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毒蛇討伐依頼

「ペータ、毒蛇を狩るぞ!」

 翌日の冒険者ギルド。

 宿舎で朝支度を終えたばかりのペータにアンカラが毒蛇ことモンスターの討伐依頼書を突き付ける。

 曰く、バルドン荒野でヴェノムサーペントと呼ばれる十数匹の毒蛇が確認され、領主直々に討伐依頼が来たらしい。

「あ、あの…昨日リラさんから言われましたよね?」

「ハ、あんな狼女の言う事なんか知らん!

 分かったらさっさと行くぞ!」

 困惑するペータの返答も待たず、鉄剣を腰に差して意気揚々とギルドを出る。

 関所に向けてずんずん進むアンカラ。

 その後ろをペータが慌てて追いかける。

「あ、アンカラさん、せめて解毒薬を買っていきましょうよ!相手は毒蛇なんですから!」

「安心しろ、それなら支給品として受付から渡された奴がある。

 いざとなったら使え。

 毒の効かぬ我にはいらん物だ」

 歩きながらヴェノムサーペント用の解毒薬を渡す。

 青い色の薬品が入った、小さな五本の瓶。

 経口摂取式で、噛まれたらすぐに使用する必要があるという。

 近くの店で携行用の食料を買い、関所を抜けて荒野へと向かう。

 黒く焼けた土や魔法による爆発孔などの戦役の痕跡の残るアスリー平原を、行き交う人たちと挨拶を交わしながら歩く。

 荷車いっぱいの商品を載せた交易商とその護衛に子連れの親子。

 すれ違う人すべてがアンカラの容姿に二度見している。

「そ、そういえば、今回は目的地に行く前に領主様に挨拶をするんですよね?」

 休憩がてら、岩に座って依頼書を開き、詳細を確認する。

 書類によれば、任地は領主の私有地であり、立ち入る前に領主に対して正式な手続きが必要だという。

 その代わりに報酬は良く、ギルドからの評価査定も期待できる。

「不安か?」

「は、はい…とっても」

 アンカラを横目にそう呟く。

 気弱な自分自身もそうではあるが、自信満々なアンカラの方が領主に対して無礼を働いてしまいそうなことに、どうしても不安が拭えない。

 下手をすればギルドを追い出されるだけでなく、手打ちもあり得る。

「お前、我に「粗相をしそうだ」と思っているだろ?」

「…はい。正直」

 心中を言い当てられ、素直に白状する。

「安心しろ、さすがに我とて場はわきまえる」

「…」

 アンカラの言葉に(本当かな?)と疑念を覚えつつも、ペーターは休憩を終えて再び進みだす。

 三時間ほど歩くと、複数のテントが建てられた休息所が見えてくる。

 先の大戦で破壊された宿泊施設に代わり、近隣の街が共同して設けた休息所。

 エリアの中には商人や冒険者たちが複数人おり、ちょっとしたコミュニティになっている。

「いらっしゃいって、貴女でしたか」

 そこにいたのは交易商人のランハルとその護衛であるコノハ。

 冒険者相手に商売を行っているようだ。

「お前、あの時の…」

 ランハルに牙を向くアンカラを慌ててペータが諫める。

「まあまあ、落ち着いてください。

 皆さんが見ていますので…」

 泰然とした態度。

 冒険者を相手に商売をしているだけあって、肝が据わっている。

「とりあえず、何か買っていきますかな?」

「…そうだな、ヴェノムサーペント狩りに向いたものはあるか?」

「ヴェノムサーペント相手となれば、解毒薬は必須ですね」

「それなら既にある。他は?」

「おびき出すために腐った肉がお勧めですね。

 臭いがひどいので取り扱っておりませんが、捕獲のための網なら販売しております。」

 後ろに並べられている商品の中から大きな網を取り出す。

 持ち手のついた大きな網。

「腐肉におびき寄せたところをこれで捕まえられます。

 後は、これですね」

 箱の中から、粘り気のある白い液体の詰められた瓶を取り出す。

「これは?」

「ナメクジの溶液です」

「な、ナメクジ?」

 まさかの代物に、ベータが後ずさる。

「蛇系のモンスターはナメクジ系モンスターの溶液を苦手としております。

 捕まえたヴェノムサーペントにこれを振りかければ、たちまちのうちに絶命させることができます」

「そんな方法があるんですね…」

 思いがけない知識を吸収しつつ、二人はクエストに向けて商品を購入した。

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