千穂爆釣伝説とナンパ男たち
光学迷彩のお披露目が終わった後、オリガミがこちらに話しかけてきた。
『お兄様、ハチガミの学習準備、ありがとうございました。』
「いやいや、マジですごいものを見せてもらったよ」
ハチガミの光の演出も光学迷彩も、本当に見事だった。
『これからの話ですが……ハチガミを100体ほどこのAI学習フィールドに残していただけますか?引き続き学習を続けます。』
『残りの100体は、いつでも展開できるように、イヌガミやトビガミへの配備をお願いいたします。』
半分を学習に、もう半分を俺たちの防衛に使ってくれるってことか。
「ああ、わかった。じゃあ、この段ボール箱に、持ち帰り用のドローンを入れてくれ」
『はい、お兄様。』
ドローンたちが順番に俺の広げた段ボール箱に入っていく。この箱、1つで20体くらい入りそうだな。
数個の段ボール箱に自動的にドローン100体が箱詰めされていくのを眺めていると、オリガミが声をかけてきた。
『あとは、私とよいこ軍団で対処できそうなことばかりですので、お兄様たちは自宅に戻られても大丈夫ですよ。』
どうやら、俺たちの出番は終わりらしい。
さて、帰るか!
※※※
「AI学習フィールド」での用事が全部終わったので、俺たちは帰路につくことにした。
とはいえ、まだ午前中の早い時間だ。このまま家に直行するにはちょっともったいないだろう。
そんなことを考えていると、ネムと目が合う。二人とも同じことを考えていたようだ。ニヤリと笑って、無言のうちに意志疎通を交わす。
「正太郎、例のアレ、行くぞ!」
「ああ、ネム。行くか!」
俺たちのやりとりを見て、千穂が首をかしげて不思議そうに尋ねてきた。
「しょうちゃん、ネムちゃん、どこ行くの?」
俺とネムが同時に親指を立てて、千穂に向き直る。
「「釣りに決まってるだろ!」」
※※※
そして今、俺たちは「AI学習フィールド」から車で20分ほど離れた場所にある管理釣り場に来ていた。
目の前には、まさに俺が想像していた通りの光景が広がっていた。
「わぁ!また釣れたよ!」
「なんでだよ!なんで千穂ちゃんばっかり釣れるんだ!」
千穂は次々と魚を釣り上げ、その隣でネムは悔しそうに歯を食いしばりながら涙目で竿を振っている。
つまり、爆釣する千穂と悔しがるネムだ。
小さい体で必死に竿を振るネムが一匹釣る間に、千穂はほんわかした様子のまま五匹くらい釣ってしまう。
千穂……なんだか上達してない?どうして?
「千穂、もしかしてこっそり釣りに行ったりしてない?」
「え?行ってないよ?最後にしょうちゃんのお父さんたちと一緒に来たのが最後かな?」
……殺気か?やっぱり殺気なのか?父さんが言っていた通り、千穂には殺気が全くないから魚が警戒しないのか……?だからバンバン釣れるのか……?
「なあ、オリガミ。なんで千穂ばっかり釣れるんだ?理由わかるか?」
俺はオリガミが、この現象をどう分析しているのか気になり、尋ねてみた。
『不明です。ネムさんと立ち位置を入れ替えても、竿を取り替えても、千穂さんだけがたくさん釣れています。不思議ですね。何故でしょうか……?』
オリガミにも理由は分からないようだ。だがその時、ふと俺の脳裏にある話がよぎった。
「いや……ちょっと待て。オリガミ『月のうさぎ』って話、知ってるか?」
『はい。道に迷った旅人に何も与えられなかったウサギが、自分で火に飛び込み身を差し出したという話ですね。その旅人が神様だった、と。』
「そう。もしかしたら、魚たちも自分の身を千穂に捧げてるんじゃないか?つまり、千穂は神……?」
確かに、千穂は神レベルに可愛い。神と言っても過言ではないのかもしれない。
そんな俺の発言に対して、オリガミが呆れたように返事をする。
『はあ……。そうですね、お兄様。もし千穂さんが神なら、私も神のなり方を教えてもらったほうがいいかもしれませんね。』
そ、そんな冷たい声出さなくても……冗談だって……
※※※
そんな楽しい時間を過ごしていた時のことだ。
千穂が爆釣しているのを見たのだろう。三人の男が近づいてきて、千穂に声を掛ける。
「ねえねえ、キミすごい釣ってるね。コツとか教えてくれない?」
3人組の大学生らしい男たちは、いかにも今どきという感じのおしゃれな服装をしているが、どことなく軽薄な感じだ。
一人目は背が高くて、明るめの髪をワックスで立たせている。自信たっぷりに顔をニヤつかせている男。
二人目は中肉中背、黒縁メガネで知的に装っている男。
三人目は少し小柄で、無造作ヘアにキャップを斜めにかぶり、パーカーにダボパン。にぎやかに千穂へ質問を投げかけている男だ。
「え、いえ、特にないです……」
千穂は戸惑い顔だ。
「あれ、よく見たらキミ、めっちゃ可愛いね。ね、一緒に釣りしようよ?」
……ナンパか。千穂は可愛いから、声をかけられるのも無理はないが……こんな釣り場でナンパ?
