第九十七章 看護師、陽子を庇う
しばらくすると佳子が戻って来て修に、「今夜は色々とあったので結局帰れませんでした。警部は子供の寝顔を見に帰りましたが、私はこのまま朝までここにいます。」と修だけではなく、佳子まで病室に泊まり込んだ。
修と交代で仮眠を取り、朝、修が顔を洗いに行った。その時に東城先生を起こしたら悪いので、佳子は膝枕を修と交代した。
しばらくして、陽子が起きる時に寝惚けていた為に、膝枕をしているのは、てっきり修だと思い込んでしまい、腕を伸ばして首に手を掛けて、「修ちゃん。」と顔を引き寄せて接吻しようとした時に修が病室に戻って来た。
「陽子、お前、何やってるんだ?」と不思議そうでした。
陽子は、「えっ!?」と目を開けると佳子が目の前で、「おはようございます。東城先生。」と挨拶した。
陽子は慌てて起き上がり、寝ている時に肌蹴た胸を隠して、「御免なさいお姉さま、おはようございます。」と恥ずかしそうに挨拶を返した。
佳子は、「昨夜は修が無理を言ったみたいで御免なさい。これからも修の事を宜しくお願いします。」と修の事を頼んだ。
陽子は、「おかげさまで、昨夜は修ちゃんに逮捕されて、病室に留置されました。」等と雑談していると、看護師が病室に飛び込んで来た。
「東城先生!急患です。夜勤の先生は入院患者が急変してその処置に追われています。日勤の先生はまだ出勤していません。外科医は東城先生しかいません。早朝工事現場で荷崩れがあり、直径5cmのパイプがジョギングしていた青年の胸に突き刺さり、救急車で今、ここに向かっています。」と報告した。
陽子は、「解りました。直ぐに行きます。」と看護師に伝えて修に、「およびが掛かったので行くけれども、警備の方はお願いね、修ちゃん。それに膝枕、お姉さまと代わったのならそう言ってよ!お陰で恥かいたじゃないの!このタコ!」と白衣を着ながら怒っていた。
修は珍しく反論せずに、指で輪を作り、「こんな太さのパイプが胸に突き刺さったら死ぬじゃないか。」と驚いていた。
陽子は、「何を言っているのよ!私が死なせないわよ!絶対に助けてやる!」と急いで病室を出て走って行った。
佳子は修に、「修が戻ってくるのがもう少し遅かったら、東城先生に接吻される所でしたわ。でも東城先生も、大変なお仕事をされているのですね。私、今の看護師の話を聞いて、背筋が凍ったわ。でも東城先生は第一外科だという事は、第二外科などもあるのよね?何故外科医が東城先生だけなのかしら?」と不思議そうでした。
修は、「昨夜、病室で陽子と雑談している時に、外科には内臓外科とか色々な外科がありますが、救命救急などはなかったようなので、救急車で怪我人が運ばれて来れば、どの外科医が対応するのか決まっているのかを確認しました。外科の救急患者は第一外科の担当になるらしいです。第一外科は一般外科と救命救急の事だそうです。ですから先程の看護師の話は、第一外科には、この時間、手の空いている外科医は陽子しかいなかったという事です。」と説明した。
佳子は、「そういう事か。解りました。」と納得して朝食を買いに行った。
病室で修と朝食を摂り、交替の刑事が来るのを待っている間に修は、「姉ちゃん、昨日狙撃された時に何故、窓から応戦しなかったの?」と佳子が応戦しなかった理由を確認した。
佳子は、「病院内で銃撃戦はできないでしょう!」と返答して、“本当は血が天井にまで噴出す様子を見て気持ち悪くなったからだけどね。”と思っていた。
しばらく二人で雑談していると交代の刑事が来て、二人とも捜査に戻り、定時後帰宅途中に娼婦の様子確認の為、病院に寄った。
陽子から話を聞き、まだ意識が戻ってない事を知った。陽子が今から帰る事を修に伝えると、修が陽子に、また無理を頼もうとしていた。
看護師の山本が修に、「お願いですから、東城先生に無理させないで!」と頼んだ。
山本が熱心に東城先生を庇うので佳子は何故だろうと確認した。
山本は、「東城先生は、あれだけの名医ですが、私達看護師にもとても優しい良い先生です。」と返答した。
看護師の清水も、「そうね、私、内科にいたころ、西垣教授に治療方針について聞いた事があり、その時西垣教授に、“黙れ!看護師風情が生意気いうな!”と怒られました。そういう教授や助教授が多いなかで、東城先生は質問しても、優しく丁寧に教えて頂けます。」と補足説明した。
看護師の栗垣も、「そうね、私が質問した時には突然、“今晩おひま?”と誘われて、“えっ!?”と思うと、“説明に時間が掛かるので、今晩ゆっくりとビールでも飲みながら教えてあげるわね。でも今は時間がないので、御免ね。私の言う通りにしてね。”って指示されました。世界一の名医が看護師に、“御免ね“と言ったので驚きました。間違っても、何処かの教授みたいに、”看護師風情が”なんて言わない優しい先生よね。でもその夜、説明を聞いた所までは覚えているけれども、その後の記憶がないのよ。両親の説明では、酔いつぶれて東城先生に送って貰ったみたい。」と説明した。
清水が、「ちょっと待ってよ、あなたの家って確か石段登るのよね?まさか東城先生に担がせたの?」と念の為に確認した。
栗垣は、「そうみたいだけれども・・・」と返答して、その後、言いにくそうにしていた。
清水に、「そうみたいだけれども、何?まだ何かやったの?」と問い詰められた。
