謁見
「朕がアレハンドロ帝国皇帝、マーダルネス=エイリアス=アレハンドロ三世である」
帝都にそびえる巨城、ヴァルマン城の謁見の間に立派な髭を生やした皇帝の声が響き渡る。
無数の防衛兵器と万を超える衛兵に守られた帝国の象徴に入城したアルトロ達は、用意された衣服に着替えて皇帝と対峙した。
謁見の間の左右端には立派な衣装をまとった二百人の衛兵が謁見の様子を見守っており、彫像のように微動だにせず立っている。
「アルガン王国、国王のアルトロ=アルガンでございます。
皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しく」
儀典長から教えられた通りの作法で壇上の皇帝に挨拶を返しながら、婿としての姓を名乗るアルトロ。
「面を上げるがよい、用件は復興資材の提供か?」
「は、さすがは陛下でございます」
「終戦以降、諸外国から復興の支援要請が帝国に届いておったからな。
結論から言えば、貴国の要望に応えることは難しい」
申し訳なさそうにアルトロの要請を断る。
「理由は察してくれているとは思うが、当国はすでに七か国の復興支援を行っておる。
その中にはダラッド公国やダンバルカン王国など、貴国とも仲のいい国家も含まれる。
確かにアレハンドロ帝国は資源が豊富ではあるが、それでも無尽蔵にあるわけではない。
それに帝国も国境を中心にかなりの被害を受けておる。
自国民を犠牲にしてまで、他国に尽くすことはできない。
先々代よりの付き合いは承知してはおるが、分かってほしい」
「…承知いたしました」
皇帝の言葉に、しぶしぶ首を縦に振る。
ここで下手に食い下がって相手の機嫌を損ねようものなら外交関係が悪化しかねない。
帝国と王国の国力差は象と蟻のように大きく、皇帝の言葉一つで軍事侵攻によるアルガン王国の滅亡を招きかねない。
「だが、先代とのよしみだ。貴国の役に立つ情報についていくつか教えよう。
復興に向けた動きが活発になったことで建材や食料の需要が急激に高まりつつあるのは認識しているな?」
「はい、高騰を予知した悪質な商人たちがそれらの品を買い占めているとか」
「度し難いことだ。
彼奴らは目先の利益のために罪なき民たちを不幸にする。
そこで帝国は彼奴らの行為を厳しく制限し、違反者は厳罰に処することにした。
具体的には、帝国の認めた者以外による建材や食料などの必需品の仕入れを禁止し、違反したものは最高で死刑にする。
また、販売する値段は一定の額以内に収めること。
無論、事態が改善されればこれらの規制を解除することも検討する」
「既に手を打たれておったとは、さすがは皇帝陛下でございます」
「窮状につけ込んで暴利を得ようとする輩が現れるのはよくある話だ。
帝国と同じにしろとまではいかぬが、貴国もこれを参考にするが良い」
色艶の良いあごひげを撫でながらそう述べる皇帝。
「次に、ダンバルカン王国についてだ。
彼の国は先の大戦において勇敢に戦ったが、その代償として著しく兵を損耗した。
それ故に国土を守る兵が足らず、賊徒やモンスターに好き放題にされておる。
一応、冒険者を使って対応させてはいるようだが、玉石混交。
専門職と比べるとどうしても質に劣る。
さらに一部の地域に至っては統治者が不在で荒れ放題になっておる」
「そのようなことになっていたのですね」
皇帝の言葉に相槌を打つ。
無論、そんなことは百も承知だ。
だからこそ先代の追放先にダンバルカン王国の僻地を選んだ。
ろくな統治もされず、戸籍も管理されていない彼の地ならば王族が平民に紛れ込んでいたとしても自分から明かさない限りは気づかれることは無いし、『不慮の事故』があったとしても何らおかしくはない。
「さて、アルトロよ」
ゆっくりとアルトロに近づく皇帝。
「朕は貴殿の冒険譚が聞きたい。
晩餐会の用意をさせるゆえ、そこでじっくりと話を聞かせてくれぬか?」
「は、仰せのままに!」