「いえ、婚約者と来てるので」
「婚約者?後ろにいるあの冴えない奴?俺たちと釣ったほうが絶対楽しいって!」
うーん、そんなに俺って冴えないかな……?毎回、言われるよな?
そんな男たちの言葉に、千穂は少し怒ったような顔になった。あ、コレ千穂を泣かせてしまった、東堂の時と似た感じだ……。
「違うもん!しょうちゃんは、冴えなくなんかない!かっこいいんだから!」
だが、前と違い、俺はすぐにその場に割って入る。これまでは、様子をうかがって動くのが遅れがちだったが、今度は千穂を泣かせない為に即行動だ。俺も学習する男なのだ。
俺は大きな声ではっきり三人に言った。
「そうだそうだ!千穂の言う通りだ!俺はかっこいいんだぞ!」
「いやいや、さすがにそれはないでしょ?彼氏くん、嫉妬してる?俺はW大生だぜ?将来有望よ!」
W大…?俺の知り合いは東応大学ばかりだぞ。まあ、俺は高卒だけどな!
「ふっふっふ。俺は高卒だけど、そこにいるネムは某最高学府の特任准教授さまなんだぜ。どうだ?すごいだろ?」
「何でお前がそんなに自慢するんだよ……。あんなお子様が最高学府で准教授?そんなわけないだろ?」
男の一人が俺を無視して、千穂に声を掛ける。
「ねえねえ、こんな男のことほっといて、俺たちと一緒に釣りしようよ?そのあとドライブも行こうぜ?俺の車、すごく快適だよ?」
「しょうちゃんの……っ!」
千穂が怒って何か言いかける。俺はそっと千穂の背中を撫でて、落ち着かせた。千穂に話させてはいけない。悲しませてしまう。
「俺の車のほうがすごいぞ!なんとキャンピングカーだ!お前の車なんて、どうせ夜は脚を伸ばして寝れないだろ?車の格が違うんだよ!キャンピングカー、ほとんど家だぞ、家!」
「お前、うるせーんだよ。黙ってろよ、低収入!」
「そうそう、俺たち高学歴だしな。大企業のインターンもやってるし、間違いなく高収入になるって!」
「なあ、俺たちの方が将来性あるぜ?乗り換えちゃいなよ?」
そんな事を言う連中をキッと睨む千穂。
「しょうちゃんが……っ!」
そして、千穂がまた言い返そうとするが、俺は肩を軽く抱き寄せて止める。千穂はなにも言わなくていい。俺が受けて立つ。
「バカお前ら、親のすねかじりめ。俺の収入は桁違いだぞ。年収ウン億なうえ、会社もいくつか持ってるし、資産はシャレにならんぞ?」
「嘘ばっかり言ってんじゃねーよ!」
「なあキミ、こんなホラ吹きほっといて、俺たちと遊ぼうぜ!」
ずいっとナンパ男たちが前へ出てきた。
※※※
ふっふっふ、ついにこの印籠を出すときが来たか。
俺は、こちらをニヤニヤしながら見ているネムに目配せをする。
ネムは愉快そうに小さく頷き、俺の隣に歩み寄って来る。
そして、まるで舞台役者のように胸を張り、俺の名刺をバッと前に掲げ、声たかだかに宣言した。
「控えい!控えおろう!この名刺が目に入らぬか!」
じゃーん、じゃじゃじゃじゃじゃじゃーん、じゃーん♪
どこからともなく、あの有名な御老公の音楽が流れてくる。これは予想外だ……もしかしてイヌガミタイプが光学迷彩で隠れて音楽を流しているのか?
