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ネムのムネ

ネムのヒモになった俺とオリガミ。


研究室から出た俺たちは、ネムが住むことになる部屋の掃除をしていた。ヒモのパトロンには、まず奉仕からだ。


ネムの新しい部屋は、長いあいだ使われていなかった空き部屋だ。もともと一軒家で二人暮らし。さらに父もいなくなった今、家には空き部屋がいくつか残っている。


※※※


その中の一つをネムの部屋とした。本人の希望通り、研究室の一番近い位置にある空き部屋だ。


理由を聞いたら、「近いほうが楽でいい」と、あっさり返された。相当なめんどくさがり屋か、それとも効率重視の合理主義者か。まあ、ネムだし、どっちもあり得る。


床を拭きながら、ふいにネムがオリガミに声をかける。


「そういえば、重要なことを聞き忘れてた。なあ、オリガミ?オリガミのAIとしての目的って何だ?」


少し間をおいて、スピーカーからオリガミの声が聞こえてくる。


『私は、管理者、つまりお兄様の幸せを報酬に強化学習を行っているAIです。目的となると、お兄様の幸せですね。』


「なるほど…なあ、やっぱり、正太郎の大切な人間であれば、オリガミにも大切にされるのか?」


『はい。ほぼ、そのとおりです。お兄様の大切な人間が幸せになれば、お兄様も幸せに感じますので。』


「やっぱり、そういうことか。ふふふふ……」


※※※


「正太郎?欲しいものはないか?」


「え?欲しいもの?」


「なんでもいいぞ。なんでも。うーん、ゲームでも服とか靴でもいいぞ。あとは…そうだっ!」


※※※


「正太郎、私のこと抱かないか?」


※※※


信じられないことを言われた気がした。


「は?」


「いや、だから、私のこと抱かないか?」


「え?え?な、なんで?」


「私も、正太郎の大切な人間になって、オリガミに大切にされたいんだよ!」


酷い理由だった。


「もちろん、上から下まで、全部、初物だぞ!それに、幼い見た目してるけど、胸だけはすごいんだぞ。ほら?」


そうして、バサっとブカブカのパーカーをめくりあげる。なかには体にフィットした無地のシンプルな黒いキャミソール。


だが、そこには熱く主張するものが存在した。


※※※


すげぇ。見た目中学生なのに、胸だけ妙に大きい…エロ漫画のキャラかよ…


俺の目はその体に釘付けだった。正直、たまらない。抱きたい。男子高校生のリビドーがうずく。


しかし、しかしだ。


千穂が…今は恋人ってわけじゃないけど、千穂が悲しむ気がする。アイツを泣かせるのは嫌だな…


うん。駄目だ!駄目だ!不健全だ!この件は棚あげだな。


※※※


「やめろぅ!その魅力的なものをしまえぃ」


そう言って、必死になって、ネムの胸から目をそらそうとした。だが、自分の身体なのに、言うことを聞いてくれない。まずい、体が期待しちゃってるのか?


「オ、オリガミ?ネムに、なんとか言ってやってくれ!」


『お兄様?抱いてあげれば良いのでは?お兄様も、発情してらっしゃいますよね?各種センサーより、そう判断しております。』


『ネムさんを抱いちゃって、スッキリすれば幸せになれますよ?』


「くっ!あいかわらず倫理観がイカれてやがる!」


どうやら、助けはないようだ。うう…っ!触りたい!嗅ぎたい!うずめたい!


「ほほーう、やっぱり発情してるかあ?この胸がすきなのかぁ?身長が低い子がすきなのかぁ?」


パーカーをめくり上げたまま、じりじりとにじり寄ってくる。


※※※


ぐっ。ネムが近寄ってくる。やばい、やばいぞ。俺のリビドーが破裂寸前だ。


千穂の顔を思い出せ!悲しんでる千穂の顔を、リアルに想像するんだ!


むむむ……泣いてる千穂、泣いてる千穂……許せん!


よし!体が動くようになった!