栗垣は、「実は私、心配になり、次の日早めに家を出て、出勤途中に、その飲み屋に行き、話を聞くと、私、東城先生を呼び捨てにして、“おい!こら!東城!”って説教したらしいのよ。東城先生と顔を合わし辛く避けていると、東城先生が声を掛けて来て、てっきり怒られるかと思ったら、“また一緒に飲みに行こうね。“って笑顔で誘われて、困っています。」とその理由を説明した。
清水が、「駄目じゃないの!東城先生になんて事するの!今度東城先生に誘われたら私に声を掛けて!私アルコールは強いから。」と陽子を守ろうとしていた。
看護師長が、「東城先生に何かを指示したり教えたりするスタッフがいなくて淋しいようです。あなたに説教されて看護師の本音が理解できたと喜んでいましたよ。だから、また誘ったのよ。」と陽子から聞いた事を説明した。
山本が、「まさか、看護師の飲み会で、ここだけの話だと前置きして勤務の事などの不満をぶちまけた事を喋ってないわよね。」と心配していた。
看護師長が、「ええ、東城先生から色々と聞きましたよ。だから東城先生は看護師のフォローをしてくれるのよ。娼婦の荷物チェックも、全て東城先生がしてくれたのよ。あなたがたこそ、東城先生に負担かけないようにしてね。」と指摘された。
清水が、「外科医の業務だけで多忙なのに、看護師のフォローまでして倒れないかしら。」と心配していた。
看護師長は、「私も心配して東城先生に無理しないようにお願いすると、倒れたらゆっくりと休めるからと仰っていました。」と看護師達に伝えた。
栗垣は、「しかし、あの日、東城先生って花柄の服を着ていたっけ?担がれている時に、花柄模様を見たような気がする。」と考えていた。
主任看護師が、「そりゃ、東城先生も女性ですから、花柄の服ぐらい着るのじゃないの?」と助言した。
栗垣を担いだのは陽子ではなく、丸東組の組員だったとは誰も知らず、その時に栗垣が見た花柄模様は、陽子の花柄の服ではなく、その組員の刺青だったとは、夢にも思っていませんでした。
主任看護師が、看護日誌と何かの表を持って来て、「しかし清水さん、アルコールに強いのは良いけれども、勤務も確りやって下さいね。あなたが担当している患者のお小水の表、あなたの筆跡でない所があるけれども、これ誰の筆跡か知っていますか?」と質問した。
清水は、「すみません。誰かがカバーしてくれたのだと思い、誰の筆跡かまでは確認していませんでした。」と何も私のミスを今追求しなくても、そんな話はしてないわよと何故筆跡の事を今、追求されたのか解りませんでした。
主任看護師に看護日誌を見ながら、「ここに東城先生からの指示がありますよね。サインがあるので東城先生の字よね。この字と、その表の字を比べてみて。でかい事を言っていましたが、清水さんこそ、東城先生にオムツ代えさせたの?栗垣さんがオムツ交換の時間がないと飲み屋で不満そうだったのでフォローしてくれたのよ。」と指摘された。
清水は、看護日誌の陽子の字と比べながら絶句していた。
新人看護師が、「あの方が東城先生だったのですか。その時間その患者のオムツを代えて、計りでそのオムツと、新しいオムツの重さを計っていたので、ナースキャップを被っていませんでしたので不信に感じましたが、先輩看護師だと思い、何故、新しいオムツの重さを計ったのかを聞くと、引き算すれば、お小水の重さが解ると教えて頂けました。」と世界的名医は、経験のある医師だと思っていて、若い女医だったと今始めて知ったようでした。
山本が、「東城先生かどうかは、ネームプレートを確認すれば解るでしょう。東城先生に失礼のないように気を付けてね。しかし本当に東城先生は、看護師の仕事も解っていて、何でもできる先生ですよね。私、以前、内科の西垣教授に、“患者のお小水は、導尿管をしていれば解るが、オムツの場合はどうするのだ!オムツを絞るのか?データーは正確でないと困るぞ。”と指摘されて、思わず噴出した事がありました。東城先生と、えらい違いです。でもその時に噴出したので、西垣教授に睨まれて内科に居辛らくなり、外科へ転属希望して外科に来ました。」等と雑談している間に、陽子は帰ってしまった。
修は、「それじゃ、明日また来ます。」と諦めて帰ろうとしていた。
主任看護師が、「明日、東城先生はお休みで、何か家の手伝いをすると仰っておられました。」と明日きても陽子は不在だと修に伝えた。
修は、「そんなに長い時間、陽子がいなくても大丈夫?」と心配して確認した。
看護師達は口を揃えて、「私達がいるので大丈夫です。東城先生に無理させないで!」と詰め寄られた。
修は、「何故、平日に休みなの?」と陽子に何かあったのかと心配していた。
山本が、「この病院は土日も平日と同様に外来の診察をしています。土日は、医師が交代で診察していて、先日の日曜日は、東城先生が外科外来の診察をされましたので、明日はその代休です。」と返答した。
佳子が、「日曜日は休診だと思っていました。そう考えている人もいると思いますので患者はきますか?」と不思議そうでした。
看護師長が、「確かに患者は少ないようですね。医師は多忙なので、交代でゆっくりさせようと病院側が考えた事です。医師によっては、患者がこなければ診察台で寝ている医師もいましたよ。」と説明した。
佳子は、「なるほど、理解しました。」と納得していた。
次回投稿予定日は、4月28日です。