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第百八章 陽子緊急呼出の携帯に気付かず

陽子は、大学の研究室に三台のパソコンを購入しようとして、空き時間に販売店を数社訪問して検討していた。

ある販売店の事務所で、営業マンと必要なアプリケーションソフト・周辺機器・価格・納期等について打ち合わせ時に、その販売店で電灯を換えようとしていた社員が、百足に驚いて、脚立から転落し、本棚を作成する為に購入していた鉄枠数本が胸に突き刺さり重症を負った。

陽子は営業マンと商談室で商談中だった為に、その事故に気付かず、そのままショールームへ移動する為に事務所を出た。

陽子が外科医だと知っているのは、名刺交換した、ショールームへ一緒に移動した営業マンだけでしたので、陽子には知らされず、救急車を呼んだ。

救急車が到着した時には、二人共エレベーターの中でしたので、救急車のサイレンは聞こえても、まさかこの事務所だとは思わなかった。

ショールームへ移動中営業マンは、「外科医でしたら、救急車のサイレンが気になるのではないですか?」と確認した。

陽子は、「重症でしたら、近くに医師がいないか捜すでしょう。医師を捜している様子もありませんでしたので、そんな重症ではないでしょう。」と冷静でした。

営業マンは、「そんなものですか。ドラマでは、外科医は直ぐに駆け付けていますよね。」と陽子が落着いていたのでドラマと現実とは違うなと感じていた。

陽子は、「ドラマは悪までもドラマよ。私も最初医師に成り立ての頃は、救急車のサイレンが聞こえると直ぐに駆け付けていましたが、その殆どが、税金を払っているからと大きな顔で、通院する為にタクシー代わりに呼んで、“ご苦労さん”と救急車に乗って行ったとか、虫に刺されてかゆいとか、そんなのばかりで駆け付けるのが馬鹿馬鹿しくなりました。」と返答した。

営業マンは、「そういえばニュースで、救急車を呼ぶ必要もない人が呼んでいる場合が多く、本当に救急車が必要な場合に遅れる事が心配されると報道していました。そんな人もいるのですね。」等と話をしながら、陽子も救急車のサイレンが聞こえても、そんな重傷だとは思わずにそのまま営業マンとショールームへ移動した。

陽子はショールームで、営業マンの説明を聞いていると、ポケットに携帯を入れていたと思い込んでいたが、事務所に置いて来たカバンの中に携帯を入れていた事に気付いて、事務所に取りに行こうとしていた。

営業マンが、「東城さんは外科医ですから緊急呼出があるかもしれないという事ですか?大丈夫ですよ。事務所へは内線で、着信があれば直ぐに知らせるように連絡しておきますので安心して下さい。」とショールームの受付の女性に、その旨を伝え、事務所へ連絡するように指示した。

しかし営業マンは、陽子が外科医だとは伝えずに、着信があればショールームにいる陽子へ連絡する事だけを伝えた。

陽子は、そのまま営業マンの説明をショールームで聞く事にした。

丁度その頃、重症社員に付き添い、救急車で病院に同行した社員から、途中経過の報告が事務所にあった。

その社員は、看護師達の話を盗み聞きして、「看護師達の話を総合すると、重症なので当直の外科医の手に負えず、東城先生という外科の先生でないと対応できないと携帯に電話していましたが、呼び出し音がしても電話に出ずに連絡が取れないと困っているようです。」と報告した。

その報告を受けて上司も、「何故連絡が取れないのだ!呼び出し音がしているのに電話に出ないという事は、マナーモードにしているのか?携帯の近くにいないのか?」とイライラしていた。

別の社員が、陽子の携帯の着信音に気付いて上司に、「確か着信があれば、どこかに連絡するように電話があったのではないですか?」と聞いた。

その上司は机を叩いて、「五月蝿い!今、其処じゃないだろう!君は心配ではないのか!私は心配で何も手につかない!人が生死の境をさ迷っているというのに、その外科医は何をしているのだ!行き先は誰も聞いていないのか!早く電話に出てくれ!」と八つ当たりしていた。

連絡先がショールームだと聞いていたのはその上司だけでしたので、社員はどこに連絡すれば良いのか解らず、結局、陽子の携帯に着信があった事は知らされませんでした。

陽子がショールームから事務所に戻って、しばらくすると、再び陽子の携帯の着信音がして、陽子が携帯を見て、「着信があったじゃないの!緊急だったらどうするのよ!」と携帯に出た。

