第一章)第三十三話 カブトムシ
朝起きると、何か焦げ臭い匂いが部屋に充満していた。いや、正確には「していたようだった」の方が正しいかもしれないが、そこは少し微妙なところだな。
わかりやすく状況を説明するなら、
魔物が侵入(推測)。
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高電圧バリア(『球雷壁』)に接触。
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魔物感電。
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メイドさんが起こしに来て絶句。
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俺の張った魔法に気づいて納得。
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匂いがやばかったのでとりあえず窓を開ける。
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俺が起きる。
こんなところか。
「あ、その魔物には触れないでください。触ると感電するんで」
メイドさんが魔物を片付けようと魔物に手を伸ばしたが、魔物がまだ『球雷壁』に接触しているため、触るとそのまま感電してしまう。
俺は『球雷壁』の魔法に込められていた魔力を霧散させ、まだビクビク動いていた魔物に近づく。ちなみにまだ魔物は動いている。
俺が近づこうとするとメイドさんが割り込んできたが、軽く威圧して退かす。
「・・・ん?」
俺の威圧に反応したのかセレーナが起きた。寝起きのせいかぼけーっとしている。
俺は一応そちらにも意識を向けつつ、魔物を見る。
一見すると、昨日のGのようにも見えるが違うことがわかる。
Gが嫌われる存在なのに対して、これはむしろちびっ子たちに人気だ。
ここまで言えば大体わかるだろう。黒光りしてるけど角があるあいつだ。
つまり、カブトムシだ。
体長30cmくらいの普通よりも大きい、日本でも見られたカブトムシだ。
「おい」
意思疎通ができるかどうか試してみる。・・・そういえばカブトムシって、発声器官なかったな。ならできないか。
『・・・は、はい・・・』
いきなり頭の中に響いてきた声に少し驚く。
「『念話』か?」
『・・・いえ、自分の魔法は一方通行ですから、双方向の『念話』とは別物です』
「そうか・・・。で、俺、もしくはコイツに何か用か?」
そう言いながらセレーナの方をちらりと見ると、やっと状況がわかったのか、驚いた目でこっちを見ていた。ちなみにメイドさんも同様だ。
『はい、自分の主があなたに興味があるということで、お来しになっていただきたいと思い・・・』
「面倒だから断る」
『えッ!?』
「というか、興味あるなら自分で出向けよ。まあ、お前の主とやらが魔族なら無理かもしれんがな」
「・・・セイト君はさっきから誰と話してるの?」
どうやら、このカブトムシの魔法は俺にだけ作用しているようだな。
「このカブトムシだ」
「かぶとむし?」
そういえば、この世界にはカブトムシはいなかったな。
「この魔物だ」
「・・・その”かぶとむし”は、大丈夫なの?」
「ああ、今のところ特に俺たちに対して害意は持ってないみたいだしな」
「どうしてわかるの?」
「それはさっきまで張ってた『球雷壁』と、俺が起きなかったことが主な理由だな。といっても、セレーナは見てないからわからないか」
俺の形成した『球雷壁』は、触れた相手によって電流が変わるといったが、その基準がこちらにどれだけ害意を持っているかだ。強い殺意を持っていれば、確実に行動不能になる威力を出すし、害意を持っていなければこのように解除して十数秒程度で話せる(カブトムシの場合は違うが)ように設定してある。ついでに、相手が害意を持っていればそれに反応して俺が起きる。『計算行動』の応用で危機回避能力とか生存本能とかを無理矢理最大まで上げているからだ。でも持っていようがいまいが、ここまで近づかれたら普通『気配探知』が反応して起きてしまうのに起きなかったのは疑問だが・・・。
『計算行動』のことを伏せながらも説明するのを聞いて、セレーナは一応納得したようだ。
『あのー』
「なんだ?」
『自分はどうすれば?』
「ああ、帰っていいぞ。あと、お前の主とやらに、呼びつけられても行く気はない、って言っといてくれ」
『・・・はい、分かりました・・・』
なんとなく、疲れた感じを出しながら窓から飛んでいこうとするカブトムシに、そういえば、と聞く。
「お前の主って、なんて名前だ?」
それに対してカブトムシは、
『気になるなら付いてくればわかりますよ』
と、答えて飛んでいった。
一瞬、追おうか迷ったが、別にそこまで気になることでもなかったので、俺は風魔法を使って少し残っていた焦げ臭い匂いを部屋の外に排出した。
・・・そういえば、窓も開いてなかったのにどうやって部屋の中に入ってきたんだ?




