第百十五章 知子、検査結果に悩む
検査入院していた知子の検査結果が全て出ました。検査結果の説明後、一旦退院する為に、陽子が説明すると連絡した日に、東北の田舎から知子の両親も出て来た。
陽子の部屋に知子と両親が呼ばれて行くと、陽子は検査結果を見ながら難しい顔をしていた。
知子は心配になり、「陽子、どうなの?私はもう長くないの?」と心配そうに聞いた。
陽子は、「知ちゃん、ちょっと診察させてね。」と診察しながら透視力で確認すると、思ったより病状が悪かった為にショックを受けて、通常だったら陽子も手術不可能だと判断する状態でした。今迄は手術成功率が百%の場合しか手術しませんでしたが、どうしても親友の知子を助けたかった為に、悩んだあげく、最悪手術中に死亡する可能性は否定できない状況である事を説明した上で、知子に判断させる事にした。
陽子は知子と両親に、「親友の知ちゃんに嘘は吐きたくないのではっきりと言うね。相当困難な手術です。手術は成功しても、その後、状態が悪化して死亡する事も考えられ、最悪の場合には、手術中に死亡する可能性も否定できません。もし助かっても、手術中に心停止時間が長引けば、脳にダメージが残り障害が残る可能性もあります。手術しなければ、あと十年は生きられます。確率で言うと死亡する可能性が三十%、何らかの障害が残る可能性が二十%、元通り元気になる可能性が五十%だと考えて下さい。」と説明した。
知子は驚いて、「嘘でしょう?陽子!助けて!死にたくない!」と陽子に縋り、泣き出した。
陽子は知子の肩に手を回して、「今の説明は外科医としての説明です。知ちゃんの親友としての意見は手術を受けてほしい。どうしても知ちゃんに元気になって貰いたい。私を信じて!知ちゃんが元気になるように最善を尽くします。手術が成功すれば、四十歳どころか、八十歳でも九十歳でも、知ちゃんの体力が続く限り大丈夫よ。でも知ちゃんの人生を大きく変える大事な判断なので、ご両親とよく相談して返事して下さい。エスベック病の手術の成功率は、自覚症状が出てから一年後から少なくなり、十年後には死亡します。それまでに手術しなければ、今説明した確率は、悪くなると考えて下さい。私が手術を進めたのは、例えば呼吸器だと、段々と息苦しくなり、十年後には呼吸困難で死亡するのよ。心臓や他の内臓についても同様の事が言えるのよ。簡単に言うと、嬲殺しみたいなもので、見ていられないのよ。そんな思いを知ちゃんにさせたくないのよ。」と手術を勧めた理由を説明した。
知子と一緒に説明を聞いた父親は、「助かる可能性は半分あるのですよね?障害が残っても助かる可能性を入れると、半分以上助かる可能性があるのですよね?陽子さん、私は、たとえ障害が残っても知子に生きていて貰いたい。知子、自分の親友を信じなさい。」と助言した。
知子は、「お父さん、人事だと思っていい加減な事を言わないでよ!信じるか信じないかの問題ではなく、生きるか死ぬかの問題なのよ!私に生きていて貰いたいだなんて、私はお父さんのペットじゃないのよ!」と感情的になっていた。
陽子は、「知ちゃん、気持ちは解りますが、落ち着いて判断してね。感情的になると、判断を誤り、後悔しますよ。それに、お父様は、決して、いい加減な事を言っていませんよ。障害が残り嫁に行けなくても、知ちゃんを手元においておきたいと思っているのではないですか?知ちゃんの事を大事に思っているからでしょう?私の父も、私に結婚しないで、父の傍にいてほしいとよく言いますよ。」と知子の父親をフォローした。
知子は、「陽子の場合は、お父様が、やくざの組長で怪我が多い為に、外科医に近くにいて貰いたいだけでしょう。私とは違うわよ。」と感情的になっていた。
知子の母は気を紛らわそうとして病気以外の話題にして、「陽子さんのお父様はやくざの組長でなく、格闘家だったのではないの?」と確認した。
知子は、「そんな事はどうでも良いでしょう。」と感情的でした。
知子の母は、「知子が高校生の時に懇談会があり、出刃包丁を持った犯人に立ち向かった時は驚きましたが、もし包丁で刺されれば妻がなんとかしてくれるでしょうと言っていましたね。陽子さんを傍においておきたいのは、今度は妻ではなく、娘になんとかして貰いたいのでしょうかね。」と知子の様子を気にしながら昔話をした。
知子は、「人が生きるか死ぬかという話をしている時に、そんな昔話は辞めてよ!」と更に感情的になった。
知子の母は、“逆効果だったわ。今の知子には、何を言っても無駄みたい。落ち着くまで待つしかないのかしら。”と諦めた。
