旅支度
「さて、こんなものかのう」
今月分の返済を終えた翌日、ルーベンスは旅支度を進めていた。
目的はアルトロの治めるアルガン王国への交渉。
アルガン王国で保護されているダンバルカン王国の難民を村の労働人口として確保するため、再び王国に戻る。
「支度は出来た?」
ルーベンスの様子を確認に来たリラ。
帰郷のパートナーとして全ての事情を知る彼女を護衛を兼ねて彼は選んだ。
「これでどうかの?」
「もう少し食料を増やした方がいいわね。
それと防寒対策もしっかり施した方がいいわ」
「そ、そうか」
ルーベンスに対してあれこれと指導するリラ。
王子時代、彼も外交などで各地を移動していたが、寒村の民として遠出をするのは初めてであり、老体であることも相まって念入りに準備するように教える。
「ところで、アンナはどうしている?」
「傭兵団の設立に向けて、見込みのありそうな人たちを訓練しているわ。
といっても、あの程度じゃ長くはもたないわね」
「やはりそうか…」
リラの言葉に表情を曇らせる。
開墾と高単価の交易によって食料事情が解決しつつあるとはいえ、街の人たちと比べて食べられる食料の量も質も悪い。
王子時代に将軍から教わった「体作りは豊かな食事から」という言葉がよみがえる中、やはり簡素な食事を摂りつづけて来たここの村人たちでは競合相手と比べてどうしても分が悪くなる。
「一応、サポート職としてなら何とかなりそうだけど、肝心の戦闘要員がいないんじゃ話にすらならないわ」
「見込みのありそうなのを仲間に入れるしかないかの」
「できたばかりの貧乏傭兵団に来るかしら?
来るとすれば…冒険者にすらなれない三本線の重罪人くらい?」
「き、危険じゃの…」
「重罪人といっても、事情はそれぞれよ。
軽微な罪が重なったものや止むを得ない事情で罪を犯した者、えん罪の人だって探せばいるわ。
実際、貴方の時もいたでしょ?そういうの」
「そ、そうじゃのう…」
俄かに表情が暗くなる。
いかに優れた統治者とはいえ、神ではない。
ルーベンスンが治めていた時も国民の中には貧困の苦しみから窃盗や強盗殺人、王政への反乱が起きたこともあった。
「のう、リーヴェル」
「どうしたの?急に」
いきなり裏の名前で呼ばれことに驚く彼女。
「何故、そなたは今の仕事を続けられるんじゃ?」
自らの手で命を奪う暗殺者。
命が消える様子を見るだけの事でさえ心が苦しくなるというのに、なぜ彼女は自らの手で命を奪い続けられるのか?
その疑問を正面から問いかける。




