表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/90

千穂とネム①

「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡きこ、聞こえてくるぅ……!自己組織化の音ォ……!」


夜の研究室に、ネムの歓喜が響き渡る。


自己組織化の音なんて聞こえるかよ、と思いつつ、俺はその声を右から左へと受け流す。いちいち反応していたら、身がもたない。


……というか、普通にエロいからやめてほしい。なんかクセになりそうで、ちょっと怖い。


マニュアルとにらめっこしながら、ネムの解説を受けつつ、研究室の設備を一つひとつ確認していく。


※※※


『お兄様? そろそろ寝られては? 明日も学校ですよ?』


オリガミの声で、ハッと我に返った。


気づけば、かなりの時間が経っていた。父さんが遺したものだと思うと、つい夢中になってしまったらしい。


折り紙以外でここまで集中するのは、俺には珍しいことだ。


「ふぁー……ネム、俺そろそろ寝るわ。ネムはどうする?」


「ワタシは夜型だからな! まだまだやるぞ!」


ネムは元気だ。


「そっか。おやすみー。布団はネムの部屋に置いといたから。適当に広げて寝てな」


「わかった。ありがとな!」


ネムは振り向きもせず、手を動かし続けている。目をキラキラさせながら。


その様子を見て、俺は静かに笑った。


ああ、ネムは本当に、こういうのが好きなんだな。なにかに真剣になってる人間って、輝いてるよな。


そんなことを思いながら、俺は研究室を後にした。


部屋に戻り、部屋着のままベッドに潜り込む。目をつむる前に、オリガミに一言かける。


「オリガミ、ネムのこと、よろしく。おやすみ。」


『はい、お兄様。おやすみなさい。いい夢を。』


俺は目を閉じ、眠りについた。


※※※


ピピピピピピッ!


目覚ましのアラームが、容赦なく鳴り響く。


……朝が来たようだ。少し経っても、まぶたが重い。昨日は遅くまでやりすぎた。寝不足だ……頭がぼんやりする。


『お兄様、あと10分ほどで、千穂さんが来られますよ。』


「うーい……」


寝ぼけた声で返事しながら、俺は布団を蹴飛ばして飛び起きた。制服に着替える。洗面所で顔を洗う。パンをトースターに放り込む。


体が完全に覚えたルーティンで、俺は朝の支度をこなしていった。


※※※


ピーンポーン。


インターホンが鳴った。千穂が来たようだ。


まだ朝食の途中だった。


「ごめん千穂、まだトースト食べてるとこ。上がって待ってて」


俺はインターホン越しにそう伝えた。


ガチャッと玄関の扉が開く音がして、千穂が入ってくる。トコトコと廊下を歩く音。続いて、ガチャッとドアが開き、千穂がリビングに入ってきた。


千穂は俺と目が合うなり、にっこりと言った。


「しょうちゃん、おはよう! 今日、ちょっと遅かったね?」


「おはよう。うーん、昨日の夜ちょっと調べ物しててさ。寝るのが遅くなっちまった」


千穂はダイニングテーブルの向かいに腰を下ろし、ニコニコしながら俺を見つめてくる。


「そんなに見るなよ。恥ずかしいって」


「えー? しょうちゃんが食べてるとこ見るの、好きなんだよね」


そんなときだった。


※※※


「ういー、徹夜してしまったー。眠いぞー」


ネムがリビングに入ってきた。髪はボサボサで、目の下にはクマ。顔もどこかやつれている。


「お、正太郎?いい匂いがするな?トースト、ワタシにも焼いてくれよ。食べたら寝るよ」


「えー、面倒くさい。そこにパンとトースターがあるから、勝手にやってくれ」


ネムとそんな会話を交わしていた。


※※※


ふと気づくと、きょとんと目を見開いて固まっている千穂の姿が目に入った。彼女は、ネムを呆然と見つめている。


なんだ? どうした?


様子がおかしいと思い、俺は千穂を観察した。


「あ、あわわわわわわ……」


ついには声を出し始め、肩を震わせ、頬がみるみる赤くなっていく。


「しょ! しょうちゃん! だ、だれ!? この子、だれ!?」


だれって……ネムのことか?


お? お? あれ? これ、マズいんじゃないか?


状況によっては、中学生を家に連れ込んでるように見えるぞ。いやいや、ネムは中学生じゃない! 誘拐じゃない!


「ゆ、誘拐じゃないぞ! ネムは成人してる!」


思わずガタッと立ち上がり、俺は千穂に向かって叫んだ。


「ちがうよ!そういうことじゃないよ!」


……そういうことじゃないらしい。


じゃあ、どういうことだ?


※※※


ネムがようやく千穂に気づき、そちらに顔を向ける。そして、にぱっと笑って言った。


「む? キミが千穂ちゃんか! かわいいな! さすが千穂シリーズのモデルだな!」


「バ、バカ!」


千穂シリーズは極秘だ。余計なこと言うな。バレたら没収されるだろうが。俺は慌ててネムの口を手で塞ぐ。


「や、やめろっ! 正太郎っ! むがむがっ!」


ネムはジタバタと暴れながら、俺の腕を振りほどこうとする。


そんな騒がしい俺たちの様子を、千穂はただ呆然と見ていた。そして、ついに、声を震わせながら言った。


「あ、ああああ……新しい彼女さん……? しょ、しょうちゃん? 彼女できたの?」


「はあ?」


思わずポカンと口を開けてしまった。千穂は何を言ってるんだ?


※※※


そこで、俺の手から逃れたネムが、全てを理解したかのように言った。


「ん? ああ、なるほどなるほど。ははーん。千穂ちゃん、それは違うぞ」


「ワタシと正太郎は、恋人とかじゃないぞ? もちろん、エッチもしていない。今日からワタシはここに住むことになるけど、正太郎は共同研究者みたいなものだ」


「きょ、共同研究者?」


「そう、共同研究者」


……ああ、理解した。千穂の反応、ようやく理解した。寝起きで頭が働いていなかった。千穂は、俺がネムと、そういう関係になったと思ってるわけだな?


でも違う。俺とネムは、目的を共にする、ただの共同研究者だ。


ネムに説明してもらえば、誤解もすぐにとけるだろう。こいつは見た目中学生でも准教授で天才だからな。そういう処世術もお手の物のはずだ。


「そう。だから、安心しなよ」


ネムが満面の笑みで言い放つ。


「それに、昨日、抱いてくれって頼んだけど、拒否されたから!」


余計なことを!


※※※


その瞬間、千穂はピタリと止まった。口を開けたまま、ポカーンと硬直している。


「千穂!」


名前を呼びかけても、千穂は動かない。ピクリともしない。そこだけ時が止まってしまったかのように、微動だにしなかった。


俺は、なんてことを言ってくれたんだと頭を抱えながら、千穂に駆け寄る。


「おい千穂!千穂!しっかりしろ!」


肩をガクガクと揺すっても、反応はない。


「千穂ぉ!」


千穂ちゃん大丈夫かと思う方は、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