第九十八章 師長の息子、怪我する
陽子は帰宅後丸東組に行き、弾丸を摩り替えた事を伝えて、先日何者かに狙撃されて、まだ誰に狙撃されたのか解ってないと言っている組員青木と娼婦を狙撃した組員下平を呼びつけて、「下平が狙撃した娼婦から摘出した弾丸と、青木の体内から摘出した弾丸を手術中にすり替えておいたので、青木を狙撃した犯人を警察が捜してくれます。判明したらキッチリと落とし前つけるのよ!うちの組員が狙撃されたという事は、私や父は勿論、皆も馬鹿にされたのよ!もし落とし前を着けられなかったら二人共、只では済まないから覚悟しておく事ね。」と指示した。
下平は、「只では済まないって、俺達はどうなるのですか?」と心配そうに確認した。
陽子は、「そうね、そういえば腎臓病の組員がいたわよね。誰だったかしら。血液型の問題もあるけれども、その組員の為に、小指ではなく、あんたの腎臓を貰うわ。腎臓は二つあるから、片方を切除しても体調不良になっても死なないわよ。」と脅した。
青木は、「何でやくざの幹部が外科医なのだ。」とブツブツと呟いていた。
陽子は、「何か不満でもあるの?それとも、他に切除して欲しいところでもあるの?舌を切除して二度と減らず口を叩けないようにしてやっても良いわよ。」と指示に従わなければ、体を改造すると更に脅した。
別の組員の植田が、「お前、地獄の閻魔さまに逆らえば舌を引き抜かれるぞ!」と笑った。
陽子は、「誰が地獄の閻魔さまよ。植田、あんたこそ舌を切除してやろうか。」と怒った。
植田は、「しかし、どう考えても天国の天使様がやくざの幹部になるとは思えないので・・・」とうっかり姉さんを怒らせてしまった。と恐る恐る反論した。
陽子は、「植田!もう一度言ってみろ!私が地獄の閻魔さまだというのか!」と更に怒った。
そこへ茂が来て、「お前ら、怪我した時には陽子に手当てして貰っているのだろう。陽子を怒らせると手当てして貰えなくなるぞ。皆も知っているように、陽子は世界一の名医だし、警察には知られないし、下手な医者に手当てして貰い後遺症が残った上に警察に通報されるより良いと思うがな。」と助言した。
植田は、“組長が間に入ってくれて助かった。”とホッとして陽子に謝った。
翌日、病院で看護師達が普段どおりに勤務していると、看護師長の自宅から電話があった。
電話に出た看護師が、「お母さんは今会議中ですが何か急用ですか?」と用件を確認した。
電話は、看護師長の上の子供からで、「えっ!?看護師さんも会議があるの?患者さんを看病しているだけじゃないの?」と不思議そうでした。
看護師は、「お母さんは、とっても偉い看護師さんですから、病院全体の事について会議しているのよ。」と返答した。
子供は、「嘘!母ちゃんはそんなに偉いの?」と驚いていた。
看護師は、「そうよ、凄く偉いのよ。所で何か急用なの?」と話が横道に逸れたので元に戻した。
子供は、「あっ!?忘れてた。大変なんだ!弟が怪我して血が止まらないんだ。母ちゃんに、近くの芹沢外科医院に連れて行くと伝えておいて。」と看護師の一言で現状を思い出し慌てて電話を切った。
看護師長は師長会でしたので、勤務明け看護師の寺前さんが、師長会はまだ終わりそうにないので、師長の代理として芹沢外科医院まで様子をみに行き、知らせを聞いた看護師長も、“血が止まらない。”と聞いて、只の怪我ではないと判断して会議を抜け出して芹沢外科医院に向かった。
二人が芹沢外科医院に到着した時には手当ては既に終わっていた為に、子供に、「血が止まらなかったのよね。どんな手当てしたの?」と確認した。
子供は、「優しい看護師さんが包帯を巻いてくれて、優しくしてくれたよ。」と答えた。
看護師長は、“どんな手当てをしたのか、子供に聞いたのが間違いだったわ。先生は忙しいでしょうから、その看護師さんに保護者として確認しよう。”と考えた。
子供に、「先生は忙しいでしょうから、せめてその看護師さんに挨拶して帰りましょうか。どの看護師さんなの?」と手当てした看護師を捜していた。
子供は、「今、その看護師さんはここにいないよ。先程二階へ上がって行ったよ。」と捜してもここにいないと伝えた。
看護師長が、受付の看護師に確認すると、「彼女は看護師の資格は持っていません。今は二階で入院患者のケアーや掃除、空き病室の管理など行っています。先程は手が足りなくて手伝って貰っただけです。」と説明した。
別の看護師が、「しかし、彼女は看護学校に通ってないみたいだから、看護師の資格を取得する気もないようだし、どういうつもりなのかしら?」とその看護師の考えが解りませんでした。
受付の看護師は、「さあ?どうなのかしら、彼女は院長先生が連れて来たアルバイトで、たまにしか来ないので良く解らないわ。でも仕事は確りやっているわね。彼女が管理した後の病室は綺麗で、輸液などの設定は抜群ね。院長先生の指示設定より外れている事もありますが、患者の病状は安定していて、私が院長先生の指示に戻すと、患者の状態が悪くなった事もあったわ。」と返答した。
