか?」と確認した。

佳子は驚いて、「えっ?東城先生、血液検査や尿検査をしないで、何故そんな事が解るのですか?」と不思議そうでした。

修が、「何を言っているの?陽子は世界一の名医だよ。そんな事は直ぐに解るよ。」と解って当然だと佳子に告げた。

陽子は白々しく、「佳子さん、あなたの腎臓は弱っています。一度何処かの病院で検査して下さい。このままですと、疲れが段々酷くなり動けなくなります。そうなれば移植手術しかありません。今なら充分投薬のみで治せます。手術や透析の必要はありません。できるだけ早く病院に行って下さい。念の為に、弱い腎臓の薬を注射しておきます。」と陽子は佳子に注射した。

陽子は注射しながら、「この薬の効果は一時的なものですので、今日は早く帰って寝なさい。それが一番良い薬ですよ。」と佳子の体を心配して医師として忠告した。

その時、ナースステーションに内科の看護師が来て、「入院患者の様子が可笑しく、容態が段々と悪くなってきています。誰か診察して下さい。」と頼んだ。

その場にいた外科医は、「主治医の内科医は何と仰っていますか?」と主治医の見解を確認した。

内科の看護師は、「第一内科の西垣教授で、現在学会に出張中です。助手の内科医が教授の携帯に連絡して問い合わせましたが、“いつもの薬で大丈夫です。”との事でした。その薬が効かないと相談しても、“量を間違えていませんか?服薬確認は確実に行いましたか?その薬で大丈夫ですので。”とそればっかりで、患者は段々と容態が悪くなって来ています。お願いします。誰か診察して下さい。」と頼んだ。

その外科医は、「冗談じゃない。内科の教授が大丈夫だと診断しているのに、外科が診察すれば大変な事になります。断ります。他の内科や外科からも同じように断られて、ここに来たのではないですか?」と断った。

陽子は注射しながら、「その患者はどんな症状ですか?」と確認した。

内科の看護師は新人でしたので陽子の事は知らずに、注射していた為に看護師だと思い、「今説明したように、苦しんでいます。」とだけ伝えた。

注射が終わった陽子は注射器を山本に渡しながら、「それだけ?そんな事は素人でも言えますよ。それでも看護師なの?もっと確りしなさい!私が行きます。」と内科の患者を診察に行こうとしていた。

その場にいた看護師長が、「東城先生、辞めて下さい。外科が診察すれば只では済みませんよ。」と陽子を止めた。

陽子は、「師長!あなたは何の為に看護師になったのですか?ルールを守る為ですか?それとも人を救う為ですか?悪いけれども、私は人が苦しんでいるのを黙って見ていられない性分なので医師になりました。容態が段々と悪くなってきている患者を見て見ぬ振りはできません。」と内科に向かったので看護師長は山本に同行させて、「何かあったら直ぐに報告しなさい。」と指示した。

看護師達が、おろおろしていた為に修が理由を尋ねると栗垣が、「内科から正式な依頼もなく、外科が勝手に診察すれば、内科と外科とで意見が分かれている事になります。同じ意見であれば診察する必要はない訳ですから。解りやすく言えば、どちらかが誤診している事になるので病院でこれはタブーです。先ほどの内科の看護師は新人なので、そのあたりの事情を理解してない様子で、容態が悪くなってきている患者を助けたい一心で、他の診療科に来たのだと思います。問題になれば、そのルールを破った東城先生が責任を取らされます。特に西垣教授は、以前も東城先生に同じ事をされて怨んでいるので今回はどうなるか解りません。以前はたまたま、西垣教授の誤診がはっきりした為に東城先生は助かりました。」と説明した。

しばらくすると山本が血相を変えてナースステーションに戻って来て看護師長に、「師長!大変です。東城先生が緊急手術します。ただそれを聞いて、内科の西垣教授が戻って来て、東城先生と口論になり東城先生が、“出張中だったんじゃないの?直ぐに来られるのでしたら、患者が苦しんでいるのに今迄何をしていたの!アルコールの匂いがするけれども苦しんでいる患者の事を放っておいて飲んでいたの?私はあなたの考えが解りません。文句があるのでしたら、これをあなたに預けます!”と西垣教授に辞表を叩き付けて、手術を強行しました。」と報告した。

その報告を聞き、数人の看護師が、「いや~、東城先生、辞めないで~。」と泣出した。

清水が修と佳子に、「刑事さん、何とかして!偉そうにしているだけで誤診の多い西垣教授が大学に残るの?東城先生みたいな名医が辞めなければならないの?」と助けを求めた。

佳子は、「あなたのいう事は良く解りますが、私達は病院の人事に口出しできません。」と清水の肩を優しく叩き、「大丈夫よ、東城先生の事は、ちゃんと見ている人には解りますので落ち着いて下さい。」と興奮している清水を落着かせようとしていた。

しかし、修は不信に感じ、「何故、陽子は辞表を持っていたのかな?」と看護師達に確認したが看護師達も良く解らなかったようでした。

看護師長が、「東城先生は、このような時の為にいつも辞表を用意されておられました。東城先生はその辞表を使わなくても、いつも自分の首を懸けて真剣に治療されておられました。私は、その辞表が使われる事がないようにいつも祈っていました。娼婦のオペ中に一度心臓が止まりましたが、もし娼婦が亡くなっていれば、東城先生は退職されたと思います。東城先生はそういう先生です。今回の緊急手術も、東城先生は自分の首を懸けておられたので、辞表は何の躊躇いもなく出されたのでしょうね。」と説明した。

看護師長は続けて、「手の空いている人は私と一緒に来て下さい。西垣教授の所へ、東城先生の辞表を取り戻しに行くわよ。」と声掛けした。

その場にいた殆どの看護師が行こうとしていると西垣教授が現れて看護師達に笑いながら、「看護師に人気の高い東城先生も、もう終わりです。だってそうでしょう。手術の必要がない患者を緊急手術と称して手術するなんて無茶苦茶だ。厳罰にするように、今、病院長に依頼して来ました。」と看護師達に告げました。

山本が、「東城先生は、そんな先生ではありません!緊急手術の必要があったから緊急手術したのよ!誰かさんみたいに誤診はしないわ!東城先生の辞表を返してよ!」と興奮して陽子の辞表を取り戻そうとしていた。

西垣教授は、「何も知らないくせに看護師風情が生意気言うな。馬鹿者!先程病院長に渡して来ました。そんなに東城先生の事が好きなら、明日から東城先生とホームレス生活でもエンジョイすればどうですか?東城先生も、お一人では寂しいでしょうから、きっと喜ぶと思いますよ。」と笑いながら帰った。

看護師達が、「師長、病院長の所へ行きましょう!」と陽子の辞表を取り戻しに行こうとしていた。

看護師長は、「東城先生の辞表が病院長に渡ってしまえば、今更、事を穏便に済ませるのは不可能です。緊急手術の必要性がポイントになります。緊急手術が必要だと判断された東城先生を信じましょう。」とその場にいた看護師達に伝えた。

病院側も、大きな問題ですので、その日の間に明朝、緊急で臨時教授会開催を通知した。

明朝、当事者の西垣教授抜きの臨時教授会で、陽子の緊急手術について討議された。

看護師達は、教授会が直ぐに開催されたので驚いていた。

看護師長が、「東城先生が緊急手術された患者の親は、当病院や大学に毎年多大な寄付をされておられ苦情も多い為に、苦情が出る前に結論を出しておこうとしたのではないでしょうかね。」と看護師達に説明した。


次回投稿予定日は、5月8日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