第百四章 マリ、お客様の鼻を圧し折る
ある日マリが、「叔父さん、今度の週末に泊まりで沖縄に遊びに行ってきます。」と伝えました。
次郎の女房が、「良いわね。友達と沖縄旅行ですか?沖縄といえば海ですか?」と若い人は羨ましいわねと感じました。
次郎が、「沖縄の海は透き通っているらしいじゃないか。友達と一緒に遊びに行くのか?」と若い人は元気だなと感じました。
マリは、「いいえ、違うわ。先日会社で通訳したお客様から、デートに誘われたと説明したでしょう?そのお客様が私と一緒に沖縄へ行きたいと先日から誘われていて、色々と打合せして、土曜日の昼に沖縄空港で待ち合わせしました。」と返答しました。
次郎は、「そうか。受注できるかどうかはマリのデート次第だな。しかし泊まりのデートに誘うとは、お客様はかなりマリにお熱のようで脈がありそうだな。会社の為に宜しく頼むよ。」と期待していました。
女房が、「あなた、仕事の事ばかり考えずに少しはマリさんの事も考えてあげてよ。若い女性が先日会ったばかりの男性と泊まりの旅行だなんて、それも海でしょう?ただマリさんの水着姿が見たいだけじゃないですか?見るだけなら良いですが、その時に変な事されないかしら。大丈夫なの?」と心配していました。
次郎は、「そんな事を言ったら、お客様に失礼だろうが!そのお客様とは長い付き合いで変な事するような人物でないので大丈夫だ!人格は私が保証する!それにマリは軍人だからそんなスキはないだろう。」と怒りました。
マリは、“叔母さんの言うように普通、最初のデートは海ではないけれども、泊まりだと言えば保護者として止めるべきじゃないのかしら?私の事より仕事の方が大事なのかしら?だから日本人は働き過ぎだと言われるのよ。何もそこまでして受注しなくても良いのに。しかし今回のデートは射撃場で、私も空軍時代に何度か行った事のある射撃場で勝手も解っていて、あの偉そうなお客様の鼻を圧し折るのが楽しみだわ。”と土曜日の朝次郎に、「マリ、頼んだぞ。」と見送られながら自宅を出て自家用機で沖縄へ向かいました。
お客様は沖縄空港で、「多分この便で来ると思っていましたが、空港の外から来たという事は、もっと早い便で来ていたのですか?」とこの便しかないと思い不思議そうに確認しました。
マリは、「沖縄に来る方法は沢山ありますよ。例えば貨物便に客席がある事はご存知ですか?」と自家用機で来た事を誤魔化そうとしていました。
お客様は、「貨物便は貨物だけでしょう?乗れるのですか?」と貨物便に客席があるとは初耳だが本当かな?とマリを疑いました。
マリは、「トラックでも荷台に乗れば道路交通法違反になりますが、荷物を積んでいて、その荷物の見守りであれば違反になりません。貨物便も同じで貨物がなければ乗れませんが、馬など見守りが必要な貨物の場合は客席に乗れますよ。私は貨物便で来た訳では御座いませんが、方法は色々とあります。」と返答して、“沖縄空軍基地から来たけれども、それを言うと私が元軍人だとばれる可能性があり、射撃や実戦の経験があると解ってしまうと、私の楽しみがなくなるので黙っているか。”とデートを楽しみにしていました。
お客様は、「そうですか。マリさんは旅行なれしているのですか?詳しいですね。貨物便に客席があっただなんて初耳です。立ち話もなんですから、食事しながら色々と話をしましょう。腹ごしらえして、午後射撃場に行きましょうか?」と一緒に食事に行きました。
食後デザートを食べながら射撃の事を色々と自慢していた為にマリは、“そんな基本的な事は射撃の経験のある人だったら誰でも知っているわよ。食事している他の客で射撃経験のある人がいたら、きっと馬鹿にされているわね。私まで馬鹿にされているようで恥かしいわ。そんな事を自慢するとは、この人の射撃の腕前も大した事ないわね。どの程度の腕前かどうか射撃場で暫く様子を見て、射撃の腕を自慢させるだけ自慢させた後に実戦経験のある私の射撃の腕を見せたらどんな顔するか楽しみだわ。”と思っていました。
射撃場に到着して、お客様は自慢しながら、一発一発慎重に射撃して、「偶に失敗しましたが、これだけ命中すれば充分ですよ。マリさんもどうですか?玩具の銃と違い重たいので気を付けて下さいね。」とマリに射撃を勧めました。
マリは、“偶に失敗?偶に命中の間違いじゃないの?あれだけ慎重に狙って偶に命中する腕前でよくあれだけ自慢できるわね。感心するわ。実戦では、そんなに慎重に狙っていると、その間に射殺されるわ。”と呆れてマリが射撃すると命中しました。
お客様は、「まぐれで命中するとは運が良いですね。もう一度撃ってみて下さい。」とまぐれは続かないと思いました。
マリが射撃するとまた命中し、何度射撃しても命中しました。
