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第百十六章 知子、手術を決意する

陽子は皆と一緒にレストランで食事しながら昔話をしていると、レストランの窓から見える信号機のない交差点で乗用車同士が出会い頭に衝突した。

怪我人はいなかった為に、陽子も窓から見ているだけでした。

同級生の由加里がその事故を見て、「知ちゃん、今の事故を見て思いついたけれども、あなた、大学は名古屋の大学だったわよね?名古屋でなくてもどこでも良いけれども、学生時代の事を考えてみて。私達の生まれ育った田舎と違って、車や人が多いでしょう?交通事故に巻き込まれて死ぬ確率は何%?やくざに絡まれて殺される確率は何%?通り魔に殺される確率は何%?その他にも色々とあるでしょう。今回の手術に比べると、確率は遥かに低いかも知れませんが、0%ではないでしょう?警察の発表では死亡事故は多いらしいから。それでも私達は毎日出掛けているのよ。知ちゃん、今日はトラックに跳ねられるかもしれないので、と思い外出を避けようとした事がありましたか?ないでしょう。私達は、そんな社会情勢のなかで生きているのよ。親友の陽子を信じて!全てを世界一の名医である陽子に任せて。」と手術を受けるように助言した。

知子は、「確かに、そうだけれども、確率が低過ぎて、今迄考えてもみなかったわ。でも現実に、交通事故で亡くなっている人はいるのよね。」と真剣に考えていた。

由加里が、「但し、手術に失敗しても決して陽子を恨まないと約束してほしいの。不可抗力だと思って諦めてほしいの。」と補足説明した。

他の同級生が、「それは何故?もし不幸にも障害が残れば、一生障害を背負って生きていくのは知ちゃんでしょう?障害で不便を感じる度に陽子の事を思い出すのではないですか?」と確認した。

由加里は、「私は、東北の故郷で看護師をしているので良く解りますが、医師が事前に手術のリスクについて説明したにも関わらず告訴されると、リスクのある手術は実施しなくなるのよ。助かるかもしれない患者を手術不可能だと説明してそのまま死なせてしまうのよ。」と返答した。

同級生が、「あれっ?内科の看護師が手術の事にいやに詳しいのね。」と不思議そうに聞いた。

由加里は、「本院から、内科医の西垣先生が赴任して来て、その先生が嫌な先生だったから外科に移動願いを出して、今は外科の看護師なのよ。」と説明した。

陽子は、“まさか、西垣教授?私を殴って警察に現行犯逮捕されたので、病院は解雇になったと思っていたけれども、お金の力で何とかしたのかしら?本院から赴任してきたのは本院で何か問題を起こしたのかしら?”と昔の記憶が蘇えった。

同級生は、「そうか。だから手術に詳しいのか。それじゃ、事前説明しても告訴されるという事は、事前説明がなければ、告訴される可能性が高くなるの?」と質問した。

由加里は、「そうね。愛する家族や自分に関する事なので、“そんな事は聞いてない!”と告訴される可能性があります。リスクを事前に説明した場合より、確率は高いわね。特に、お産は何が起こるか解らないので、事前説明できないのよ。お産自体、リスクがあるのよ。だから事前説明がなかったと告訴される事があるのよ。それが、産院が少なくなっている原因の一つなのよ。そうよね。世界一の名医さん。」と陽子に振った。

陽子は、「そうね。余程酷い医療ミスは別にして、不可抗力に近いものは、患者に諦めて頂ければ、もう少し産院も増えるかもしれませんね。」と産科の現状を説明した。

由加里は、「しかし、“不可抗力に近いものは、・・・”というのは、医学的知識がある陽子だから言えるのであって、普通は、それが医療ミスなのか不可抗力に近いものなのか判断できないのよ。だから医師の説明を信じるしかないのですが、事前説明がなかった為に、患者からは言訳にしか聞こえない事もあるのよ。だから不可抗力に近いものも、告訴される事があるので、産院が少なくなるのよ。」と産院が少ない理由を説明した。

陽子は由加里の様子が気になり、「由加里、どうしたの?そんなに気にして。何かあったの?」と心配していた。

由加里は、「私の従姉妹が先日流産したんだけれども、道を歩いていると、急に飛び出して来た野良猫に驚いて転倒したのよ。一番近くの産婦人科に通っていたんだけれども、それでも車で一時間程かかるのよ。救急車を呼んだけれども、医師は、“もう少し早ければ流産しなかった。”と説明していたわ。」と返答した。

同級生の一人が、「それはお気の毒ですね。そんな話を聞くと心配になるわね。今後、陽子に相談しても良い?世界一の名医に相談に乗って貰えれば、私も心強いから。」と陽子に頼んだ。

