復興への課題
「黒天の龍の脅威は無いと…そうか、それはよかった」
盛夏の王国。
王城の執務室でアルトロは諜報部の長官から渡された報告書を受け取り、一読。
記されたアルジャーノ村の現状にアルトロはほっと胸をなでおろす。
「黒天の龍はアルシャラの街で冒険者となったようですが…監視を続けさせますか?」
「いや、必要ない。引かせろ」
「承知いたしました」
国王に一礼して下がる諜報員。
パタンと扉が閉ざされ、静寂が包む。
「さてと…」
机に積まれた書類を手に取り、目を通す。
そこには農政や経済、軍務相などの大臣が戴冠式の日からから今日までにまとめてくれた王国の現状がつらつらと記されている。
侵略者によって荒らされた耕作地や戦災で故郷を失い、隣国から押し寄せてきた大勢の難民。
戦没者への弔慰金の用意や国境を守る砦や関門の修復など、国内だけでも課題はたくさんある。
その上、戦後の混乱による周辺国の治安の悪化やそれに乗じた賊徒の出没による高価な交易品の強奪、戦争で橋が破壊された事による交易路の寸断など、アルガン王国の農業や経済面において大きく悪影響が及んでいる。
一方で魔族相手に戦力の消耗を恐れた先代が大規模な出兵を渋り続けていたために正規兵は多くが健在であり、自国の防衛だけでなく、外交の一手として隣国へ派兵することも可能である。
「まずはどれから取り組むべきか」
書類を片手に王城から城下街を見下ろすアルトロ。
円形の広場では集まった人々を相手にクランが聖歌を高らかに歌い、人々を励ましている。
宝玉の一件で喧嘩をしてしまったクランではあるが、それでも聖女として、戦災に苦しむ民草のために自身の役目を全うしている。
コンコンコンと扉がノックされる。
「入ってよいぞ」
「失礼します」
開いた扉に顔を向けると、そこには二本の角の生えた魔族の女性であるシャラヴェル。
金の模様が入れられた黒いローブをまとった彼女は人類に戦争を仕掛けた魔帝ヴェルギウスの娘であり、自ら手に掛けた父親の首と自身の身命を引き換えに帝国民の保護と終戦を願いアルトロ達に降伏した。
『敗者は勝者に従う』の考えを持つ魔族達。
戦争末期、敗戦が近づく中で人間に従うのを良しとしなかった徹底抗戦派が多数を占める中、同胞から『裏切者』のそしりを受ける覚悟で彼女は父を斬った。
しかしその事実は伏せられ、公式には「魔帝を討伐した際に捕らえて贖罪のために働かせている」と伝えられた。
これはアルトロ自身の権力基盤を強固にするためのほか、魔帝国との和平を維持するために必要な人質としての彼女の価値を少しでも保つ為である。
シャラヴェル自身は次期魔帝としての英才教育を受けていたため優秀ではあるが、魔族ゆえに人間の常識や倫理を持たず、アルトロ達の手を焼かせている。
「まずは陛下に御報告を。
ミルト平野の交易路で商人を襲っていた賊徒三十七名を捕らえました。
犯罪を抑制するための見せしめとして、王城前広場での公開処刑を提案いたしますが、いかがいたしますか?
斬首、釜茹で、火あぶり、凌遅刑…何なりと御命令ください。
個人的には時間をかけて行う凌遅刑を推奨いたしますが…」
魔剣の柄頭をなでながら、恐ろしい内容を淡々と口にするシャラヴェル。
「殺す必要はない。懲役刑にしろ。今はどんな労働力でも欲しい」
「仰せのままに」
片膝を付いて、王の命令を承諾する。
「ところで、君は政治に明るかったな?
君が国の復興に取り組むとなれば、何から始める?」
魔帝ヴェルギウスより次期皇帝として育てられていた彼女に政治のアドバイスを求める。
「国家のすべては道から始まります。
道がなければいかなる物流も途絶え、大国とてたちまちのうちに干からびてしまいます」
「わかった、なら手始めに交易路の修復を行おう」
「承知いたしました、それでは賊徒の件が片付き次第、資材の手配を行います」
そういってお辞儀をすると、彼女は黒い光に包まれて姿を消した。
ヴァリア曰く、彼女の行使した魔法は瞬間移動を行うものらしく、膨大な魔力を使う性質上、人間では使用することが不可能らしい。
「さて、働くとしよう。豊かな国づくりのために」
煌めく魔法の黒い残滓を視界に収めながら、アルトロは筆を執る。




