第百二十四章 陽子の秘密に、修悩む
修は、「この話は平行線で簡単に結論がでそうにないな。今後時間をかけてゆっくり話し合おう。ところで、栗垣看護師に移植した内臓はどうした!どうやって入手した!今日説明すると言ったよな!」と話題を変えた。
陽子は、「先日病院で狙撃されましたが、その犯人は見付からないんじゃないの?」と確認した。
修は、「移植内臓と狙撃とどういう関係があるのだ?話を摩り替えるなよ。」と何故ここで狙撃の話が出てくるのか疑問に感じていた。
陽子は、「何も摩り替えてないわよ。狙撃犯は丸東組の組員が拉致して殺そうとしていた為に、殺される前に私が彼の内臓を摘出して栗垣さんに移植しました。彼は以前、病院で検査した事があり、血液型などが栗垣さんと一致する事が解っていました。私が止めても、こいつららは必ず殺すから、その前に内臓だけ頂戴したのよ。でも私が内臓を摘出した時には彼は意識もあり生きていました。」と説明した。
修は不信に感じて、「摘出手術では麻酔をするだろうが。何故意識があるのだ?」と不思議そうに聞いた。
陽子は、「麻酔は麻薬なのよ。だから管理は厳しく、たとえ外科医でも自由に使えないのよ。動けないように両腕両足の神経を切断して組員に押さえ付けさせて、麻酔なしで摘出しました。」と説明した。
修は、「丸で拷問じゃないか。そんな残酷な事が良くできたな。矢張り陽子は丸東組の次期組長だな。」と陽子がそんな残酷な事をするとは考えられませんでした。
陽子は、「先ほど一人でも多くの人命を救いたいと説明しましたが、こうしないと二人とも確実に亡くなるわ。こうすれば、少なくとも栗垣さんは助かるわ。人命を救う為だったら何でもすると説明したでしょう?その後で、こいつららが殺したようですが、どうする?私を殺人罪で逮捕する?私を逮捕したければ、その証拠を見付けなさい。今は証拠がないので裁判で私が、“知らない”と証言すれば無罪になるわよ。腐敗する前に死体を発見すれば、見る人が見れば外科医が処置したと解りますが、あなた方にその死体を発見できるかしら?」と佳子には無理だと挑発した。
看護師長が、「刑事さん、東城先生を連行しないで下さい!ご存知のように、東城先生は他の専門医が手術不可能で助からないと診断した患者を手術で救っています。東城先生が一日病院にいなければ、数人の患者は確実に亡くなります。」と頼んだ。
寺前さんも、「刑事さんはエスベック病患者の凄さを知らないのよ。先日、私の自宅にまで押し掛けて来ました。東城先生を連行すれば、警察にも多数のエスベック病患者が押し掛けて社会問題になるわよ。その中には政治家やマスコミ関係者も大勢いるのよ。マスコミは東城先生が釈放されるまで、連日テレビや新聞で、“今日も東城先生が病院に不在の為、エスベック病患者の手術ができずに手遅れになりました。この患者は今後十年間苦しみながら死んでいくしかないのです。警察は何人の患者を殺すつもりなのでしょうか?”などと報道して大きな社会問題になり、報道で知った亡くなった患者の遺族も黙っていないわよ。勿論政治家も黙ってないわよ。警察に圧力を掛けて東城先生を釈放させるのではないですか。」と陽子を連行すればどうなるか予想した。
陽子は、「死体がないのでどうにもならないわよね。あなた方のご両親の事は先日修ちゃんからのプロポーズの時に聞きました。私が捜します。その方が早いと思うのでね。修ちゃんも私のこの顔を知らずにプロポーズしたと思うので、先日のプロポーズは聞かなかった事にします。」と修達の母親の消息を知っている陽子は捜す事を約束して、タイミングを見計らって引き合わせようとしていた。
修は、「今は頭が混乱しているので少し時間を下さい。色々と考えさせてほしい。」と陽子との結婚はまだ諦めてないようでした。
佳子は、「修!駄目よ!刑事がやくざの幹部と結婚なんかできないわよ。それに今迄もやくざの幹部だって事を隠して修と付き合っていたのでしょう!修は騙されていたのよ。もう騙されないで!」と修を説得した。
陽子は、「私が修ちゃんの事を好きなのは本当よ。プロポーズ本当に嬉しかった。私のこの顔を知った上で結婚したいのでしたら、再度プロポーズして下さい。その時は私も本気で考えます。どうすれば良いか、二人で一緒に考えましょう。」と陽子は自分の運命を呪いながら、修からの再プロポーズを期待していた。
佳子は、「考えても無駄よ!駄目なものは駄目よ!今迄、結婚してないのは、やくざの幹部だったからでしょう!」と猛反対した。
陽子は、「確かにお姉さまの仰る通りです。私が結婚してないのは、私のこの顔を知ると、皆、私の元を去って行きました。中には組事務所で父を紹介した時に、その場で失禁した男性もいました。」と告げた。
佳子は、「何よ!急にお姉さまだなんて呼んだりして!あなたに、お姉さまと呼ばれる覚えはないわよ!それは修と結婚したいという陽子さんの意思表示なの?修!絶対駄目よ!」と怒っていた。
陽子は、「それは修ちゃんが考える事よ。修ちゃん、ゆっくりと考えて後悔しないように返事してね。良い返事を待っているわね。」と期待していた。
