第1楽章〜フルートの『朝』
『この事は・・・・誰にも言わないでください・・・・』
委員長は、僕にそういって出て行っちゃった。
どうしてだろう・・・ピアノ、かっこいいのに・・・・。
「楽譜・・・・・何の曲?」
僕は委員長が忘れていった楽譜を見た。
「グリーグの朝かぁ・・・・僕も吹いてたっけな。」
僕は小学校の時に、フルートを吹いていた。
だけど、みんなに「女の子みたい」って冷やかされて、やめちゃったんだ。
僕はなんだかその気になって、押入れに押し込んでおいたフルートを引っ張り出した。
「こんなに小さかったっけ・・・・・」
僕が大きくなったからか、フルートがやけに小さく見えた。
そして、そっと口を近づけて、『朝』を奏でていた。
「あら?」
夕食の準備をしていたお母さんが、僕が吹いていることに気付いて、1度手を止める。
「あの子がフルートを吹くなんて、何年ぶりかしらね。」
「似合ってたのに、勿体無いよね。」
お姉ちゃんとお母さんは意気投合したかのように、二人して僕のフルートを聞いていた。
・・・翌日・・・
「おはよう。」
「お、おはよっ!まこ。」
そう、僕の名前は山下 真実。通称、まこ。
「今日も小さいなぁ。」
がしがしと頭を振り回してくるこの男は、友達の永田 弘毅。
同じ中学だったんだ。
ちなみに、偶然か、僕と同じ小学校の人は、学年に1人もいないんだ。
ちょっと、ラッキーだよね。
「なぁ、まこ。その包み、なんだよ。」
あっ、委員長の楽譜・・・返さないとね。
「これ、委員長のなんだ。昨日、忘れてっちゃったから。」
「ふ〜ん。」
「委員長。」
「あ・・・山下君。おはようございます。」
「お、おはよう。あの・・・・これ・・・・」
「何ですか?」
委員長は包みから楽譜を取り出して、はっとしたようにすぐに閉まった。
当然、弘毅は訝しげな目で見ていたけど、そんなに知られたくないのかな。
「あ、ありがとうございます。」
「いい曲ですよね。」
「えっ!?」
僕が耳元で小さく囁くと、委員長は本当にびっくりしたような顔で僕の顔を見ていた。
そして、少し悩んだ風な表情をして、僕の手を握った。
「え?」
「今日も来ていただけませんか?」
「別に、構わないけど・・・・。」
「・・・よかった・・・・では、放課後。」
チャイムが鳴って、僕と弘毅は自分の席に戻った。
弘毅は僕の後ろの席で、いっつも話しかけてくる。
「なあなあ。」
「何?」
「あいつと、何かあったのか?」
「別に、なんもないよ。」
「何もなかったらそうはならないって。」
「本当にないんだって。」
「ならいいけど。変わってるよなぁ、楢崎 鏡夜って。」
楢崎 鏡夜・・・学級委員長。
同じ学校の人が、いないらしい。何でも、高校だけ東京なんだって。
僕は、委員長が何者でも構わなかった。
ただ、あのピアノがもう一度聞きたかったんだ。