陽子は、「知ちゃん、自分の命に関わる事なので感情的になるのは解ります。それでもあえて私は、“落ち着いて!“と言うわ。第三者に相談する方法もあります。医師には守秘義務がある為に、知ちゃんの病気の事は、知ちゃんの許可がなければ他人には喋れませんが、信頼できる人物と相談しても良いですよ。後悔しないようによく考えて返事して下さいね。私は知ちゃんの後悔している姿は見たくありません。」と落着いて判断するように説得した。
翌日、両親が、「ホテルに置いている知子の携帯に着信があったので、その電話番号を控えて来ました。」とメモを知子に渡した。
知子が午後、病院の公衆電話から電話すると、高校時代の仲の良い同級生でしたので、知子は泣きながら今の状況を説明した。
その同級生は驚いて、「週末にでもお見舞いに行きます。でも陽子が世界一の名医として有名な東城助教授だったとは驚いたわ。私には難しい事は解らないので、専門家の陽子とよく相談するのよ。詳しい話はその時にゆっくりとしましょう。」と病院に知子の様子をみに行こうとしていた。
知子は、「いいえ、私は今後の生活の注意点など陽子の説明を聞いて、一旦明後日退院します。陽子は明日夕方しか時間が取れない為に、夕方説明を聞くので、退院は明後日の午前になります。」と説明した。
知子の親友は、「解ったわ。皆と相談してみる。」と陽子の話も聞きたかったので、退院までに行こうと考えていた。
翌日の午前中、看護師の寺前さんが、知子の脈拍や、体温、血圧などのバイタルチェックを行っていると、高校時代の仲の良い友達数名が田舎から出て来て、「昨日泣きながら、もう助からないみたいな事を電話で言っていたので、みんな驚いて夜行で来ました。陽子に連絡すると、昼休みなら少し時間が取れるというので、皆会社を休んで来ました。先程陽子に連絡すると、昼前には来られそうなので、知子も含めて食事しようと言っていたので、もうすぐ来ると思います。」と知子と陽子の話を聞こうとしていた。
寺前さんは、「知子さん、高校時代の同級生ですか?良いですね。でもその陽子さんは、仕事を休まなかったのですね。親友が死ぬと電話で泣いていたのに、その陽子さんは冷たいのですね。」と雑談していると陽子が、「冷たくて悪かったわね、寺前さん。寺前さんが私に代わって診察や執刀をしてくれるのでしたら考えても良いですけどね。」と病室に入って来た。
寺前さんは驚きながら、「えっ!?東城先生、同級生の陽子さんて、東城先生の事ですか?」と確認したと同時に同級生達が、「陽子、あなた世界一の名医なのでしょう!知ちゃんを助けてあげて!本当に知ちゃんは死ぬの?」と陽子に詰め寄った。
陽子は、「ちょっと待ってよ、知ちゃんが死ぬだなんて、一体誰から聞いたのよ。」と確認した。
その同級生は、「昨日、知ちゃんに電話したら、私はもう死ぬかもしれないと泣いていました。知ちゃん本人から聞いたのよ!」と更に陽子に詰め寄った。
陽子は、「知ちゃん、先日も説明したように、悪い事ばかり考えないで。もっと落ち着いて。」と助言した。
同級生達は、「陽子、それはどういう事?悪い方へ考えると死ぬという事なの?死ぬ可能性かあるという事なの?」と問い詰めた。
陽子は、「それは否定しませんけれども、知ちゃんには説明しています。後は知ちゃんの判断を待っています。」と説明した。
知子は、「ねえ、陽子、大切な事なので、私は皆の意見を聞きたいわ。私が説明するより、陽子が説明する方が正確だと思うので、皆に説明してあげて。その上で皆の意見を聞きたいの。」と陽子に依頼した。
陽子は、「解ったわ、知ちゃん。でも後で、“誰かがあの時、あんな事を言ったから”なんて後悔しないと約束してくれる?皆は参考意見を言うだけで、悪までも判断するのは知ちゃん自身なのよ。」と釘を刺して、皆に病気の説明をして、手術との関連について説明した。
同級生達は陽子の説明に驚いて、「陽子、知ちゃんに落ち着けだなんて無理よ。人は死ぬかと思えば冷静な判断はできないわ。陽子は商売柄、人の死は何度も見てきて、単なる自然現象だと思えるかもしれないけれどもね。」と知子が冷静さを失うのは当然だと助言した。
陽子は、「それって、酷いわよ。私だって患者さんが亡くなれば悲しいわよ。でも泣いてばかりいられないのよ。他にも死にそうな患者がいて、その患者を助けなければならないのよ。私はいつも帰宅して、一人で泣いているのよ。知ちゃんの命が掛かっている為に簡単に結論は出ないと思うので、みんなで食事に行かない?知ちゃん、今日の病院食はサンドイッチだったから、おいといて貰ってあとでおやつにでもすれば良いよ。ね!寺前さん、お願いします。」と寺前さんに頼んで皆で出掛けた。
次回投稿予定日は、7月6日です。