陽子は驚いている寺前さんに、「寺前さん、驚かせて御免ね。先日、“家族がやくざに絡まれて困っている。”と悩んでいましたが、相談に乗るわよ。」と寺前さんの相談に乗る事を約束して組員と去った。
寺前さんは看護師長に、「師長、先程、手当てを私と替わるように指示されましたが、東城先生がやくざの幹部だと知っていたのですか?」と確認した。
看護師長は、「黙っていて御免なさいね。寺前さんのいうように、東城先生がやくざの幹部である事は知っていました。先日やくざに絡まれて殺されそうになった時に、たまたま東城先生が丸東組の組員を連れて通り掛かり、助けて頂きました。その時に息子が怪我をして出血が止まらずに困っていると、応急手当してくれましたが、それが素人とは思えないほど専門的でしたので、“あなた外科医のライセンスを持っているの?”と聞くと、“師長には敵わないわね。”とサングラスを外すと、東城先生でしたので驚いていると、“丸東組は、やくざの中でも特に恐いやくざだという事になっているので皆には黙っていてね。恐がるから。”と笑顔で仰って去って行きました。寺前さんもやくざの事で困っているのでしたら、東城先生は丸東組の幹部で次期組長ですので相談すればなんとかしてくれますよ。東城先生が人身売買を始めた理由を聞いたでしょう?優しい先生ですので。」と説明した。
佳子が、「優しい先生が、麻酔なしで臓器摘出するとは思えないわ。どこが優しいのよ。」と否定した。
皆、落ち着いて来ると佳子が、「あっ!看護師長!お子さんと待ち合わせされていたのではないですか?早く行かないと待っていますよ。」とこの騒ぎで忘れたのかと心配していた。
看護師長は、「刑事さん、心配して頂き有難う御座います。私が待ち合わせしていたのは子供とではなく、ここで東城先生と待ち合わせしていました。やくざの幹部と待ち合わせしていたという方が正確かもしれませんね。あなた程の刑事が、タイミングよく東城先生がやくざの子分を連れてバッタリ会ったのは話ができ過ぎているとは思いませんでしたか?」と聞いた。
佳子は、「そうでしたか、東城先生がタイミングよく現れたのはそういう事でしたか。修!私達二人掛りでも全く歯が立たなかったのよ。それはやくざの世界に生きて来たからなのかもしれませんが、何かそれだけではないような気がします。息切れもせず汗もかいていませんでした。それに、私が東城先生を突き飛ばそうとして、全速力で力一杯にぶつかっても、ビクともせず、丸で大木にぶつかったような強いショックがありました。普通なら、数歩は動くと思いますが、全然動かなかったのよ。東城先生には、まだ私達の知らない何か恐ろしい秘密があるのかもしれません。」と忠告した。
看護師長が、「先日、東城先生が西垣教授に殴られて、栗垣さんと一緒に倒れた時の事ですが、西垣教授が力一杯殴って、東城先生が栗垣さんと倒れても、人間の肋骨は内臓を守る為の骨なので、簡単に内臓に突き刺さるような折れ方はしないわよ。あとで東城先生が栗垣さんを緊急手術している時の映像を拝見させて頂きましたが、何故あのような折れ方をしたのか解りませんでした。何か武器を使わないと人間の力では不可能です。そう考えると、刑事さんが仰るように東城先生にはまだ何か秘密があるのかもしれませんね。」と助言した。
それを聞いて佳子は、「師長!それは本当ですか?修!矢張り東城先生には何かありそうなので結婚は辞めなさい。」と忠告した。
修は、「姉ちゃん、恐ろしい秘密だなんて、師長まで陽子が人間じゃないみたいな言い方をして、二人とも陽子が怪物だとでもいうのか。陽子のどこが怪物なのだ!」と切れた。
佳子は、「その可能性があると言っているのよ。結婚して子供が生まれると、簡単に離婚できないわよ。その時に解っても手遅れよ。それに陽子さんは、丸東組の次期組長でもあるのよ。結婚は辞めなさい。もし陽子さんが組長になれば、修の子供は丸東組組長の子供になるのよ。」と忠告した。
修は、「陽子が組長になるのは仮の話で、現実には陽子はエスベク病の手術もできる世界一の名医なので名医の子供になるよ。これは仮の話ではなく現実の話です。」と反論した。
佳子は、「修、これだけ言ってもまだ陽子さんと結婚するつもりなの?」と説得に耳を傾けない修が父の無念さを忘れたようで腹立たしく感じていた。
修は、「今は迷っていますが、姉ちゃんは頭ごなしに反対するから相談もできないよ。少し考えさせてほしい。」と悩んでいた。
この話も簡単に結論が出そうにない為に、取り敢えず今日の所は帰ろうという事になり帰った。
その晩、修は色々と考えていたが、判断に迷い、誰か相談できる人はいないかと考えていた。
陽子が助けた同級生のエスベック病患者が陽子のもう一つの顔を知っていると言っていた事を思い出して、陽子が会っても良いと言ったのでその同級生に相談する事にした。
第四部はこれで終了です。次回から第五部の投稿を開始します。
次回投稿予定日は、8月22日です。




