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雨とリュック

君の心にある渦の話をしよう。私はその渦の状態を知っている。

私の知っている人なんだがね、35歳独身男性を例に取るよ。その人が話すには……


ある日朝起きるとなにかが足りない気がした。胸にドーナツの形をした穴が浮かんでいた。いやおかしい、前まではこの穴はなにかが入っていてこんな空洞はなかったはずである。思い出そうとしても全くだめだ。このドーナツ型の筒は金属質で所々黒く、ドロドロとしている。そして内側から外側へとうごめいていた。そしてその穴に何かを埋めるとその蠢きをとめることができるようだった。きっちり埋まる何かがあったはずである。いや、穴を詰めるものは今まで本当に存在していたのだろうか?どこかに逃げてしまったのだろうか、それとも今まではあると信じていただけなのかもしれない。しかし私はこの社会に存在している。もし穴の詰め物がこの世に存在してなかったとしても私はこの社会に置いてけぼりになるわけにはいかないのだ。


私はスーツという透明マントをかぶり電車に乗る

そして会社に着くと私は仕事をし、仕事も仲間から透明マントを黒く塗りたくられる。


さて、私将来の家族の話をしよう。今の私が作れる現実的な家族の話を。

家族と孤独は距離がある言葉であるが、思い出してほしいあなたは家族の中で孤独を感じたことはないだろうか?家族は子供の父親と子供の母親から始まる。そしてその子供は親も子供だったということをいつか認識する。母親はいつ母親になり、父親はいつ父親になるのか。そう要は父親になるまでに父親ポテンシャルを持っておかないといけないのだ。


そう自分に言い聞かせ、ドーナツの穴の中には今後できるはずの家族をいれる代わりに取りあえず、自分を入れてみる。ドーナツの穴に比べていささか小さいが、これが大きくなってドーナツの穴を押し広げ、家族を穴な押し込まなくてもいいように準備しようと決める。

ハルキはここで話を止めた。

ところがこの人はその渦を抜けられずホームレスになったんだよ。間違いはどこにあると思う?


僕はハルキの言葉を何度も頭の中で繰り返したが、見つからなかった。心の中に自分を入れてしまったことかな?


うん、私はそうだと考えている。とハルキは言った。その人はこう考えるべきだった。

"""

私は未来のあなたの辛みや悔しさ、たまらない気持ちを受け止める準備をしよう。

そして私は胸の中の穴を未来の希望という霞で埋め立てることに成功した。人は自分の中に外部との関係性を持って置かなければ折れてしまうんだよ。自分の中に直接自分を入れてしまうと、自分に同情してしまう。これは落ちる先まで落ちてしまう。自分をそこに入れてしまうと際限がなくなるからね。つまり、外部との関係性を頭の中に仮想的に作るんだよ。

そうすると君は君が好きになった人に見せられない生活を送ろうとはしないはずだ。

"""


……まあそんな感じかな。ハルキは口を閉じた。

僕はその言葉を心の中の切れ端とうまく結びつけるられないかと試行錯誤した。なるほど意外と難しい。

僕の心の中はこうだ。

"""

歌が上手くないと歌うことも許されないのだ

そして言語が話せないと海外に行くことも許されない。知識がないと好きな仕事に就けない。どこまでも広い形をしているくせに、行けるのはこの部屋の端から端まで8m、面積21m^2の中が僕の世界である。そして、それが僕がここにいることを形として示すすべてである。


爆発しない爆弾は物質に過ぎない。誰の心にも爆弾が宿っていたとして私達はそれを物質としてみるしかないのだ

隣人愛は要求されても愛を受ける権利は私にはないのだから。

"""

なるほど君はホームレスにならずに自分はだめな人間だと言って自分の頭の中から抜け出す方法を一つ思い浮かべることができるだろう。そしてそれは君の愛した彼女と同じ道を歩むことになる。君はそれが終わりだと知っているが自分に同情してしまった時にはその理性は意味を持たないだろう。


ハルキの言葉に対して僕はすぐに反論した。

いや、そんな事はないだろう。君はそんなことを言っているが僕はその理性を保っている。僕は一度自分が死ぬのではないかと思ったことがある。何の病気でもなさそうなのに、食後はすぐに戻して、血を吐いたこともあった。胃カメラをしても何も見つからなくてね。その時にまだ無知なままで死ねないと思ったんだ。それは所謂僕は時間さえあれば何だって出来るんだという事を自分に言い聞かせていたみたいにね。しかし、実際は3ヶ月たった後、吐き気がだんだんと収まってきて内臓の調子も戻ってきた時に、知識をつけようとなんて思えなかったわけだ。僕は時間が有限だと知ったら急にもったいなく思う人間なんだ。大丈夫さ。


ハルキはニコッと笑顔をした後口を開くと

さぁ、外への扉を開けてご覧よ。別に君が成長したことに変わりないんだからさ。

と言った。

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