「このお方をどなたと心得る!天下のドールハウス代表取締役、藤崎正太郎様であらせられるぞ!」
「ものども!代表取締役様の御前である!頭が高い!控えおろう!」
ネムはすっかりノリノリだ。本当に楽しそうだな、こいつ。
突然始まった芝居にナンパ男たちはうろたえている。
だが、俺とネムが言った事が徐々に脳内に浸透していったのだろう、三人が集まって小声でコソコソと相談を始めた。
「お、おい。俺、聞いたことあるんだけど……ドールハウスの社長って高卒の男だったよな?」
「ドールハウスって年商数百億の会社だろ?もしこいつが本当にその社長だったら、俺たちヤバいんじゃ……」
「よく見ると、自信満々だし……嘘じゃない気がしてきた……」
「しかも可愛い女の子二人も連れてるし……」
「な、なあ。今のうちに頭下げといたほうがよくないか?」
「あ、ああ。嘘かもしれないけど……も、もし本物だったら取り返しつかないぞ」
「それな。俺もそう思う」
「よし、この流れに乗るしかねえ。これが最後の生き残りのチャンスかもしれん。気合い入れるぞ。この芝居に乗るぞ!」
三人は顔を寄せ合ってコソコソ相談しているが、オリガミの集音機能のおかげで、こちらには丸聞こえだったりする。
「「「はは〜」」」
そして、膝をついて、ナンパ男たちは一斉に土下座した。
即座に土下座するとは……なかなかの判断力だ。プライドを捨てる回路を持ってるな。うまく生きれば出世できそうな連中だ。
「おぬしら、W大の学生であったな?ナンパそのものは自由だが、嫌がっている相手にしつこくするのは間違いである。ましてや婚約者がいると言っている相手に強引に迫るとは言語道断!」
そして、俺はビシッと言い放つ。
「お前たちには、強引なナンパの罰として、10時間のボランティア活動をするよう大学に伝えておく!追って沙汰を待つがよい!」
「「「は、はは〜!」」」
「安心しなさい。きちんとボランティアに励めば、経歴に傷がつかないように配慮してやろう」
そんな俺の言葉に、ネムが元気よく叫ぶ。
「正太郎様の温情に、感謝せい!」
「「「は、ははは〜!仰せのままに〜!」」」
ネムの顔はもうニッコニコだった。
※※※
土下座する三人を前に、俺はなりきり御老公の止め時が分からなくなっていた。
「これにて一件落着!ファッファッファ!」
仕方がないので御老公のマネを続けていた。……これ、どうやって終わらせたらいいんだろう。
千穂は口を押さえて笑っている。
「ふふふっ!しょうちゃん、おもしろい!」
「そちたち、もう面を上げてもよいぞ。そしてこれからは人に迷惑をかけずに生きていくがよい」
「「「はは〜〜」」」
俺の言葉に、一度顔を上げ、また地面にひれ伏す三人組。
千穂はとうとう耐えきれなくなったようだ。
「しょうちゃん、その言葉遣い、もうやめて……!ふふふっ!わたし、限界!おなか痛いよっ!」
しゃがみ込んで、肩を震わせながらお腹を抑えている。
でもまあ、千穂が笑顔ならうまくいったということだ。
そう、どんなに相手を強引に言い負かしても、やさしい千穂の笑顔が曇ってしまっては意味がない。
暴力なんてもってのほか。早瀬さんに出てもらったって空気がギスギスしてしまうだけだろう。
だから、このくらいの相手なら、俺が自分の口と肩書きと財力を使って、面白おかしく応戦するのだ。
この旅行を、最後まで楽しく終わらせるために。
※※※
――そして。
YuuTubeで投稿された「ドールハウス高卒社長の御老公なりきりズバーン」という動画がバズったのは、その翌日のことだった。
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