別の看護師が、「それは私も認めるわ。彼女が対応した直後は、患者の容体は安定して退院できそうにまで、快復しているわね。以前危篤の患者さんの対応を、院長先生が彼女にさせたので、大丈夫かな?と思いながら、翌日様子を見ると歩いていたのには驚いたわ。」とその看護師の噂話をしていた。
看護師長は、受付の看護師に許可を頂いて、“どんな看護師なのかしら?”と寺前さんと子供と一緒に二階に行った。
看護師長は、血が止まらないと聞いていた為に、“先生がどんな手当てしたのか、看護師の資格を持ってないスタッフに聞いても解るかしら?”と思いながら、もう一度子供に確認した。
子供は、「先生には見て貰ってないよ。その看護師さんが手当てしてくれたんだよ。」と手当てしてくれた看護師を捜しながら返答した。
寺前さんが、「血が止まらなかったのよね。太い血管が切れていれば、包帯を巻いたくらいでは止まらないわよ。」と確認した。
子供は、「その看護師さんは、血が止まらないのは動脈が傷ついていて、そこから出血しているからだと説明して手当てしてくれて、包帯巻いてくれたよ。」と返答した。
看護師長は寺前さんと共に驚き、「動脈が傷ついて、外科医でも看護師でもない人に手当てして貰ったの?ちょっとみせて!」とこの医院の対応に不信感を抱いた。
子供がその看護師を見付けて、「あっ!いた!先程の看護師さんだ。母ちゃん、こっち!看護師さん、母ちゃんが挨拶したいと言っています。」と伝えた。
看護師長と寺前さんが空き病室を覗くと、「あっ!東城先生!」と陽子の看護師姿に驚いた。
陽子は、「えっ!嘘!いや~ん!恥ずかしい、そんなに見ないで。」と顔を赤くした。
看護師長は、「ナースキャップ姿、よく、お似合いですよ。」と笑った。
寺前さんは、「ですから東城先生は看護師の仕事に詳しく、その大変さも解っているので看護師に優しいのですね。東城先生のナースキャップ姿始めてみました。」と陽子の看護師姿に感動していた。
看護師長が、「私も始めて見ました。先程、子供から聞いて動脈が傷ついているのに先生に手当てして貰わなかったと聞いて驚きましたが、東城先生に手当てして頂けたと解り安心しました。」と安心していた。
寺前さんが、「所で、何故東城先生は、ここで看護師をしているのですか?」と不思議そうに確認した。
陽子は、「今日は代休なので、家の手伝いすると先日言わなかったかしら。ここの院長先生は私の母です。」と説明した。
寺前さんは驚いて、「えっ!?あの先生が神の手を持つと噂されている名医なのですか?そうだ!ひょっとして、私、今日ここでボランティアの看護師をすれば、東城先生の同僚って事になるの?」と喜びながら院長先生に話をつけに行った。
陽子は、「ちょっと待ってよ。」と止めようとした。
看護師長が、「東城先生、彼女は清水看護師や山本看護師や栗垣看護師の指導看護師で、ベテラン看護師ですので何かと助かりますよ。」と陽子を止めた。
話を着けて来た寺前さんは、あと少しですが、陽子と一緒に仕事ができて大変嬉そうでした。
それ以来、陽子が芹沢外科医院を手伝う時には、寺前さんも必ず無給ボランティアとして一緒に仕事するようになった。
菊枝はスタッフに、「看護師の資格を持ってない陽子に、大日本医療大学で外科のベテラン看護師の寺前看護師を付けます。」と説明した為に、いつも二人が一緒でも不思議ではありませんでした。
勿論陽子は外科医として手伝う事もありましたが、その時は医師専用入り口から入り、オペのみの手伝いでしたので、寺前さん以外は誰も陽子が芹沢外科医院で、看護師と外科医の二役をしているとは気付きませんでした。
その時は寺前さんも手術に立会い、芹沢外科医院では、いつも二人は一緒にいた。
寺前さんは、陽子と一緒に仕事をする為に、勤務シフトを良く同僚に依頼して代わっていましたが、陽子と休みを合わせている事には看護師長以外誰も気付いていませんでした。
主任看護師が、寺前さんが勤務シフトを同僚と良く変わっている事に気付いて確認した。
寺前さんは、私用だと胡麻化したした。
主任看護師が看護師長に相談すると、「その件でしたら聞いています。彼女は看護師の経験をつむ為に、他の病院で看護師をしていて、その病院の都合だそうです。でも誤解しないで下さいね。お金に困っている訳ではないのよ。食費も交通費も出ない無給ボランティアですから、赤字ですよ。先日私の子供が怪我をした時に行った外科医院で申し込んだ為に、たまたま私が知っていただけで、寺前さんは主任を無視した訳では御座いませんので、その点も誤解のないようにね。」と返答した。
主任看護師も、師長がご存知でしたら問題ないと判断してそれ以上追求しませんでした。
次回投稿予定日は、5月3日です。