ここは戦略的撤退しかない。急ごう。また、すぐ動けなくなるかもしれない。


部屋を出た後、どこに行くかは決まっている。重要な決断の前は冷静にならなければいけない。俺は前かがみになって、慌てて部屋を出た。


「ちょっと、トイレ行ってくる!」


※※※


諸行無常。色即是空空即是色。


穏やかな心を取り戻した俺は、ネムとの話の場にもどってきた。彼女はすでにパーカーのすそを下ろし、いつもと変わらない姿に戻っていた。


「やあネム、抱く抱かないの話は、また今度ということで」


スッキリした顔で俺は言う。さっきまで熱くなっていた部分も、今は静かに鎮まっていた。


「堂々とした賢者化だったな。見事なドーパミンコントロールだ」


意外にもネムには関心された。トイレで何をしてきたか、全てバレてるか。そりゃそうか。


でも、毎夜、自慰行為までオリガミにモニタリングされてる俺だ。トイレでのマスターなんたらがバレようが、屁でもなかった。


※※※


その後は掃除も終わり、俺達はリビングに戻ってきていた。


デリバリーでとった昼食を食べた後、ネムはリビングのソファに寝転んで、俺は床に転がっている。


ネムは仰向けで転がっており、パーカーがはりついて胸の大きさがよく分かる。ぐっ。落ち着け俺。色即是空空即是色。


天井を見上げながら、ネムは何やら考え事をしていた。そしてボソリと呟いた。


「研究室の機能とかオリガミ維持の仕組みとか、しっかりと理解しとかないとな…」


その言葉にうなずきつつ、俺も思ったことを口にした。


「ああ、前に塩基が枯渇したとき、身にしみたよ。研究室の場所もわかってなかったし、塩基供給の意味すら理解してなかった」


「あとで、もう一回、研究室に下りないか?ちょっといろいろ調べてみたいんだ」


「いいね。折り紙以外のことは疎くてさ、教えてくれると助かるよ」


※※※


俺たちは、再び研究室に降りてきた。ネムはまっすぐ正面を見据えながら、おもむろに口を開く。


「さてと。まずは研究室の構造だな。一つひとつのパイプやケーブルが、どんな意味を持ってるか把握しないと」


あ、そうだ。こういうの、オリガミならきっと全部わかってるはず。


「オリガミ、研究室の機能のマニュアルって、ネムに送れる?」


すぐに、研究室のスピーカーからオリガミの声が返ってくる。


『簡易的なものでよろしければ可能です。ネムさんのスマートフォンに送信しておきます』


「お、それは助かるな!」


ネムがスマホを取り出しつつ、小さくうなずく。早速マニュアルが届いたようだ。


「オリガミ、俺にも送っといて。俺が理解できるバージョンで頼む」


『わかりました。お兄様。』


俺も、ちゃんと勉強しとかなきゃな。オリガミとネムに頼ってばかりじゃ、カッコ悪い。


※※※


オリガミからマニュアルを入手した俺たちは、それに沿って、一つひとつ設備を確認していくことにした。


「じゃあ、やるか」


前に踏み出したその瞬間、背後からネムの声が飛ぶ。


「何が起きるかわからないから、いじるときは、オリガミと相談しながらやれよ?正太郎が適当になにかスイッチを押したら、オリガミが消えることだってありえるんだ」


不意に背筋が伸びる。そうだ、オリガミは一度壊れたら、戻ってこないかもしれない。ここは、気をつけすぎるくらいがちょうどいいだろう。


「ああ、そうだな。気をつけなきゃ。でも、ネムも気をつけてくれよ?人ごとじゃないぞ?知的好奇心で暴走して、我を忘れたりしないでくれよ?」


「わ、わかってる……で、でも、そうだよな、オリガミは唯一の存在だもんな。バックアップもコピーもできない。ワタシも下手に周りを触れないな…」


少し声に力がなくなったネムが、研究室の配線を見つめる。そのとき、オリガミのいつもの穏やかな声が届いた。


『私は常時監視していますので、問題が起きそうなときはすぐにお知らせします。もちろん、疑問があればいつでもお聞き下さい』


オリガミのその声に、ネムは少しだけ表情を明るくした。その様子を見ていたら、なんだか茶化したくなってしまった。


「『おほおおぉぉぉ♡』と言った拍子に、オリガミ壊さないでくれよぉ?」


「くっ!ワタシはそんなこと言わないぞっ!」


※※※


うんうん、自分の姿を正直に認めるっていうのは難しいよな。


俺も…折り紙やりながら「おほおおぉぉぉ♡」とか言ってないよな?大丈夫だよな?

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