陽子は、「良いわよ。皆も、何かあれば相談してね。時間があればいつでも相談に乗るわよ。」と同級生の力になろうとしていた。

別の同級生が、「しかし、手術や入院治療中の患者で、医療ミスというのは聞いた事あるけれども、産婦人科で医療ミスってあまり聞いた事ないけれども酷い医療ミスはあるの?」と確認した。

陽子は、「示談になる事が多い為に、あまり表面にでないのよ。なかには示談にならない酷いものもあるわよ。以前、ある病院の産婦人科で、出産希望の患者さんを、同じ苗字の中絶希望の患者さんと間違えて、中絶してしまった事があったのよ。処置の途中で患者の様子が可笑しいので確認して、間違えた事に気付いたらしいのですが、その時は妊娠を続ける事は不可能な状態になっていて、結局中絶したらしいのよ。どこの病院とは言いませんけれどもね。小さな個人病院で、医師が患者の事を知っている場合は別にして、たいていの病院では、診察や処置の前に、必ずフルネームで確認するでしょう。その病院の産婦人科医は、そこを手抜きして苗字しか確認しなかった為に、とんでもない結果になったのよ。」と以前聞いた事を説明した。

由加里は、「嘘!そんな事があったの?それは医療ミスってもんじゃないわよ。無茶苦茶じゃないの、医師失格よ!」と怒っていた。

別の同級生が、「都会の大きな病院では、診察の前に必ずフルネールを言わされるのよね。銀行で大金を引き出す訳でもないのに、いつも面倒だな、と思っていたけれども、大切な事だったのね。でも陽子、手術の時は麻酔するから、確認できないのではないの?知ちゃんの手術は大丈夫?別の外科医の所へ運ばれて、別の手術されない?」と心配そうに聞いた。

陽子は、「大丈夫よ。意識のある時に確認して、名札をつけるから、間違わないわよ。知ちゃんを心配させるような事を言わないでよ。そんな事は今、どうでも良いでしょう。私は、自分の手術技術の向上で、成功率を百%にして来ました。それでも今回は、先程説明したような危険は伴います。私も普通でしたら手術不可能だと判断しているケースよ。でも私は、知ちゃんには生きていて貰いたいのよ。だから失敗の可能性等を説明して知ちゃんに判断して貰いたいの。」と説明していると、菊枝がお見舞いに来た。

「あらあら皆さん、お揃いですね。矢張りここだったのね。病室にいなかった為に看護師に確認すると、昼食を取っておいてと依頼して陽子と出掛けたと聞いたのでね。今の話ですけれども、陽子、少し感情的になっていませんか?私が大学病院に出張して執刀した方が安全のような気がします。主治医は陽子なので、陽子が執刀して私が助手について、何かあれば執刀を変わりましょうか?」と提案した。

一緒に食事に来ていた知子の母親から、「是非お願いします。知子、世界一の名医が二人も手術に立合って頂ければ、こんなに心強い事はないわよね。私も知子には生きていて貰いたいの。これ以上の条件はないわよ。」と手術を勧められた。

知子は、「私も先程、交通事故の確率の話を聞いて、陽子に任せようかと心を決めていました。菊枝先生も手術に立合って頂けるのでしたら手術お願いします。」と決断して手術が決定した。

その夜、陽子が、「手術は二週間後に決まりました。どうしますか?予定通り明日退院しますか?それともこのまま入院しますか?」と知子と知子の両親に確認した。

知子は、「一旦退院し、他の同級生や恩師に挨拶して来ます。もう二度と会えないかもしれないので・・・」と悲しそうな表情でした。

陽子が、「知ちゃん、何故死ぬと決め付けるの。私が必ず助けるから。先日も説明したように、病は気からなのよ。知ちゃんが落ち込めば落ち込む程、危険なのよ。普段でも、楽しい事があれば体調も良いでしょう。落ち込んでいれば、病気に成り易いでしょう。同じ事なのよ。昼間のトラックに跳ねられる例でも、道を歩く時には事故に遭わないように気を付けるでしょう?それと同じで、少しでも知ちゃんの手術の成功率を高くしたいのよ。それが生死を分けるかもしれない状況なのよ。」と説明した。

知子は、「解ったわ。田舎へ一旦帰って、今迄楽しかった事を色々と思い出してくるわ。」と知子は一旦田舎に帰り、数日間両親と一緒に過ごし、仲の良い友達や恩師とも会う事にした。

その後、由加里に、「由加里、もし、私が死んだら、今回皆を訪ねたのは最後のお別れに来たのだと説明してね。」と悲しそうでした。

由加里は、「そんな事を言っていると、また陽子に怒られるわよ。確りして!必ず陽子は知ちゃんを助けてくれるから安心して。今迄陽子は私達に嘘を吐いた事はなかったでしょう。その陽子が必ず助けると言っているのよ。私は知ちゃんが元気になると信じています。」と知子を励ました。

その後、知子が陽子の手術を受ける為に、再度大学病院に入院した。


次回投稿予定日は、7月9日です。

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