お客様が、そんな馬鹿な!何故一度も外れないのだと驚いていました。
マリは、「こんな初心者モードで退屈だわ。連続で射撃します。」とレベルを上げました。
お客様は、「射撃の経験者で、私を指導してくれた人でも連続では数パーセント命中させるのがやっとだぞ。」と警告しました。
マリは、「そんな事はやって見ないと解らないでしょう?あなたはいつもやる前から諦めているのですか?」と射撃すると、百発百中でしたのでお客様は、えっ?と自分の目を疑いました。
「マリさん、確か日本では一般の人は銃を持てないのですよね?射撃はどこで覚えて、どこで練習したのですか?」と射撃の経験者だと解り確認しました。
マリは、「こんな事もできない人に指導して貰ったって、誰に指導して貰ったの?何でしたら、私が指導してあげましょうか?私、射撃はアメリカ軍で覚えて、戦地にて実戦で経験を重ねました。これでも実戦経験のある元アメリカ軍兵士です。退役した今でも偶に戦地に出撃していて、パイロットの私が自動小銃片手に銃撃戦の中を陸軍兵士と走り抜ける事もあります。そのような場所で、ゆっくりと狙いを定めていると、その間に敵兵士に射殺されます。」と返答しました。
お客様は、「何故そんなに簡単に命中させられるのですか?」と何かこつがあるのなら教えて貰おうとしました。
マリは、「あなたの弾丸がどちらにずれていたのかを考えると解りませんか?」とヒントを与えました。
お客様は、「その時により、右だったり左だったりするので考えても原因は解りませんが、何かあるのですか?」とマリの質問に答える事ができませんでした。
マリは、「今日は風が強いですね。弾丸も風に流されます。風の吹いている方向にずれているのですよ。命中したのは風があまり吹いていなかった時です。屋外ではなく、屋内だともっと命中率が上がると思いますよ。」と返答しました。
お客様は、「そういえばそうですね。屋内では命中率が高く、屋外では、その時により命中率にばらつきがありました。やっとその理由が解りました。私を指導してくれた人は、“ばらつきをなくすように練習して下さい。”と言うだけでその理由は教えて頂けませんでした。」とばらつきの原因について納得していました。
そこへ、お客様を指導していた人が来て、お客様に偉そうに練習の成果を確認していました。
お客様が横にいるマリの事を、連続射撃でしかも百発百中だったと説明すると、その人はマリに気付き、「芹沢教官!」と敬礼したのでお客様も驚きました。
マリは、「あなた訓練兵じゃないの。実戦経験がなく、ろくすっぽ射撃できないあなたが何故射撃の指導をしているの?この様子だと命中率にばらつきがある理由も解らないようね。私が説明しておいたから、あとで説明を聞いてあなたも練習しておく事ね。命中率にばらつきがある間は、実戦参加は無理ですね。」と警告しました。
その後、そのお客様は、マリがアクロバット飛行チームの指導教官で、鬼教官の異名を持つ凄腕パイロットである事を知り、発注を条件にマリに射撃指導して貰う事にしました。
マリは帰宅後次郎に、「お客様が発注すると仰っていましたので、気の変わらない間に早く営業に契約するように連絡してね。」と伝えました。
次郎は、「有難うマリ。早速営業に知らせるよ。」とマリは私の期待に答えてくれたと喜んでいました。
マリは、“何故仕事の話だけなのよ。私が夜中に変な事されなかったのかは聞かないのかしら?これが日本人特有の仕事人間か。”と思っていました。
連絡を受けた営業は早速お客様にアポをとり訪問して受注できましたが、その時お客様から、「御社には凄い社員が居られるのですね。マリさんに今後とも宜しくお願いしますとお伝え下さい。」と依頼されました。
営業は、何の事だか解りませんでしたが、「はい、解りました。伝えておきます。」と返答し、帰社して次郎に受注の報告後その事を伝えましたが、次郎も解らなかった為に帰宅後マリに確認しました。
マリは、「あのお客様は今射撃に夢中で、沖縄の射撃場で実戦経験のある私の射撃の腕前を見て、私が射撃指導する事が今回の受注条件です。」と返答しました。
次郎は、「そうか。そういう事か。今後システム開発するにあたって、お客様と色々と打ち合わせを重ねる必要がある為に、お客様の機嫌を損なわないように射撃指導も宜しく頼むよ。」とマリに期待しました。
マリは、「何故そこまでお客様の機嫌を取らなければならないの?」と不思議そうでした。
次郎は、「軍人は敵の機嫌を取る必要はないでしょうが、我々商売人にとって、“お客様は神様です。“とよく言われます。たとえばマージャンなどでもお客様相手の場合には態と負けて、”さすがお客様ですね。“などと機嫌を取るのですよ。」と返答しました。
次回投稿予定日は、5月27日です。




