溜息
「はーあ…」
夜のバーに仕事帰りのリーヴェルのため息が響く。
「どうした、いきなりため息なんかついて。何かあったのか?」
ジョッキ片手に尋ねるアーサー。
「アンカラのことよ。あの子ったら私の忠告を無視してモンスターの討伐依頼ばっかりこなしているのよ。
この傷を見せてまで警告したのに、あのバカドラゴン」
袖をまくって愚痴るリーヴェル。
「まあ、他人は思い通りには動いてくれないからな」
「人と言っていいのか怪しいけどね。マスター、コーヒーミルクのお代わりをお願い」
再び注がれるコーヒーミルク。
「それにしても色々と不安だわ。今日だって昇級試験とかで貧弱な装備でダンジョンに挑もうとしたらしいし。
あの子のパートナーが何とか止めてくれたみたいだけど」
「若気の至りってやつか。俺にもそんな時期があったな」
「私よりもずっと年上よ、あの子」
「若さに年齢なんて関係ない、心が若ければいつでも若者さ」
ハハハと言って酒を口に運ぶアーサー。
入口の扉が開き、後ろからランハルが来る。
「あら、久しぶりね」
「お久しぶりです。隣、よろしいですかな」
リラとアーサーに恭しく挨拶。
隣に座ると、ワインをオーダーする。
「建材を?」
「はい、気温の低下に備えて建物の改修をしたいとの事で、五千セレカ分の建材をアルジャーノ村に運ぶことになりました」
「五千セレカ...ああ、あのお金ね。
でも不安ね。建材が高騰しているいま、大量の建材を運んだら賊に狙われないかしら?」
「護衛をお願いできますか?」
「いいわよ、その代わりに、ね?」
「ええ、もちろん依頼料は支払いますよ」
「交渉成立ね。そうそう、私の知り合いも護衛に付けるわ。
無鉄砲な馬鹿だけど、賊相手なら十分に戦えるわ。
マスターお会計」
代金を支払って外に出ると、そこにはコノハの姿。
リラと別れて以来、行くあてのない彼はランハルの護衛を務めて各地を往来している。
「久しぶりね、息災だったかしら?」
「ああ、呪物集めも好調だ」
不気味な紋章の入ったネックレスを見せながら、リラに応える。
曰く、廃墟となった教会から拾ってきたらしい。
「罰当たりなことをするわねぇ」
もはや奇行ともいえる彼の行動にあきれるリーヴェル。
こんなのに命を預け続けるあたり、ランハルもいい度胸をしているのかもしれない。
「ところでそのネックレスの紋章、どこかで見たことがあるわね。
確か...」
「ラグナース教だろ?
村人を生け贄にして邪神をよみがえらせようとした邪教」
「そう、それ。
昔にそこの教祖を仕留めたことがあったわ。
って、なんでそれを知っているのかしら?」
「これに書かれていた」
取り出した一冊の黒い本。
表紙にはラグナース経典と記されている。
「今すぐに焼きなさい。禁書だから持っているとろくな事にならないわ。
というか、結構しゃべられるようになったのね」
「宣伝とかの商売の手伝いをさせられてな」
「それはよかったわね。ところで、腕は落ちていないわよね?」
「街中で切りあうつもりか?」
「ただの確認よ。なまくら剣聖のせいで積み荷が奪われたら困るもの」




