竜騎士ジェイド編・二話
それは5日ほど経ってからの事である
メルトの城下、郭の北東の海岸というより海の上、一応陸続きではあるが半月湖の先端の島のような所にそれは建っていた
「なんだか王族か貴族でも住んでそうな屋敷だが‥同時に魔族が住んでそうでもあるな」
ジェイドは屋敷の開けっ放しの外門を抜け正面玄関に辿り着く。些かに戸惑ったが大きすぎる扉を強めにノックしてみるが、反応は無い
1分程待ち、再び叩いてみるがやはり反応は無い
しかたないので扉を開けてみようと引いてみるが鍵も掛かっておらずそのまま開いてしまう(どういう家なんだここは‥)と思いつつも入ってみる
一階から2階まで吹き抜けのホールに本来なら鏡のように映りこむであろう高級な石の床に壁だろうが手入れがされているという感じはあまり無く、埃が積もり鏡の変わりに使うのは無理そうだ、がらんとしたホールに無駄に古美術品レベルのソファとテーブルがぽつんと置いてある
「だれかいないか?」
声を投げてみるが反応したのはそのソファで丸くなっていた黒猫だけだった。猫はこちらを見てトテトテと歩いてジェイドの足元まで来ると顔をじっと見上げてくる、何だか人間の様な行動に可笑しくなりつい猫に話しかけてしまう
「お前のご主人様はどこだ?お前が飼い猫かはしらんが」
猫は数秒ほどジェイドを見上げていたが、飽きたのか、理解したのか右側にある階段に向かいソレをぴょんぴょんと昇っていく。ジェイドはそれを見届けていたが 黒猫は立ち止まり顔だけ彼の方を向けて「ニャー」と鳴く
「ついて来い‥てか?」
他にアテもないし馬鹿馬鹿しい気もしたが、猫について階段に向かう、黒猫もそれを見て再び階段を上っていく、着いた先は2階の奥部屋、これまた扉は半開きで猫はいつものことのように部屋に入り、まあいいかと間を取ってからジェイドも部屋に入ってみる
猫は「ご主人様」がまだ寝ているベッドに上がりこみ顔を前足でつついていた。全体的にだらしない、というのが率直な感想だ 時間は昼過ぎ、部屋は物が散乱しているし掃除をしているという感じは受けない
部屋の隅におそらく入っていたのは酒であろう空瓶が多数並べてあり、寝ているご主人様は最初に会った時の服のまま寝息をたてており猫に起こされている始末、不思議と「汚い」という感じはしないが、あまりの惨状に溜息が出る
「んあ?」とようやく彼女が目を覚ましたのは黒猫に口の中に片方の前足を突っ込まれてからだった
あくびをして伸びをしてまるで何事も無かったようにジェイドを見つけて普通に挨拶をしてくる
「おや、おはよう。来るの早かったね」と
皮肉のひとつも言いたい所だが、マリーのあまりの動じなさぶりにそんな気も失せてしまい普通に返す
「おはよう、という時間でもないが、おはよう」
「いくら呼んでも返事が無いから、悪いとは思ったが上がらせてもらったぞ」
「ああいいよ、ちゃんと猫が出迎えただろ?それよりそこの棚のワインくれない?」
「その猫はメイドの代わりかよ‥」
といいつつ頼まれたワインではなくあえてグラスに水を注いで差し出し、特に不満を言う事もなくマリーはその水を飲み干す
「ワインね」とグラスを差し出す
「二度寝されては困るんだが‥」
「頼むから風呂入って、飯食って起きてくれ」
「あたし匂う?」
「酒臭い」
「じゃあ、湯と食事の用意お願いね」
「俺は客人なんだが‥猫メイドに頼んだらどうだ」
「餌は分けてくれるけど、湯とか掃除はしてくれないね。餌もねずみだし」
「それは狩りの成果を見せに来ただけだろう、第一ねずみ食うのかお前は」
「とってきてくれるのは有難いけど流石に食わないねぇ‥」
「他に使用人は?」
「あたしと猫しか居ないよ?」
「もういい分かった、厨房と風呂はどこだ」
「一階正面右奥2部屋」
「あと着替えろ、その服5日前も着てたぞ」
と言うが早いか、部屋を出て一階に向かう、禅問答のようなやり取りが時間だけを浪費すると悟った
20分ほどしてマリーの部屋に食事が運ばれた。微妙に嫌そうにもそもそ食事に手を付けるが、それを食べて数秒考えて明るい表情になる
「へー、美味しいじゃない。貴方才能あるよ,家事の」
「一人が長いからな、普通には出来るが」
「んーけど、うちって食材あったっけ?」
「道具は揃ってるが食材はじゃがいもと硬くなったパンとチーズしかなかったな。しょうがないから先日酒場で買った煮豆と干し肉を戻して使った」
「ま、街に居る以上保存食なんて食わんから丁度いいが」
「使い道が出来てよかったね。あんたもちゃんとしたご飯もらったし」
と横で肉を貰って、うにゃうにゃ云いながら食べる猫に同時に話す
「火を使ったついでに湯も沸かした、風呂にも入れよ」
「うん」
もしゃもしゃ食べながら返事をする。ジェイドはその返事を聞いてから
「俺は外を見てくる、終わったら声を掛けてくれ」
「うん」と、またもしゃもしゃ食べながら返事をする