上司は心の中で、“何が緊急だ、こっちの方が緊急だ!人命が掛かっているのだぞ。“とイライラしていた。

陽子が、「はい、第一外科の東城です。」と話をはじめた。

上司は、「えっ!?第一外科の東城?」と陽子の言葉に目を丸くして驚いて、ショールームへ陽子と同行していた営業マンに確認すると、その営業マンは陽子の名刺を上司に見せながら、「医学部第一外科の助教授らしいですよ。」と説明した。

上司は、陽子の名刺を見て、“東城先生というのは女性の外科医だったのか。”と着信があっても、それを陽子に知らせなかった事を後悔していた。

陽子は、「急用ができたので、また連絡します。」とどこかに携帯で連絡しながら帰った。

上司は、着信があれば知らせるように頼まれていたにも関わらず、着信を知らせなかった責任もあるので心配になり、一緒に玄関まで同行した。

陽子は修がこの時間なら、この近くを覆面パトカーでパトロールしている事を聞いていて、道路が混雑していた為に送って貰おうとして連絡したのでした。

連絡を受けた修は、先輩が運転する覆面パトカーの助手席に同乗していて、現状を把握した修は、事情を先輩に説明して、丁度近くを巡回していた為に、パソコンの販売店までサイレンを鳴らして急行した。

一方、上司は、「タクシーを捕まえましょうか?」と聞いた。

陽子は、「知合いが、この時間なら近くを巡回しているので連絡しました。直ぐに来てくれるそうです。」と修が来てくれるのを待っていた。

上司は、「この混雑ですと、ここに来るまで時間が掛かります。待っているより、今ここでタクシーを捕まえた方が・・・・」と説得していると、サイレンを鳴らしながら走って来た覆面パトカーが止まり、修が窓から顔を出して、「陽子、病院まで送るから、早く乗って!」と後部座席のドアを開けた。

病院までの道路は混雑していた為に、修がスピーカーで、「緊急車両対向車線を走る。各車そのまま待て!」と繰り返しながら、車の少ない対向車線をサイレンを鳴らしながら陽子を乗せて病院まで急いだ。

その後、上司や営業マンも病院に駆け付け、手術が終わるのを心配しながら手術室の前で待っていた。

しばらくすると、手術が終了し、手術室から出てきた陽子は、「ご家族の方は居られますか?」と確認した。

社員の上司は、「今こちらに向かっています。道路が混雑している為に、もう少しかかりそうです。彼の容態はどうですか?」と心配していた。

陽子は、「一命は取留めました。詳しくは守秘義務があるので失礼します。ご家族の方が来られたら連絡下さい。」と伝えて、その場を去った。

何故陽子は手術成功だと言わなかったのかは、手術中に心停止時間が長く、脳にダメージがあり、後遺症が残る恐れがあった為でした。

社員の意識が戻り、陽子が全身状態を確認すると、案の定、後遺症は残った。左腕にマヒが残った。まだ右腕ではなかった為に、生活そのものへの影響は、右腕に比べて少なかったのですが、車や自転車の運転は、できなくなった。

その社員は退院して、リハビリの為に病院にしばらく通う事になった。

陽子は、「しばらく固定して、萎縮した筋肉を元に戻す場合には、辛いリハビリも有効ですが、あなたの場合は脳細胞の一部が死んでいる為に、快復の可能性は低いです。可能性がないとは言いませんが、気休め程度に考えて下さい。リハビリが辛ければ、いつ辞めても良いですよ。」と説明した。

その社員は、「左腕を動かす脳細胞が死んでいるのでしたら、快復の可能性はないのではないですか?今の説明ですと、可能性があるように聞こえたのですが、どうなのですか?」と確認した。

陽子は、「説明不足で御免なさいね。死んだ脳細胞は生き返りませんが、その機能を、他の脳がカバーする事もあれば、新しく脳細胞ができる事もあります。但し、これは奇跡を待つようなものです。通常は、そのような事は起こらないと考えて下さい。後は、あなたの判断に任せます。」と補足説明した。

その社員はショックを受けて、今後の生活をどうしようかと悩んでいると、陽子がそれに気付き、「急に病気や怪我で、今迄できていた事が突然できなくなり困って悩む患者が多い為に、この病院には、そのような相談に乗ってくれるコンサルタントが常駐しています。必要であれば看護師に依頼して下さい。」と説明した。


次回投稿予定日は、6月11日です。

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